転校してきた理由
俺は言われた通りに空と一緒に図書室まで来ると、本を読んでいたのか堂島さんは本を閉じて会釈をしてくる。俺も会釈を返した。
「お待ちしておりました」
「ああ、うん」
「立って話すのもなんでしょうし、まずはお座りください」
と言われて俺らが座ると目の前に堂島さんが座る。
「では、私が転校してきた理由をお教えします」
緊張が走る。
もしかしたら……という疑念もないわけではない。ただ、聞いてみたいから。俺は、理由を知りたい。知らないことは恥ずかしいから。無知は恥。俺の持論な。
「簡単に言ってしまえば冤罪……ということでしょうか」
「冤罪?」
「私はしてもいない罪を擦り付けられたんです。信じてもらえるかはわかりませんが、私は何もしていないのです」
冤罪って……。
「冤罪って、誰から?」
「西園寺様ならわかっているでしょうが、三潟様からです」
「ああ、なるほど……。なら、納得」
誰だよ三潟って。俺にはわからないんですが。
「えっと、三潟グループ取り締まりの孫娘さん。あの家は代々的に権力と娘にうるさくて。私のお父さん見たく孫娘を溺愛してるから孫娘が嫌だと思った人にはあらゆる手を使って追い出すんだ。絵にかいたようなお金持ちっていったほうがわかりやすいかも」
ああ、なるほど。大体は納得できたわ。
「私も何度か挨拶をされたことがあってねえ。ぜひとも仲良くさせていただきましょうとうるさかったよ……。断ったらおじいさんが出てくるから余計タチが悪かった……」
空がやつれていく。そんなにやばいやつなのか……。
たしかに空の会社は知名度も有名だから仲良くしたいのはわかるけど露骨すぎるだろ。仲良くして箔をつけたいというのが見え見えだな。
「でも、嫌なことさえしなければ無関心なはずだよ。なにかやったの?」
「えっと、私は何もしていません」
「私は?」
「ええ。私を好きになった人がその三潟さんが好きな人で……。そのせいです」
恋というのはどこもかしこも災難を呼ぶらしい。本宮がそのいい例だ。本宮も恋に狂わされたやつの一人だ。まあ、あいつの場合は救いようがないし死を偽ってでも嫌がらせをしようとする悪質なバカだし……。
まあ、あいつのことはいいとして。
「そのせいっていうのは理不尽じゃないか」
「そう……だね」
「空。なんとかできないか?」
「うーん。したいけど……。まだ、私たちを利用しようとしているんじゃないかっていう疑念が残るよ。初対面だからどうしても疑っちゃうんだよね。しかも、元慧蘭の生徒だからさ……。あそこの生徒は基本的に疑うことから始めたほうがいいってお父さんがね……」
なるほど。金持ちこそ自分の利益を求めがちだからな。空とか君清さんは自分の利益且つ、消費者の利益も考えているからあんなにいい企業なのだろうけど……。
「まあ、信じてみるよ。で、堂島さん」
「はい。なんでしょう」
「一つ聞くけど……あなたは復讐したいですか?」
「できることならぎゃふんといわせてみたいですね」
「……わかった。じゃあ、まずはあなたのお父さんとお話させてもらいたいな。話はそれからだね」
「わかりました。父に伝えておきます」
まだ疑っているのかあまり感情的ではなかった。
俺も確認を兼ねて呟く。
「その椅子いいっすね。チェア、私の椅子と交換しませんか?」
あのノートに書いてあったダジャレを言うと、堂島さんは手を止めた。
その様子に空は疑いの目を向ける。
そして、堂島さんは俺に近づいて肩を掴んでくる。
「あなた……」
「は、はい」
「ちょ、ちょっと堂島さん!」
堂島さんは目をきらめかせていた。
「偶然ですね! 私も同じようなダジャレを考えていたのですよ!」
「……ん?」
「ほかに、いいダジャレはありませんか? ふふ。私、ダジャレが好きなんです。あのくだらなさが最高ですよね!」
「え、ええ」
「いやー、同じダジャレ好き! ふふ。嬉しい。こっちにきてよかったです。小鳥遊さん。これからもダジャレの精進に励みましょうね」
と、人が変わったように話し始めた。
だ、ダジャレ好きなんですね。そうなんですね……。




