俺はお前の友達として②
飛騨は泣いていた。
きっと悔し泣きだと思う。事実を受け入れたくないという気持ちも含まれているとは思う。だけれど、そろそろ事実と向き合うことをしなければならない。残酷な真実を知っても、それに対抗しなきゃならない。
俺も、本気で飛騨を学校に来させたい。そう思った。
「……飛騨。そう簡単に死ぬなよ。ゲームじゃないんだから残機なんてものはないんだぞ」
「わかってるよ……。だから怖えんじゃねえか……」
その場に崩れ落ちている飛騨に恭一郎は近寄っていく。肩をさすりながら、慰めていた。
「なにをしていいかわからないのなら学校に来い。俺はそれしか言えないよ。今日は帰る。あとは恭一郎頼んだぞ」
俺は、その場から早歩きで立ち去った。
俺も、少し嫌な気分になった。人を傷つけたんだ。嫌な気持ちにはなる。
それを紛らわそうとして、ゲームをするも集中は続かなかった。人を傷つけた事実。それがちょっと自分には重荷となっている。
その時、空から電話がかかってきた。
『もしもし、久太くん?』
「おう。空か。何の用だ?」
『ちょっと声が聴きたかっただけ。……で、なんか元気なくない? なんかあったの? 飛騨くんちで』
空には話していた。恭一郎と不登校の説得に行くと。だから予想がついたのかもしれないな。
俺は素直に話した。別に隠すことでもないからな。全部話すと空は「ま、久太くんらしいね」と、そうつぶやいた。俺らしい。それはどんなところだろうか。
『久太くんて優しいし自分の友達を傷つけることはしたくないってところがだよ』
「……俺の心読めてるの?」
『まさか。久太くんが考えそうなことを予測して言ってるだけだよ。これでも彼女ですし』
と電話口の向こうで笑う声が聞こえた。
「ああ。そう……。俺は空の心が予測できないんだが、それは彼氏として失敗か?」
『いやいや。そんなわけないよ。私も必ずわかるわけじゃないし……。というか、わからなくて当然っていうかね』
「ま、そうだな。人間の考えてることなんてわからねえもんな」
空にしたって恭一郎にしたって飛騨にしたって何かを考えている。それをすべて理解するということはできないだろう。
『そうだね。でも、わからなくて諦めないほうがいいよね』
「諦めない?」
『わからないから諦めるのはダメでわからないからわかろうとする気持ちが大切って本に書いてたよ』
「何の本にだ?」
『”恋愛初心者が語る彼氏彼女と結婚に結び付ける10の方法”ってやつ』
「なんか胡散くせえな……」
本当にその本の著者は成功したのだろうか。というか、それを何で読んでるの?
『なんかこれだけ聞くと少年漫画のフレーズっぽいよね』
「そうだな。それはわかる」
少年漫画の熱血展開によくありそうだ。スポーツ漫画とかでよく描かれていそうだし。
『でも、これは大切だと思うよ。私もわかろうと頑張ってるからね』
「……そうだな。俺も空の気持ちがわかるよう頑張るよ」
『うん。頑張って』
「おう。頑張る」
『じゃ、またね。仕事があるからさ』
「またな」
といって電話を切られた。
空に勇気づけられた。頑張ろう。飛騨の気持ちを理解してみよう。そう頑張る決意ができた。




