会長の怒りと自失①
俺は、学校に居残り、勉強をしていた。
十月に入った今、試験までとうとう半年を切ったのだ。二月に北海道大学の試験がある。その前に書類とか送って第一次を通らないといけないんだけど……。今から入試の準備をしておいても損はない。
なぜ学校かというと、わからないところがあったらすぐに先生に聞きに行けるからだ。
「戦国武将とかはすぐに覚えられるんだけど外国となると困る」
ルネサンスとかフランス革命とかわからねえ。アメリカ独立戦争の年は何年だっけか。
イギリスの無敵艦隊を指揮したのは誰かとか? エリザベス1世だっけそれ。よく覚えていない。日本の歴史なら比較的覚えやすいんだけど外国はきつい。
特に中国な。共産党とかよくわからん。毛沢東って誰だよ。
「あ、いたいた。小鳥遊せんぱーい」
俺が必死に頭を押さえながら勉強していると教室に誰か俺を呼んでいた。生徒会の腕章をつけている。隣には千早さんもいた。
千早さんは俺を見て少し微笑んでいた。それをみて、俺は首をかしげる。
「生徒会が俺に何の用ですか?」
「今、生徒会室にあなたに会いたいという人が来ているんです。その……来てもらえますか?」
「俺に?」
俺は、千早さんのほうを見る。
「すまない。勉強の最中だったんだろうが、来てくれないか。君に会いたいという人は二人だ」
千早さんはあたまを下げている。もしかしたら会長……つまり四之宮参加と思ったけれど、千早さんの表情を見る限り違うようだ。
まあ、断るのもあれだし、行くとするけれども。
「行くからちょっと待ってて」
俺は勉強道具をカバンにしまい、二人についていった。
「失礼しまーす」
俺が生徒会の扉を開けた途端……。
胸倉をつかまれた。強い力で胸倉をつかまれ、誰だと思って顔を見ると……四之宮会長だった。会長は何かお怒りのようで……。
「小鳥遊。お前空になにをした!」
「な、なにって……」
「答えろ!」
力が強くなっていく。
俺は必死に抵抗するも力では敵わなかった。
「なにってなんのことですか!」
「空は小鳥遊と別れたっていった! 空が泣いていたんだ! お前にその理由を答えろって私は言ったんだ!」
空と別れたって……伝わってないのか。
「誤解です。俺は別れたくて別れたわけじゃありません!」
「じゃあ、なんで別れたんだ!」
「不可抗力なんですよ! 詳しく話しますから手を放してください!」
そういうと手を放し、ソファに腰を掛けた。俺は、咳払いをして、腕組みをして聞く体勢に入っている会長のほうを向く。
一つ、深い息を吐き、あったことをすべて話した。
「……そうか。私はてっきり小鳥遊が何かしたと思っていたが……。あの女狐か。すまなかったな。胸倉をつかむような真似をして」
頭を下げてくる会長。勘違いしても無理はないし、会長が怒るほど空のことを心配してくれていたから別に構わない。
俺だって空が泣いていたら我を失う自信があるから。
「俺だって好きで婚約を結んだわけじゃありません。あっちが勝手にやったことなんですよ」
「そうか。私の敵は小鳥遊ではなく三潟か……。わかった。お詫びとして私、四之宮 佳子も小鳥遊、堂島を手助けする。潰すのは弱小企業だから大した労力にもならないだろう」
と言い切った。西園寺家にすら噛み付く狂犬を弱小と呼ぶとはすごいな。
確かに四之宮家と西園寺家に比べれば弱小かもしれないがあそこはあそこで結構有名な企業だぞ。
「……お姉ちゃん。ちょっといい」
「……なんだい那智」
「那智ちゃんいたんだ」
「さっきなんで久太の胸倉掴んだの?」
那智ちゃんが小学生と思えないような雰囲気を醸し出して怒っていた。その気迫に俺と会長は身じろぎをする。なに、この子この歳にして貫禄あるぞ! 気迫がこの中の誰よりも勝っている!
「そ、そのだな。私はてっきり」
「てっきり? 勘違いで済まされると思ってるのかなお姉ちゃん」
「な、那智?」
「那智は今からお姉ちゃんのことが嫌いになりました。二度と口を利きません。そして、お姉ちゃんの部屋の中にある戦隊もののクリアファイルとかグッズ全部燃やしてやる」
「那智!?」
会長は狼狽えていた。そうだ。会長戦隊もの好きなんだっけ。この身を把握して大事なものを奪うというか破壊するとは恐ろしいな。この子将来大物になるぞ。
「あ、小鳥遊先輩。こっちにも相手してくださいな」
「こっち?」
言われた方向を見ると、いつしかの会長の姿があった。
この会長は俺を退学にした……。今更何の用なんだろう。
那智ちゃん怖い……。久太のこと好きすぎるだろ。




