静かな怒りをぶつけました
講義を聞きに講堂に来ると、だれもいないはずの講堂から高笑いが聞こえてきた。
はーっはっはっはと聞いたことのある声の高笑い。俺は、その高笑いを聞かなかった振りをして中に入る。高笑いをしていたのは梵さんだった。
「誰だ! 妾が張った結界の中に無造作に足を踏み入れる不届き者は!」
「俺だよ……」
「小鳥遊か。汝よ、契約を携帯しろ。契約を勝手に解除するではない」
「どういう意味だよ」
契約を携帯。つまり、何かを持ち歩けということか?
そして、契約を解除。これらが何を指しているのだろうか。全然見当もつかない。やっぱ解読は不可能なのだろうか。
これ以上考えても仕方あるまい。俺は真ん中の席に位置を取った。
「いいから座れ」
「汝の命令とあらば仕方あるまい」
梵さんは俺の隣に腰を掛けた。
いつも梵さんと吉祥さんと村上さんは俺の近くに座る。女子からも嫉妬されているとか。
俺の隣は空くことはない。吉祥さんと村上さんと梵さんの誰かが必ず俺の隣に座るからだ。なぜなのかは知らないが、断る理由もないし座らせておく。
と、誰か来たようだ。
「うーわ。また隣に座ってるよあいつ。イケメン好きなのがまるわかりなんだよ」
「たまにはあたしらにも隣座らせろってな」
女子怖いな! 聞こえるように陰口を言っている。明らかに梵さんに向けていったようだ。
その梵さんは俯いていた。
……もしかして、傷ついた?
俺の予測があっていたのか、梵さんは無言で立ち上がる。
そして、俺から距離を取った。それを見ていた女子はチャンスと、俺の隣に座ってくる。
「小鳥遊くん。初めましてだよね。私は稲川 今日子だよ」
「あ、今日子ずるいぞ! あたしは……」
……なんなんだこいつら。
ちょっといらってきたぞ。梵さんに悪口をいってどかせておいて、媚びを売るなんてお前らが言っていたこと、そのままブーメランとして帰ってきてることに気づかない。
あーあ。俺の友達の悪口を言って、どかせて媚びを売るのが楽しいのか。
「小鳥遊君。講義終わったら暇? は、話したいことがあるんだけどぉ」
「……暇じゃない。俺はちょっと用事がある」
俺はいらってきたのでこいつらとはあまりかかわらないようにした。そのためには傷つければいい。
傷つけるのは厭わない……というわけじゃないが、傷つかないと、いくらでも俺によってきそうな雰囲気で。傷つけることしかできない。
「そうなんだー。残念」
「なかったとしてもお前らとは絶対行かねえけどな」
「……え?」
「な、なんで?」
「決まってるだろ。俺の友達の悪口言って隣から追い出したろ。それは許したくないな。俺は友達を大切にしたいんだよ。悪口を言うやつなら願い下げだ」
俺としても低い声を出せたと思う。
俺の静かな怒りを受けた二人はそそくさと去っていった。
と、今度は俺の隣に吉祥さんと村上さんが座る。
「おっすー!」
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
俺は挨拶を交わした。




