堂島のノート
あれから堂島さんを横目で観察していてわかったことは。
・授業は真面目に受けている
・誰に対しても笑顔を振りまく
・気遣い、心配りができている
これらだ。
一見非の打ち所がないが……。空の言う通りなにか前の学校で揉め事を越したとしたら。裏の顔があるっていうことだ。
「うーむ。なぞだ」
「なにが謎ですか?」
「おわっ、びっくりした」
当の本人が俺の目の前に現れた。
ふいに来ると心臓がヤバイ……。
「聞きましたよ。西園寺様の彼氏さんだとか。羨ましい限りです。貴方みたいなかっこいい人が彼氏だなんて……。私にはまだ出会いがないので純粋に羨ましいです」
「あ、ああ。そ、そうか。お、俺ちょっと空のとこ行かなきゃだから」
俺がその場を離れようとするとガシっと腕を掴まれる。
「そんな警戒なさらないでくださいな。私は別に取って食おうとしているわけではありませんよ。略奪なんて私の趣味ではないのです」
「そ、そうか」
いまいちつかめないぞ。
「嘘はついておりませんから。私、曲がったことは大嫌いなので」
「お、俺は曲がっててもいいと思うけど」
「嘘は許されませんよ。嘘は人を傷つけるものです。だから私は嘘をつかない。真実をすべて話すのが私のモットーです。あなたは私が慧蘭から転校してきたことを不思議と思ってるのでしょうし……。私が転校してきた真実を話します。明日の放課後、空さんと図書室に来てください」
そういって堂島さんは去っていった。
このことを空に言うとわかったと了承してくれた。
そして、今日は帰ろうかと席を立つと、堂島さんの席に何やらノートが置いてあった。忘れたのだろうか。俺はそのノートを机の中に入れてやろうとして、手を止める。
ノートには「ネタ帳」と書かれていた。
な、何のネタだ? 俺は気になったのでページをめくってみる。
・やかんでお湯を沸かすのはいやかん?
・ポットから水がポットポットと垂れてきた
・その椅子いいっすね。チェア私のと交換しましょう
・クジラがホエール
・猫がきゃっと悲鳴を上げた
・犬を見て心臓がドッグドッグしてる
……なんなんだこれは。ダジャレ……だよな。
もしかして堂島さんはダジャレが好きなのだろうか。わざわざネタ帳に書くほどダジャレを考えているのか……。それは意外だった。
これを堂島さんが書いているのか……。ちょっと可愛らしいところがあるじゃんか。なんだか、書いているところを想像すると疑っていたのがバカらしくなる。
だけれど、まだ疑いはぬぐい切れない。なんだろうな。この感じ。パラドックス?
疑えないけど疑う。パラドックスが俺の中で生じている。
ダジャレノート……。
このノートで疑うなと言われたらノーとはいえないわ。ノートだけに。




