ラノベ主人公③
俺が髪を拭きながらリビングにいくと、みんな勉強を再開していた。
女子たちは黙々と目の前の問題に取り組んでおり、男子は離れてゲームをしている。そして、なんだか感じられるのは……悪い雰囲気。
先ほど喧嘩があったみたいな、そんな感じの雰囲気を醸し出していた。
「……いつになく険悪なんだがなにがあった?」
「うーん。小波くんたちが禊さんと口論をしてね……」
「口論? 原因は?」
「些細なことだよ。雑巾を置いて、適当に拭いて、そのまま洗濯籠になげようとしたら禊さんに当たっちゃって」
ああ、それで口論になったのか。
たしかにコーヒーとかオレンジジュースを含んだ雑巾が顔に当たるのは嫌だもんなあ。臭いし。そりゃ怒るわ。故意ではないにせよ怒る。
「で、小波くんたちが笑っちゃったから口論になったんだよ」
ああ、なるほど。
俺ら何かあったらまず笑うからなあ。悪いことがあったら大体笑う。身内の不幸じゃない限りは笑い話にするから、笑ってしまったのだろう。
非モテ集団時代の名残が喧嘩を呼ぶとは……。
「久太くん。私としては雰囲気悪いのは嫌だからなんとかしてもらえないかな」
「わかった。するよ。俺としても嫌だし」
俺は禊さんに近寄る。
禊さんは不機嫌そうにこちらを見てきた。
「ごめんね。隆たちが」
「……なんであなたが謝るの?」
「隆たちは俺の友達だし、それに、あいつら俺がいないとダメだし」
後ろで「久太氏……!」とか感動を堪えている言葉が聞こえる。
「……わかった。小鳥遊君に免じて許すとする。ちょっとシャワー借りてもいいかしら」
「いいよ。シャンプーは妹のやつ使ってくれな」
「わかった」
シャンプーは俺と妹のを分けてるんです。
瑞穂は分けなくてもいいと言ってたんだが、年頃の娘が兄と同じシャンプーなんて嫌だろうと思って違くしてもらった。だけどね、一つ疑問があるのです。妹のシャンプーってなぜか減らないんですよ。怖くないですか?
「隆たちも、気を付けなよ。俺だったらよかったんだけど禊さんたちは俺らをあまり知らないんだから」
「気を付けていたつもりだったんだよ。習慣って怖えな」
「気のゆるみっすね。しゃんとしないと」
そう。その意気だ。
「この世界を支配するのは妾である」
「魔王は俺が討伐する。勇者であるこの俺がな!」
といって定規で決闘を始める梵さんと恭一郎。
完全に遊び始めたよ。演劇を勝手に始めているよ。
「ライトニング!」
「ダーク・バースト」
見てるだけで痛い。中二病というか、もはや異世界に来ているみたいな感じ。というか、王道過ぎるよこれ。王道の二流ラノベくらいにしか見えないよ……。
「ふぅ。気持ち……って何遊んでるの梵! 勉強しなさい!」
「恭一郎もそれまでにしとけ。勉強の邪魔するんじゃない」
梵さんは禊さんに怒られていた。




