久太&空vs三潟
空は何やら疲れている。
多分昨日になにかあったのだろう。疲弊しきっているのを見るとなにかしらに対応……クレームだろうか。そんな感じで疲れている。
「お疲れ」
俺は、深く聞かずにお疲れと声をかけておいた。
「ふぅ。やっぱ久太くんかっこいいなあ」
「い、いきなりどうした?」
「いや、かっこいいなって思って……。ちょっと昨日は疲れた……」
なにがあったのだろう。
「言葉で打ち負かしたと思ったらまた来るっていって……。今日も来るんだよお。顔見たくなぁい……」
空が机に突っ伏した。空が会いたくないというのなら相当面倒な人なのだろう。本宮ですら頭で拒絶はしていても言葉にしていないような空が、こんなふうに言うなんてな。
相当厄介なのだろうな。まあ、金持ち相手じゃそんなものだろうか。俺は金持ちじゃないから空の辛さなんてわからないけど……。彼氏として彼女の悩みは共有したいものだ。
「じゃ、俺も行くか?」
そういうと、空は起き上がる。
「いいの……? 言葉に矛盾が少しでもあったらつついてくるようなやつだよ?」
「重箱の隅を楊枝でほじくるようなものか。それは確かに厄介だな」
本当は相手したくないけど空のその辛さを俺が何もせずに見ているのはどうも嫌なのだ。
「厄介だけどいいよ。空辛そうだし。俺も辛いのを共有させてくれ」
というわけで、学校が終わり空の家に来ると一台の黒塗りの高級車が止まっている。空の家のではなく、三潟家が乗ってきたのだろう。
俺は黒光りの車を見つつ中に入っていく。
案内されたところまで行くとソファに優雅にお茶を飲んでいる女性の姿があった。
「こんにちは西園寺様」
「こんにちは三潟さん」
「西園寺様。そちらの方は?」
「こちらは私の従兄で恋人の小鳥遊です」
そういやそうなんだっけ。母さんと君清さんが姉弟だから従兄か。
「……ふっ」
こいつ、今鼻で笑ったか?
「そうですの。なんとも優れた容姿のお持ちの方を恋人にしたのですね。ですが着こなしに品がないのを見ると……庶民ですね」
「それがどうかしましたか?」
「あら! 天下の西園寺家のご令嬢が庶民と恋をしていると。ふふ。もはやあなたも庶民に近いのですね」
「……」
空が小声で「態度があからさまになったなあ」と呟いていた。
たしかにうるさいな。庶民だなんだなどと。やかましいことこの上ない。だが、庶民なのは事実であるからして。
「大丈夫なのでしょうか。庶民の感覚に入り浸っているあなたにもはや商業の才能は抜け落ちているのでは? ずいぶんと腑抜けになったように感じますが」
「私とあなたは昨日まであまり接点がなかったのですが。数回程度私と話して私を理解した気にならないでもらいませんか。不愉快です」
「数回程度の交流でもわかるくらいに腑抜けているということです」
わお。なんだか腹が立つやつだ。
やっぱ嫌いだ。金持ちってこんなのしかいないのか?




