空の暴走
「あ、改めて……ありがとうございました。小鳥遊さん」
照れてこちらを見ようとしない宮古さん。俺は渡してきたものをみる。
おお、ケーキだ。
「私、お菓子作りが趣味で……その、調子乗ったらそんなのできてしまいました……。お口に合わなければ廃棄してもらっても構いませんので……」
いやいや、ケーキワンホールは調子乗ったらできるの? どんな錬金術だよ。
まあ、ありがたくもらうけど……。すげえな。美味しそう。これ、店で売れるんじゃないだろうか。のっかってるブルーベリー、ストロベリー、ラズベリー。ベリー三種がのっかった豪華なケーキ。
美味しそう……。あとで食べよう。
「あとこれは皆さんで食べようと作ってきました……。そ、その、小鳥遊さんに作ったものよりは劣るし季節外れみたいですがブッシュドノエルを……」
と、鞄からブッシュドノエルが出てきた。
わお。もうこの子パティシエレベルでしょ。すんげえ美味しそう……。
「すんげえ美味そうだな」
「店の物と大差ないように思えるでござるな」
「実際大差ないと思うよ……。ほ、本当に上手……」
「あ、味は保証できないので……ですが、精いっぱい作りました。よかったら……」
「拙者もらうでござる!」
「食後のデザートにいいかもな」
「わ、私ももらおうかな」
「……じゅるり」
宮古さんは切り分けていた。というか、切り分けるのがプラスチックのフォーク……。切りづらいはずなのによく切れるよな。
というか最初から切って持ってくればよかったんじゃないだろうか。という疑問はおいておいて。
「た、小鳥遊さんも……」
「ああ、もらうよ」
俺ももらい、口に運ぶ。
う、美味い。チョコレートの味がしっかりしてるし、このスポンジケーキがいいな。ふわふわで、弾力があって。美味い。
これは言葉にできそうにない。実際、語彙力が低下したと思う。
美味しい(小並感)
「うめえ」
「拙者ケーキは好きじゃないのでござるが宮古氏が作ったケーキなら食べられそうでござる。ケーキ嫌いの拙者の舌を唸らせるとはなかなかの手練れでござるな」
「これ、専門店にも売れると思うよ。将来これで食べていけそうだね」
たしかに。店でも開けば売れそうだ。俺も買いに行く。
「春ちゃん。本気でこれ売らない? 売るなら私が全面的にバックアップするよ?」
「ええ!? えと……私は将来パティシエになりたいですがそれは悪いような……」
「いやいや。大丈夫! なんなら開店費用も私が出すよ。どう?」
「ええ!?」
宮古さんは驚いたようにあたふたしていた。
「私の会社の後ろ盾があるってことは結構いいことがあるよ。私のお父さんの会社の系列となって売ろう? ね?」
「空が珍しく暴走してる……」
「え、ええ、えと?」
「絶対売れると踏んでるからだろうな。さすが会社の娘。自分たちの利益のために動いてるな」
これも社長令嬢の血筋なのだろうか。
スイーツの錬金術師 宮古 春




