バイト、始めました
――昨日の記憶がない。
昨日は新人コンパに誘われて、行って、食べ物食べて……。あれ? 何したんだっけ。
「久太くん。どうしたの?」
「いや、昨日の記憶がなくて」
「昨日?」
「コンパにいって俺はそのあとどうやって家帰ったんだっけ」
「ああ、私が送ったんだよ」
空は説明を始めた。
俺はまちがってウーロンハイを飲んでしまって酔いつぶれて寝てしまったらしい。そして、そのあと空の車で空の家に泊まったと……。
……空の家?
「ってここ空の家なのか!?」
「うん。そうだけどどうかしたの?」
たしかに周りを見渡してみると俺の部屋じゃないし、俺の家でもない。
「どうもしてないけど……」
「ならよかった」
空はほっとしたように胸をなでおろしていた。
「あ、朝ごはん食べる? 用意は一応してあるよ?」
「食べるよ。ありがと」
「ううん。これくらいはね。というか、久太くん酒に弱いの知れたし、ちょっとよかったかも」
「どこがいいんだ?」
「ちょっと子供っぽいところ?」
「なんだよそれ」
俺は、空の答えに思わず笑ってしまう。
「まあ、いいよ。さ、食べよっか」
「ああ。そうだな」
「よう、三潟。元気にしてるか?」
「あ、小鳥遊さん。おはようございます」
「……さん?」
「何か変ですか?」
俺らは会社に来て三潟さんを紹介されたんだけど……。雰囲気変わってね?
高飛車な雰囲気はまるでなく、清楚で律儀な感じになっている。空の躾がうまくいったのだろうか。
「俺のことは久太でいいから。なんだかさん付けされるとむず痒い」
「わかりました久太」
「……まあ、いっか」
本当は敬語もやめてほしいんだが、それもけじめだろう。
「どう? 変わったでしょ」
「本当に数か月で人は変わるんだな」
「見た目も印象も、ちょっと変えてみました」
ちょっと手を加えてこれか。なかなかいいんじゃないだろうか。
「杠ちゃん。今日から久太くんがバイトするから教えてあげてね」
「わかりました」
そう。俺はバイトすることにした。
大学生活してて、一番困るのは金だ。俺は実家暮らしだが、母さんに負担をかけるわけにもいかないし、バイトすることにした。まあ、高校の時もしてたけど。
はじめは、牛丼の店とか希望してたけどいつの間にか空の会社でバイトすることに。まあ、単純作業らしいけれど。
「では、久太。こちらに」
「久太くん。またあとでね」
俺は空と別れ、三潟さんについていった。




