情に聡くて情に弱いのが西園寺家
西園寺家に、一つ車が止まる。
中から降りてきたのは堂島 梓とその父の孝麿だった。
孝麿は終始無言である。緊張していると言ったほうがいいのだろうか。自分をもはるか上にいる大企業の社長と娘に会うのだから緊張していた。
「何を……いわれるのだろうか」
何を言われるのか。それだけが気がかりだった。
不安に思いつつ中にはいると出迎えてくれたのは空だった。
「いらっしゃいませ。孝麿様、梓様。私は西園寺 空と申します」
「あ、私は孝麿と申します。こちらは娘の梓。本日はこのような会談の席を設けていただき至極恐悦でございます」
「ご丁寧にありがとうございます。では、案内しますね」
二人が案内されたのは君清の書斎。
書類に目を通していた君清の書斎にノックの音が聞こえる。いいぞと許可を出して中に入る。
「来ましたね」
「お初にお目にかかります。私は堂島 孝麿と申します。こちらが娘の梓です」
「西園寺 君清だ……。っと、堅苦しいのはなしでいいぞ。私は堅苦しいのが嫌いなんだ。私も堅苦しくないようにするからあなたたちも堅苦しくなくていい」
「は、はい。恐れ入ります……」
「まあ、座ってくれ」
二人はソファに座ると空がお茶を淹れていた。そのことに二人は驚く。
「あの、お茶は娘さんに任せているのですか……?」
「ああ。何事も人にやらせるのはよくないと思ってだな。給仕として雇っているのはどこよりも少なくしているつもりだ。運転手ぐらいだ。雇っているのは」
「そ、そうなのですか……」
「で、本題に入るぞ」
「はい。申し訳ございません」
君清は茶を啜る。
「梓さんは慧蘭を追い出された。それは事実か? また、それが冤罪というのも事実か?」
「はい。ですが信じたいのですが……まだ私は疑っております」
「…………」
梓は無言になった。
実の父親から疑われていると知られたら……それはショックだろう。自分の肉親にも信じてもらえないのは酷なことだ。
「……自分の娘くらいは信じてやったらどうだ。権力云々の前に親失格ではないのか?」
「……返す言葉もありません」
「私は娘を信頼している。だからこそ仕事を任せているのだ。あなたも自分の娘ぐらいは信じたほうがいい。自分の娘すら疑うっていうのなら一体あなたはなにを信じることができる?」
君清の問いに答える言葉は見当たらなかった。
「まあいいさ。そこは親子で話し合え。で、もう一度聞く。冤罪なのか?」
「事実でございます」
梓が答えた。
「そうか。で、梓さんは復讐をしたいといったそうだが本気か?」
「本気です。やられたままでは悔しい。三潟さんが被害を与えた人も多数いると思います。なので三潟さんを懲らしめたいというのもあります」
「そうか。わかった。じゃ、協力しよう」
その言葉に耳を疑った二人。
孝麿が聞き返す。
「あ、あの、今何て?」
「西園寺家も手を貸すといったんだ」
「あ、あの。お言葉ですがそれはあなたに何の利益も生まないのでは……?」
「そうだな。たしかに協力して得るものはすくない」
「だったらなぜ……」
梓は疑問だった。なぜ利益が少ないとわかっていて手助けしてくれるのか。それが謎だった。
自分なら手助けはしない。それ相応の利益がないと自分は動かないと自分基準で考えてしまう。それがいけなかった。
「西園寺家は情に聡くて情に弱いんだ。本当に困っているのなら、利益がなくとも助けるのが西園寺家だ。代々その理念は揺るがない。だから協力する。梓さんが本気のようだからな」
たとえ利益がマイナスでも本気で困っていたのなら助けてしまう。昔から愚かだといわれているけれど、そのおかげで人々から支持されてきたのかもしれない。
「それに、あの家はずかずかと人の家に土足で上がるようなタイプだからな。私も少々目障りになってきたところだ」
君清の威圧に二人は気おされていた。
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