愛の追及者
俺らが歩いていると、大きい大人の人に呼び止められた。
「君たち。ちょっといいかな?」
呼び止めたのは大学の教授を勤める臼田先生だった。
不気味な雰囲気を漂わせる彼。俺はそのおどろおどろしい雰囲気に身を震わす。
「な、なんですか?」
「君らが付き合っているというのは本当かな」
「そ、そうです、けど?」
「ならよかった。君たちにお願いがあるんだ」
「お、お願い?」
「僕の研究対象となってくれない、かな」
臼田先生は心理学を追及しているらしい。
心理学で恋という未知数の心理を表したいと思っているそうだ。恋というのはなんとも不思議なものだという。
「まず、人間というのはパーソナルスペースというものを所有しているんだ。人間と人間との距離感というものだよ。その距離感が近ければ近いほど、親密だといえるね。君らは恋の仲だということはパーソナルスペースをみればわかるんだよ」
パーソナルスペース、ねえ。
「人の愛というのは未知数なんだ。動物に抱くものもいれば人形に愛を抱くものもいる。もちろん人形に向ける愛は人間に向ける好きというのとは違う気持ちだろうけど……。でも、愛というのは奥が深いことには変わらないんだよ」
「へえ。人間が恋するのって奥が深いんですね」
「おっと。恋ではないよ。愛が奥深いんだ」
恋と愛ってそんなに変わらないのに訂正する必要はあるのか?
「君たちはたぶん恋と愛の違いが判らないんだろう。説明しないとね。恋というのは容姿がかっこいいとか優しいとか、条件があるんだ。それと違って愛には条件はない。恋というのは相手に自分の好みを足して足して生まれていくものなんだ。愛は、そんな余計なものはいらない。つまり、恋というのは添加物にしか過ぎなくて、愛というものは純粋なんだよ」
恋が添加物で愛が純粋と……。
よくわからない。
「まあ、難しい話だよ。愛はいろんな種類があるけれど、恋ってあまりないでしょ? 愛恋、狂恋、初恋、諸恋、色恋、片恋、恋愛とかさ。愛は恋愛、博愛、敬愛、偏愛、慈愛、友愛、情愛、恩愛、溺愛、盲愛という言葉があるんだ。愛というのは量を変え、形を変えるんだ。人間が人形に抱く愛とかさ」
き、気持ち悪い。
俺はそう思ってしまった。愛というのは素晴らしいんだろうけど、ここまで愛に関して情熱的だと怖いよね。恐ろしく思うよ。
「愛ってすごいんですね」
「すごいんだよ、愛は。愛は無限の可能性を秘めてるといっても過言じゃないからね」
そ、それは過言だと思うけど……。
でも、それほど熱中するということはそれほど奥が深いということなんだろう。俺にはよくわからないけれど。




