会長の怒りと自失②
かつて俺を退学にした会長は、少しだけやつれていた。
会長という職を奪われ茫然自失していたそうで、奪われた後は自暴自棄になって、そのあと退学届けを出したやつ。
見事にやつれていた。
「……何の用だよ」
「……悪かった」
「悪かっただけじゃ伝わんねえよ。何に対しての謝罪だそれは」
ため息を一つ吐き、会長の目の前に座る。
「君に、したことについてだ」
「……あの時の事、俺は忘れてないぞ」
「わかってる。恨まれてもいいようなことをした」
今自覚しても遅いんだがな。
ただ、自分の過ちに気づくのも少しの進歩なのかもしれない。前は権力をひけらかしさも自分が偉そうに語っていたからな。自分自身を見つめなおす機会を与えられて、ちょっとは成長したということだろう。
まあ、その成長に免じて許してもいいかもしれないな。本当に反省しているなら、許してあげよう。この考えって結構甘いけどな。
「悪かった……。悪かった。すべては僕の責任だ。罰を与えるのならそれで構わない。反省しているんだ。あの時、僕が君を退学にしていなかったら私はずっと学校にいたまま、自分の過ちに気づかないで過ごしていたと思う。君を退学にしたからこそ、私は気づいたのかもしれない。その点は……私がしたことは正しいと思う。自分の過ちに気づくために退学にしたという言い訳はしないが」
必死に頭を下げてくる。
「……名前、なんていうんだ?」
「……え?」
「あんたの名前だよ。そういや知らねえなって思ってな」
「……宇賀 明人」
「宇賀か。覚えた。俺は許すから顔を上げて宇賀」
宇賀が顔を上げた。
俺は、微笑んでやった。すると、宇賀は泣きながら俺に抱きついてくる。ありがとう、ありがとうと何度も連呼しながら。宇賀はまだ物分かりがいい方だったのだろう。それは少し助かった。
「久太」
「ん? なんだい那智ちゃん」
那智ちゃんは俺の袖を引っ張ってくる。可愛いな。
「そういえば空姉ちゃんが呼んでたよ。家に来てだって」
「家に?」
「そ、そうだ……。伝言を頼まれてきたのをすっかり忘れていた」
「お姉ちゃんは役立たずだから私が伝えた」
「役たっ……」
会長はショックを受けていた。
那智ちゃんの言動はえげつない。お姉ちゃんを想ってるとはいえお姉ちゃんに対して辛辣すぎる。会長もシスコンだし、妹にそんなこと言われたら傷つくだろうな。
俺は会長に近寄る。
「お疲れ様です。ほんと」
そうねぎらいの言葉をかけてあげた。そして、生徒会室からでていき、教室に戻ってカバンを持った後空の家に向かうことにした。
「お姉ちゃん。早く病院行くよ」
「あ、ああ。わかった。では、いくとするよ。またな。宇賀」
「ああ、はい」
佳子が那智の手を握り帰ろうとしたその矢先だった。生徒会室のドアが突然開かれる。
「小鳥遊 久太はいませんの?」
三潟だった。三潟は、なぜか高校に来ている。
三潟をみた佳子は怒りが溜まっていった。今にもつかみかかりそうだったが、宇賀が停めていたおかげでつかみかかるには至っていない。
「……って四之宮様ではございませんか。あなたはもう高校を卒業したのでは? なぜこちらにいらっしゃるのです?」
「……これはこれは三潟様。あなたこそ本日は学園に通わなくて大丈夫なのですか? あなたの猿の血の腕は油を売らないで勉学に励んだらどうです?」
「……私はあいさつしただけなのに悪態をつかれましたね。西園寺といい堂島といい礼儀を知らない令嬢が多すぎますねえ。貴方様こそ淑女の勉強をしてはいかがでしょうか」
「ははは。礼儀知らずなのは貴方の方でしょう。人の彼氏を強奪するとは礼儀知らずで恥知らずなのですねえ」
「奪ってなどおりません。私は助けてあげただけなのです」
二人は笑いあう。
「助けた? 助けたというなら小鳥遊は貴女に感謝の一つはするはずですが。小鳥遊は貴女に感謝するどころか嫌悪感をあらわにしていましたが、それは助けたといえるのでしょうか?」
「あちらが恩知らずなだけです。所詮は庶民ですし」
「あの小鳥遊は西園寺家の従兄だといっても庶民というか?」
「なにいっておりますの。君清様の姉は実家から勘当をされていますのよ? それで従兄と呼べるのでしょうか」
「……なら、所詮庶民の小鳥遊となぜ婚約したのでしょうか」
「それは私が小鳥遊様に惚れ……」
「小鳥遊は貴女様がバカにしている庶民なのに?」
鋭い眼光を向ける佳子。狼狽える三潟。実力が違った。
「バカにしている庶民と婚約するなんてあなたは何を考えているのです? 言動と行動が一致しておりませんが」
「……うるさい」
「まさか嫌いというのは照れ隠しとかいうつもりですか? それとも嫌いの反対は好きというつもりですか?」
「……帰ります」
三潟は静かな怒りを燈し、生徒会室を後にした。




