不登校を説得に行こう②
俺たちはその男の人と目があった。
「……誰だあんた」
「俺は恭一郎の友達の小鳥遊だけど。君は?」
「飛騨 秀太」
ボサボサ髪で答える彼。台所に立ったかと思うとやかんに水を入れて沸かしている。
コーヒーか何か淹れるつもりなのか?
「……秀太。何しようとしてる」
「小鳥遊は俺を説得しにきたんだろ。なら、躊躇う必要はない」
「こいつは俺の友達だ。信頼してもいい」
「…………」
と、やかんで沸かすのをやめたのかガスを止めた。
「たしかに小鳥遊は説得に来たけど、今までのやつらとは違うぞ」
「……本当かどうかは俺が見極める」
さ、先ほどのやかんは何をしようとしていたんですかね。
「まあ、話してみないとわからんだろ。俺が保証するから話してみろ」
「……お前がそういうんなら」
と、飛騨は恭一郎の隣にどかっと座る。
不機嫌そうにこちらを睨んでいる。真正面から見ると結構カッコいいな……。クールだ。
睨むのをやめない飛騨。俺はとりあえず話す題材を模索していた。
『今日はいい天気ですね』とか?ありきたりだし今日曇りだよ。
「……なんか言えよ」
「……本日は、曇りですね」
「なに当たり前のこと言ってんだよ。バカか」
「はん。バカとはすごい言い草だな」
「ばかだろ。お前って見た目詐欺ってよく言われるだろ」
「残念。言われたことない」
なぜなら元々の俺を知ってるからな。あと、カッコいい行動とかしたことないし。たまに女子に手を振られたり握手を迫られるけどそれしかやってないから見た目詐欺とか言われんよ。
「……嫌味か?学校では猫被ってんのかよ」
「猫被ってないわ。俺の元々を知られてるわけだしな」
「元々ってなんだよ」
「俺元々こういう見た目してなかったんだよ」
「はぁ?」
信じられないような目で見てくる。信じてないな。まあ、想像つかないから仕方ないが。
「俺元々ボサボサ髪で眼鏡かけたオタクっぽいやつだったんだよ。今はイメチェンしてこうなってるけどさ」
「……イマイチ信じられねえな」
「これ、写真な」
昔撮った写真を見せてみた。
「……なるほど。これを知ってたら見た目詐欺とは言いたくねえな」
「だろ?」
「……疑って悪かったな」
「別に気にしないよ。というか、もう話してくれるんだな」
「……な、なんかお前はいいやつだと思ってな」
「そう思ってもらって光栄だよ」
いいやつ認定されてちょっと嬉しいです。
「……で、お前は恭一郎の友達つってるのもほんとらしいな。恭一郎はあれでも人を選ぶから俺を説得するためだけに友達になるわけねえし、やっぱ恭一郎の友達か……」
「そうだな。恭一郎って案外わがままだからな」
「お前ら本人の目の前で言うなよ……。いや、まあ、事実なんだけどさ」
恭一郎が不貞腐れていた。俺らはクスッと笑ってしまう。
「……まぁ、恭一郎とも本当に仲がいいらしいし、俺はお前を認めてやる。少しは信頼してやるよ」
「えぇ、なにその無駄な上から目線」
「お前を下からとか同じ目線で見たくねえよ。劣等感に押しつぶされそうだからな」
「あぁ、そう…」
「だから上から目線で少しでも優越感に浸るんだよ。持ってる者は持たざるものの気持ちが理解出来ないからな」
まあ、そうだわな。友達を持つものは楽しいと言うが持たないものは楽しくないという。それを伝えても楽しいだろとしか帰ってこない。
結局は差がある。元々は俺は持たざるものだったから理解出来ているつもりだが。
「俺はお前に負けてるから少しでも優越感に浸らせてくれ。じゃなきゃ帰ってもらうからな」
「別にいいよ。俺は下でも……。そこまでプライドがあるわけでもないしな」
「そうか。お前がこの程度で怒るようなやつなら出て行ってもらっていたよ。今から茶を淹れる。そこで座って待っとけ」
「あいさ」
といって飛騨は台所に向かった。
……あの、本当にやかんでなにするつもりだったんですかね。




