三潟の理由①
婚約披露式典当日。
俺は、朝早くに会場まで連れられて行った。会場に着くと、三潟が微笑んでいる。それはもう、勝利を確信したような笑みで。
「お待ちしておりました。小鳥遊様」
「……そりゃどうも」
「さあ、さっそくタキシードに着替えてくださいませ。着替える部屋はこちらになりますので。案内してあげて」
「はっ」
俺は案内されるがままについていく。
案内された部屋はとても豪華だった。ひとりで使うにはだだっ広く、会議室みたいな場所。ここを貸し切れるとは三潟は腐っても金持ちだ。
「タキシードの着方はご存知でしょうか? よければ私がご教授してもよろしいんですよ」
「知ってるからいい」
あらかじめ勉強はした。将来役に立つだろうと思って……。というか、昔中二の時に興味半分で調べたことがある。その時結婚について考えていたのかな?
「そうですか。では、本番までここでおくつろぎくださいませ。私はこれで」
といって三潟は出ていった。
出ていったのを見計らい、俺は席に座る。そして、タキシードをなんとなくまさぐってみた。盗聴器とか、仕掛けられていないかを君清さんに調べろと言われたしな。
襟の裏、ポケットの中なぞ隅々まで探す。タキシードには仕掛けられていないようだ。ならば今度はこの部屋だ。壁に耳あり障子に目ありというようにどこで誰が聞いてるか見ているかわからない。事細かく探して、ぼろはださないようにせねばな。
「コンセントとかにはよくあるんだけどなさそうだ。このポットの中とかはどうだろう?」
まさかないとは思うけれど、なんとなくないと思ったところにありそうだからな。裏をかかれては対策する意味がない。
……ないか。お湯しか入ってない。
まあ、いいや。ちょっと疲れたからお茶でも飲んで休んでからまた探そう。
探した結果はなかったとだけ言っておこう。流石に警戒しすぎたかもな。
「時間でございますので会場まで足を運びください」
「はい」
案内人が部屋を訪ねてきたので、俺は指示に従って移動する。会場の裏まで行くとウエディングドレスを着た三潟は手を振ってきた。
……不覚にも可愛いとは思ってしまった。
「着替えたのですね。小鳥遊様」
「ああ」
そういって、三潟は視線を前に戻す。隣に立ち、横目でちらっと見ると、三潟はなにか悲し気な顔をしていた。そして、一つため息をはいていた。
「これで、終わり。私の仕事も、ここまで……か」
まるで、今から断罪されることがわかっているような言いぶりだった。
こいつ、これから起こることをもしかしたらわかっているんじゃないだろうか。もしかしてこいつは……なにか、隠している?
「……お前、これから何が起こるかわかっているのか?」
「…………わかってなどいません」
長い沈黙の後そう答えた。それで確信したのだった。こいつは、わかっている。断罪されることをわかっている。




