二人の破局
あれからどこか噂が広まったのか――
学校内では俺らカップルは破局したといううわさが一日で広まっていた。人の口に戸は立てられぬというかなんというか。噂って好きだななんて改めて実感もした。
「久太くん。付き合ってくださいっ!」
「ごめん。俺は君とは付き合えないよ」
廊下に呼び出されるとそういう告白を受けた。
これが何回も続いている。空も、男子生徒に呼び出され、告白を受けていたが、なんだか男子生徒が傷だらけで帰っていく姿も発見されている。
もしかしてファンクラブだろうか。なんてことを思っていたりしている。
「お疲れだな。久太」
「お疲れ様です」
竜太郎と堂島さんがお疲れと労ってくる。
「で、お前なんで別れたんだよ。西園寺ほど好物件はないと思うが」
「そうです。私も疑問に思っていますよ。仲睦まじかったですよね?」
二人がそう聞いてきた。
もちろん俺は喧嘩別れして別れたというわけじゃない。ある一人の女の身勝手な行動で、別れたのだ。空への攻撃なのか、それとも西園寺家への攻撃なのか。
「三潟にやられた。それだけだ」
「三潟……? 誰だそれ」
「あー……。とうとう真正面から喧嘩を売りに来たんですね」
堂島さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。あの時の苦い経験がカムバックしているのだろう。
「あの令嬢……。ほんと腹立つ。私もしてやられたと思いましたから……。正直あの女は何してくるか予想ができませんから。裏を突いてきますし」
「なんだかわからんがそいつがすんげえ悪い奴だとはなんとなくわかるな」
俺も困っている。俺は、もう、だめかもしれない。
空を失った喪失感が、すごかった。今日一日は授業に集中していない。ずっと、空のことを考えていた。
だが、俺は話せる分まだいいのかもしれない。空は、今日一日何もしゃべっていない。虚ろな目を、感情がないロボットのような目をしていた。
「空。大丈夫か?」
「……うん。大丈夫。心配しないでも……」
と言いかけて、空が倒れた。
「空ーーーーっ!?」
俺は抱き上げて保健室まで運んでいった。
空は保健室のベットでぐっすりと寝ていた。保健室の先生によると貧血だそうだ。
「で? なにかあったのか? 小鳥遊」
「なんでお前ここにいんの?」
「なんでって俺は保健室登校だし」
話によると不登校でまだクラスの奴らと一緒にいられる自信がないから飛騨は保健室登校を許してもらっていた。
「ずるいな、それ」
「ずるくねえよ。不登校の特権だ」
そんな誇らしげに言うことじゃねえよそれ。
「で、なにかあったのか?」
「うーん。まあ、いろいろあって別れることになった」
「唐突だな」
驚いたような表情を見せずに言う。
「なんでだ? 話したくないなら話さなくていいぞ」
「いや、隠すことじゃないから話すよ」
俺は三潟のことを話す。飛騨は「ふーん」といってまたプリントに目を通していた。
俺は空の顔色を見る。少しは落ち着いてきたのかもしれないな。
「たのもーっ」
「こんちはっすー」
「よーっす」
すると、今度は非モテ集団がきた。
隆たちはなんでここにいるの? 今授業中だからね?
「西園寺氏が倒れたと聞いて購買で見舞い品を買って来たら遅くなったでござる。具合はどうでござるか?」
「まあ、貧血だっただけだから大丈夫だろ」
「そうなのか。まあ、あまり激しい運動はするなって伝えておいてくれ。じゃ、俺らは授業に行くから。秀太も頑張れよ」
「これ、ヨーグルトとか入ってるっす。ミルクコーヒーは久太のっすからね」
と、隆たちはすぐに出ていった。
俺は袋を机の上に置き、中身を取り出す。ミルクコーヒーを開けて飲み干した。
「甘え」
現実はそう甘くないが。




