~別視点~大輝の八つ当たり
私と大輝兄ちゃんは墓地を歩いている。肝試しに来たのはいいけど楽しめる雰囲気じゃない。
大輝兄ちゃんがものすごく怒っているから。久太に空姉ちゃんをとられて癇癪をおこしているから、迂闊に話しかけられない。
原因は私だけど、あれは空気を読まない大輝兄ちゃんが悪い。
恋人がいるのに恋人と組ませないなんてそんなことさせるわけがない。
もともとこの肝試しは二人の仲を縮めさせるために計画した者なのに、邪魔されたくはない。私は大輝兄ちゃんと違って二人の恋を応援しているの。
だからこうしてイベントを計画したというのに。
――この男は。
マジでムカつく。危うく私が考えた計画が台無しになるところだったではないか。
空姉ちゃんは昔から断れないから、あのまま私が横入りしてないと断らずに大輝兄ちゃんといってたかもしれない。
大輝兄ちゃんこういうことはしないと思ってた自分がバカだった。
「いつまで怒ってんの」
「お前に邪魔されたから怒ってんだよ」
「先に邪魔してるのはそっちじゃん。私だってちょっと怒ってるからね」
私と大輝兄ちゃんの仲はもともとよくない。
精神が子供である大輝兄ちゃんにギャルっぽい見た目の私。どうにも分かり合えそうにない。私は大輝兄ちゃんが何を考えているのかわからない。予想外なところを行くから予想しても意味がない。
第一、お互いがお互い興味を示していないというのもあると思うけど。
「ふん。お前もあいつに毒されたのか」
「その言い方。私は別に毒されてない。久太と話してもないくせに偉そうに語るな」
「お前が言うな」
むかつく。
私が今一番イラついている。毎年顔を会わせるとこうだ。
北海道でみんなで集まってるときに顔を会わせるといつもにらみ合う。私が一方的に睨んでるだけだけど、どこか気に入らない。
「そもそも、なんで大輝兄ちゃんは久太が嫌なんだよ」
「あいつがイケメンだからだ」
「嫉妬かよ。子供なの?」
「嫉妬して何が悪いんだよ。お前は誰にも嫉妬しないっていうのか? できた人間だな」
皮肉を言ってくる。
やはり気に入らない。昔からいつもそうだ。嘲笑めいた笑みを浮かべたと思えば次は皮肉が出てくる。煽ることしか能がないガキだとしか言えないのだ。
「私も嫉妬するけどあんたみたいな醜くないよ。あんたはただ執着してるだけじゃん。独占欲が強いだけだよね?」
「うるさいな」
「空姉ちゃんを独り占めしたかったんでしょ? でも久太があらわれて久太のものになった。ただそれが気に食わなくて子供みたいな癇癪起こしてるだけじゃん」
「うるさいな!!」
キレた大輝兄ちゃんが私の胸倉をつかんで持ち上げる。
こちらを睨んでくる。そういうところが子供だって言ってんだ。わからないのか。
「なに? 暴力ふるうの? 自分が気に入らなかったら暴力ふるうの? 随分と子供に成り下がったね。大輝兄ちゃん」
「少し黙れ」
怒りを隠しているのか声が少し穏やかに感じられる。でも、怒りが含まれているのはわかる。
冷静な怒りとでもいえばいいのだろうか。そういうような感じがひしひしと伝わってくる。
「だいたい、お前に俺の何がわかる。急に現れてあいつはとってったんだ!」
「だからと言って怒っていい理由にはならないじゃん」
好きな人をとられたからといって怒っていい理由にはならない。それは自分の怠慢が原因になるから。行動を起こさないから何も得られない。
何かを得るためには必ずなにかをしなければならない。労働なき富は許されない。
今回は何も行動を起こさなかった自分を恨むべきなのに。自分は悪くないと思い込んで罪を押し付けているだけだ。
「自分の怠慢が原因だっていうのに、なんでそれを押し付けるの」
「押し付けてなんかいねえよ」
「押し付けてる。好きだったら何か行動すればよかった話じゃん。空姉ちゃんは可愛いからいつ取られるかわからないとはわかってたじゃん」
「そう、だけどよ」
「行動を怠って、取られた。自分が悪いことはわかるじゃん。なのに、なんで久太を恨むんだよ」
私の鋭い視線に怯えたのか、つかんでいる力が弱まった。
「恨む理由なんてない。ただの八つ当たり。久太は何も悪くない」
私が久太を擁護すると、少しだけ睨みつけられる。だけれど、その眼は次第に下を向いた。
「だからもうやめろ。久太を恨むの」
「……」
首を横に振る。どうやら恨むのはやめないらしい。
「そう」
だめだ。もう、救いようがない。
でも、一応血は少しつながっている。忠告だけはしておいてやろう。
「でも、これ以上八つ当たりを続けると、たぶん空姉ちゃん黙ってないよ」
空姉ちゃんは怒らないというわけじゃない。
空姉ちゃんはだって人間だから怒るときはある。自分が大切に思ってるもの傷つけられるのをすごく嫌う姉ちゃんだ。久太を傷つけると空姉ちゃんはキレる。空姉ちゃんは久太を大事にしてるから。
それに、一緒にいる時間が一番幸せを感じていると思う。その幸せを壊すのも嫌う。
だから、多分これ以上やらないほうがいい。
私は確かに忠告した。
あとは、こいつ次第だ。




