弱小令嬢の強奪
たぶん、最終章です。
私はうすうす思っていたのかもしれない。
久太くんは優しくて、頼りがいがあって……だからこそ依存してしまうことに。私は久太くんが好きだし、久太くんも好きだといってきた。
だけれど、私は……。私は久太くんに何をしてきたんだろう。助けられてばかりで……あきれられているのかもしれない。だから久太くんは――
冬休みも間近に迫った秋の月。
外には枯れ葉が舞い散り、風もびゅうびゅうと吹いている。もう、冬の訪れを知らせるかのような木枯らしだった。昨日は雪虫も飛んでいた。
「さみいな」
コートを着込み、空と話しながら登校していると目の前に黒光りの車が停められた。
「空。迎え頼んだのか?」
「い、いや? 私は頼んだ記憶がないけど……」
空は記憶にないのか首をかしげていた。
じゃあ、この高級車はどこの家だろう。そう疑問に思っていた。すると、ドアが開かれる。
「ご機嫌よう。西園寺様」
そこには厚手のコートを着た三潟の姿があった。
カジュアルな格好をしており、もふもふとした毛皮のブーツ、ブラウンを基調としたコートを羽織る。容姿、コーデは俺ですらわかるほどに優れていた。
だけれど、俺らの気分は最悪である。
「本日は何の御用ですか? 私はこれから学校に向かわねばならないので用件は手短にお願いいたします」
「そう。用件は手短にしますのでご安心を」
「なら早くしてください」
空が怒っている。隣から不機嫌そうな雰囲気がしていた。
「わかりました。――そこの小鳥遊 久太。今から貴方をワタシの婚約者にするということが決定いたしました」
と、そういうことを言われた。
「「……は?」」
俺らはあっけらかんとした声しか出せずにいる。
「聞こえなかったんですか? もう一度言います。貴方は私の婚約者となることが決定いたしました」
「そうじゃない。なんで俺がお前の婚約者なんだよ。俺は空と……」
「あら、西園寺様とはまだ婚約を結んではいません。結ぶと宣言はしただけですし」
「で、でも久太くんは私と交際を――」
「だから、なんです?」
だから――?
俺はその言葉に癇癪を起しそうになった。というか、言っている意味が分からない。お前が俺と婚約? 俺は了承してないし、母さんも俺と空が付き合っていることを知っているから両省はしない。もちろん君清さんもするはずがない。
「誰に許可を取った」
俺はそう問いかけた。
「あら、貴方のお父様に話を持ち掛けたら快く了承されました」
あの父親か! たしかに彼女いるとは話していなかったし、良かれと思ってしたのだろうけれど。こいつは質が悪い。……ん?いや、でも話したような気もするけど気のせいか?
空と俺の仲を突き放すつもりだ。婚約をして、空に精神的苦痛を与えるためだけに。
……父さんめ。帰ったら絶対ぶん殴ってやる……。
「というわけで、本日から私の婚約者となったので西園寺様はできるだけ近づかないでくださいまし」
「……わかり、ました」
空は、三潟を睨みつけながら、咲に進んでいった。俺は追いかけようとしたが、首根っこを掴まれてしまった。
「ふふ。追いかけさせませんよ。貴方は今日から私の物。あの女に対抗する駒となってもらいますからね」
と、見下したような目で言っていた。
性格が悪い。強奪のような真似をして、何が楽しいのか。俺は空が好きだ。だけれど、三潟は好きじゃない。都合いい言い訳だが俺は金持ちじゃないから好きな人は決められるはずなんだ。結婚も自由のはずだから。
こういうのに巻き込まれるのはとても心外だ。




