性格の悪い社長①
俺は社長室に訪れていた。
社長室の君清さんは普段、俺があっている君清さんとは違い、ものすごく、近寄りがたかった。空でも近寄るのをためらっている。
「お父さん。久太くんが来ました」
「ああ。久太くん」
と、君清さんの雰囲気が変わった。普段通りの雰囲気となる。
切り替えが早い。これも必須スキルなのだろうか。
「久太くん。うん。なんだか久しぶりの気分だ」
「まあ、一か月くらいはあってませんし」
「そうだな」
君清さんは笑う。
「で、私が君を呼んだのは簡単な理由だ。学業の調子はどうか聞きたかっただけだよ」
「大学の話ですか。今のところはわからないところもありませんし、順調ではいます」
「そうか。君はあたまがいいんだな」
「要領がいいだけですよ」
「どっちでも構わないさ。さてと。これから会社内を見て回ろうと思ったんだけど、久太くんも来るかい?」
「あ、いきます」
君清さんは立ち上がる。
スーツの上を羽織りネクタイをびしっと決めると、ついてこいといって社長室を後にしていた。俺と空もついていく。
エレベーターに乗り、まずは受付から見て回るようだった。
「えーっと、調子はどうだ?」
「調子はだいじょ……って社長!?」
「なぜここに!?」
「視察だよ。働いているか私が直々に見に来たんだ」
これ、見られる方は緊張して仕事にならないだろ。なんて思ったけど伏せておく。
でも、明らかに緊張している。出さないようにはしているけれど、笑顔が固いぞ。
「君清さん。無駄に緊張させてませんか?」
「これもテストだよ。たまに気を引き締めさせなければならないからな」
「お父さんって性格悪いよね」
「……久太くん。私って性格悪いか?」
十分悪いけど性格悪いといったら傷つきそうだな……。
「いえ、性格悪いというのは空の冗談だと……。そんな真に受けなくてもよろしいですよ」
「だ、だよな。よかった」
というか娘に嫌われたくないなら性格悪いようにしなければいいのに。
つづいて経理とか行っている場所。
デスクに向かいパソコンのキーボードを打つ音と叱られている声だけが響いていた。その声の主を見てみると違うデスクに座り、部長と書かれた札を前に置いている人が部下を叱っていた。
「どれ、水を差してやろう」
君清さん。その発想が十分性格悪いです。
君清さんは近づいていく。
「まったく、君はこの表を作ることはできないのか! なんて無能なんだお前は!」
「すいません! すいません!」
「まったく……。君はこの会社の足手まといだよ。他の職探したらどうだ。君には向いて……」
「そうか。教育不足だったか。それはすまなかったね本田部長」
「そうです。社長の……」
そういって本田部長は気づく。
そして、恐る恐る後ろを見ると、そこには怖い笑顔の君清さんが立っていた。俺が本田部長だとすると軽いホラーだ。
「しゃ、社長! い、いまのは」
「わが社の足手まといだとか、君は何を言っているんだ? 自己紹介か? 部下にも自己紹介を怠らないとはあなたはすごいな」
本田部長は脂汗を掻いていた。視線が泳ぎ、言動もしどろもどろになっている。
「本田部長。あとで社長室に」
「は、はい……」
本田部長は意気消沈としていた。
その様子を見ていた俺と空は顔を見合わせる。そして、大きく叫んだ。
「「性格悪っ!!」」




