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京都で過ごす夏休み④

 京都二日目の夜。

 薄気味悪い墓場に子供たちはいた。大人も数名酒を飲んではいるがやってきている。これから何を行うか、それはもう決まっていた。


 「肝試しやるぞー!」


 佳が元気よく号令をかけると周りの子供たちが「おーっ!」と元気よく声を上げた。

 東城は興味がないのか何もしゃべらないし、西園寺さんは目を輝かせている。佳はこういうイベントが大好きなのかおおはしゃぎだ。


 「若い子は元気だねえ」

 「俺らの若いころもよくやったなあ……」

 「あの頃が懐かしい。そして女房あの時が一番若かった」

 「あ? なんか言ったかバカ亭主」


 と、大人たちは持参した椅子に座って酒飲んで駄弁っていた。

 肝試しは子供だけでやるらしい。小さい子供三人に俺と西園寺さんと佳と東城。七人で肝試しだ。

 あ、でも子供たち大人たちのほう行っちゃった。


 「じゃあペアを決めてね!」


 と元気がいい佳。

 俺は西園寺さんと組もうと西園寺さんのほうまでいくと、何かに遮られた。


 「空。俺とやろう」


 東城だった。

 東城は西園寺さんの手を引っ張り、佳のところまで行く。佳は少しうわっというような嫌悪感を現した顔をしていた。

 ここは普通恋人である俺がやるところじゃないか? なんでお前に取られるんだよ。


 「えっと、私久太くんとやりたいんだけど」

 「俺は空とやりたい」

 「大輝兄ちゃん空気読め。ここは恋人同士でやらせるだろ普通」

 「はあ? いつそれが普通って決めたよ」

 「……これだから自己中は」


 多分佳と俺が思ってる事は同じだと思う。

 俺が思っていることはというと。


 ――子供がきかよ。


 そう思っていた。


 「ねえ空姉ちゃん」

 「なに? 佳」

 「私久太とやりたくないから代わってよ」

 「は? お前ふざけんな」

 「ふざけてるのはどっちだよ。いいから代わって。ほら、いくよ大輝兄ちゃん」


 と、佳が東城を引っ張っていった。


 「じゃ、私たちがペアだね」

 「おう」

 「怖くなったら私に抱きついていいからね」

 「俺は子供じゃねえし、幽霊は怖くねえから大丈夫だ」


 むしろ抱きついたほうがいろいろと怖いです。





 墓地というのは結構気味悪い。

 死んだ人の遺骨が墓の中に埋められているのだ。堀井基次郎の小説では櫻の樹の下には死体が埋まっているという。ここには桜の木と見える木がある。つまり、その下には死体が埋まっているのだ。

 なにそれ、怖い。


 「ね、ねえ。少し寒くない?」

 「たしかに、寒いけど夜ってだいたいこんなものだろ。北海道の冬のほうがまだ寒いわ」 

 「そうなんだけど、なんか背筋がぞくぞくするというか、なんだか寒気が走っているというか」

 「それはただ単に怖いだけだな。恐怖におびえているからだろ」


 世界の頂点に立つものはほんのちっぽけな恐怖はもたないが、あいにく世界の頂点どころか日本の頂点もとってないので恐怖はある。


 内心びくびく震えながら歩いていく。

 懐中電灯を右左にせわしなく動かして前に進む。


 西園寺さんが俺の服を掴んでいるせいか妙に歩きにくい。

 ――つかんでるのは本当に西園寺さんだよね?


 幽霊が俺の服を掴んでたりとかはないよな。幽霊はいないって信じてるけどこれで服を掴んでいるのが幽霊だったら俺は幽霊を信じてしまうかも。

 俺は恐る恐る振り向いて俺の服を見る。手が俺の服を掴んでおり、手を視線でたどると西園寺さんにたどり着いた。

 よかった。つかんでるのは西園寺さんだ。


 「――ん?」

 「どうした?」

 「今なんか聞こえたような」

 「まじで?」


 きょろきょろと視線を動かしてみるも何もいない。

 周りには墓があるだけでそれ以外はなにもいない。動物の類はいるかもしれないが、光を照らしてみてもわからなかった。


 「なんだか助けを呼ぶ声が……」

 「助けぇ?」

 「『助けて』……って聞こえたような気がする」

 「俺には何も聞こえなかったが」


 誰も喋ってないような気もする。


 「それってあれじゃないの? 佳か誰かが助けを求めてんじゃない?」

 「いや、老人の声だった」

 「じゃ、じゃああれだ。恐怖心が生み出した幻聴。俺には聞こえていないんだ。多分幻聴だよ」


 思い込んでいるだけ。幽霊がいるって。だから怖いのだ。いないと割り切ればどうってことはない。

 幽霊なんてこの世にいないんだ。バカ野郎。













次回は視点が変わります。

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イラストレーターとユートゥーバー 新しいラブコメ小説を投稿してみました。是非とも読んでみてください。
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