マイナスの人間①
空を怒らせた失態。
俺は、会長のところに相談しに行っていた。すると、意外なことに会長の家には臼田先生が来ていた。どうやら知り合いらしく、楽しそうに会話をしていた。
「ふむ。喧嘩した……というより西園寺が怒ったと……なるほど」
「仲直りしたいんですがどうしたら……」
「それは謝るしかないだろう。自分の意志を持って謝ることが大切だ」
「自分の意志をもって?」
「ああ。人から言われて謝るのと自分の意志で謝るのは違うからな」
たしかに、そうだ。
人に言われて謝るのは心地よくなる気はしない。それは自分の非を認めていないけど、とりあえず謝っておくみたいに感じられるからだろう。
わかっている。謝ることが必要だってことは。
「西園寺が怒るのは意外だったのか?」
「私も小さいころから一緒にいますが怒ったところは見たことがないですね」
「それはそうだろうな。西園寺はマイナスの人間だ」
ま、マイナスの人間ってなんだろう。
「この世にはプラスマイナスが存在する。マイナスは自分の気持ちを押し殺している者を指し、プラスは自分の気持ちを愚直に吐き出している者のことを指す。西園寺は思い切りマイナスにいるんだ。嫌な気持ちも受け止めて、自分の気持ちを言えないでいる。それがマイナスの人間だ」
なるほど……。空は自分の気持ちを押し殺すのか。
あの時、空の気持ちはどんなんだったんだろう。たぶん、態度に現したことよりものすごく怒っていたのかもしれない。
「ただ、人間は怒りという感情が存在する。誰にでもな。マイナスの人間は怒らないというわけではない。マイナスの人間も自分の気持ちを押し殺すことができなくなる時がある。どうしても妥協できない時が存在する。西園寺は妥協できない時が今なんだろう。だから、妥協させるな。西園寺に」
空を妥協させない。
そのためにはどうしたらいいのだろう。空の気持ちを受け止める必要がある。俺は空の本音はあまり聞いたことがない。空自身が自分に押しとどめるというのもあるのだろう。
俺も、俺自身に妥協は許さないで、空に聞いてみよう。
「……今から空に会いにいってきます」
「そうだな。今行くのがいいだろう。行ってこい」
俺は臼田先生の後押しを受け四之宮家の隣にある空の家に向かっていった。
「ほんと、ためになるこというんですね」
「私の主観でしかないがな。愛というのは人によって主幹が変わる。自分自身が主人公といわれているがそのようなものだ」
「というなら私も主人公なのですね」
「そうだな。誰もが主人公と謳うなら四之宮 佳子も、西園寺 空も、小鳥遊 久太も、私も、だれもが主人公と言えるよ。ただ、物語の面白さは、主人公によって違うがね」
「臼田先生はつまらない物語ですか?」
「まさか。つまらないというのも個人の主観だろう。私は私の物語は面白いと思っているよ」




