漢、工場長
昨日はとても楽しかった。
空と一緒に行った夏祭りで、空と一緒に入れたことが何よりの思い出。今思い出してもにやけてしまう。
「ほら、にやにやするな。これをあっちに運べ」
今はバイト中。空の会社でバイトしている俺は倉庫で品物を運んだりしていた。
空がいる本社とは少し距離があるが、遠いというほどでもない。この工場は機械がたくさんあって工場っぽいと思う。
「わかりました」
段ボールを持ち上げる。
中に何が入っているのかわからないがとても重い。俺は重い段ボールを指定された場所まで運んでいった。ここはたしか材料……。この中に入ってるのは材料なのか。
ここで作ってるのはお菓子。この中はじゃがいもとかそこらかな?
「ふぅ」
俺が一息ついているとどこかから話声が聞こえる。
「お前、ここで俺がさぼってること言うんじゃねえぞ」
「わかったな?」
この段ボールの奥から聞こえてくる会話。
さぼり?
俺はそーっと覗いてみると、なんだかひ弱な男子高校生が二十代半ばに見える男性に絡まれていた。なるほど。さぼりか。
俺が注意するべきなんだろうが、触らぬ神に祟りなし。俺がやれることは一つだ。
工場長に報告すること。俺は、音をたてないように工場長のとこまでいき、耳打ちをした。俺自身ではやらない。こういうときは偉い人に叱ってもらうことが一番である。
すると工場長はそいつのところに向かっていき、そしてそいつが叱られていた。
ざまあ。労働なき富はダメですよーってね。
「久太くーん」
と、工場入り口を見ると空が手を振っていた。
俺はそれにこたえるように手を上げる。
「久しぶりに工場に来た気がするよ。はい、久太くん。今日は弁当作ってきたから一緒に食べよ」
「そうだな。あともう少しでお昼休憩になるからそれまで待ってくれ」
腕時計で時間を確認するともうそろ十二時を上回りそうな時刻になっていた。
「おやおや、空さん。お久しぶりです」
「あ、高畑さん。お久しぶりです」
工場長も空の存在は知っているらしい。
高畑工場長は空を上から下までじっくりと見ている様子だった。
「それにしても、成長したなあ……。私が最後にあったときはこんな小さかったのに」
と、工場長は腰に手をやる。
小学生くらいか……。となると結構前だな。
「高校に入る前までは東京にいましたし、なかなか会える機会もありませんでしたしね」
「君清さんとは結構あっているんだけどね」
「父さんは社長ですし打ち合わせとかいろいろありますからね」
と、話していると先ほど叱られていた男が空に近寄った。
男は空をじっと見つめ、何かを選定するようにみている。人の彼女をじろじろと見られると少しムカッとしている。
くっそ……。さぼり魔が空を見るんじゃねえと叫びたい。
「なんすか? こいつ。工場は関係者以外立ち入り禁止でしょ。こいついれちゃっていいんですか」
「この子も関係者だから大丈夫だ。ほら、お前は作業をしろ。さっきまでさぼっていたんだからその分やりなさい」
「こんなやつバイトにいないでしょ。なのに関係者とか……。もしかして工場長の娘ですか」
「本社の社長の娘だ」
「どうも。西園寺 空です。よろしくお願いします」
「社長の!?」
「いいからお前は作業に戻れ。でないと空さんに君のことを伝えるからな」
「申し訳ございません! 直ちに作業に戻りまっす!」
と男は去っていった。
「で、空さんはなんでここに?」
「えっと、久太……小鳥遊くんに弁当を……ですね」
「小鳥遊に?」
「は、はい」
空は顔を赤らめた。照れている様子の空に俺もちょっと照れてしまう。改めてこういわれるとなんだか照れるな……。
俺らの顔を見て気づいたのか、工場長は少し笑っていた。
「はは。青春だね。私にも昔そういうもどかしさがあったよ。じゃあ、小鳥遊君は早めに休憩入っていいよ。彼女さんと仲良くしてね」
と、俺の肩をたたき、
「それにしても、空さんにも春がきたんですね。末永く幸せが続くよう私も願ってますよ」
と、空の肩も叩いた。
お、漢だ……。工場長かっこいい!!




