空の受難①
「おはようございます。本日もお仕事頑張りましょう」
いつも通りスーツを着て仕事に励む彼女。
自分に与えられた仕事は来客の対応だった。今は中小企業である大橋産業が自社の製品を売りに来ており、応接間まで案内している最中である。
「いや、素晴らしいですね。御社は雰囲気がとてもよろしいと感じられます」
「ありがとうございます。わが社はアットホームな雰囲気を心がけているんですよ」
その時だった。
ブチン! と空の胸のボタンがはじけ飛ぶ。ワイシャツのボタンも一緒に吹っ飛んでいったため、肌が見え、ブラもきちんと見えていた。
思わず空はその場にうずくまる。
「ど、どうなされました?」
「な、なんでもありません。少しばかり目眩が……」
(やばいーーー! 今日ちょっときついなって思ったけど! まさかボタンが外れるだなんて……)
大橋産業の社長は心配そうに空を見つめている。空は愛想笑いだけ振りまいておいて、問題に向き合っていた。
なぜこうなったかをまず考察することから始めたのだった。まあ、空には心当たりがありそうだったが。
(きっと最近食べ過ぎてたから太ったのかも……。うぅ、ダイエットしなきゃ……)
そう決意した空であった。
最近、空の体調が芳しくなさそうだ。
「大丈夫か? なんだか目が死んでるけど……」
「大丈夫大丈夫……」
必死にお腹を押さえている。
あと体調が悪いのかいつも多く作ってくる弁当が昨日からずっと小さい。俺も有難く頂戴はしているがあまり俺も食べず、空にあげようとしても空が断るのだ。
……なんか心配だ。食欲も失せるほどか。体調がすぐれないのだろうな。
明日は胃腸に優しいものをもってきてあげようかな。
と決意し、放課後になる。
俺は放課後は空と帰るのだ。今日は隆たちも一緒にゲーセンに遊びに行くという約束をしているので、空と一緒にゲーセンに向かった。
「今回はみんなでダンスバトルを開催するっす!」
「いええええええい!」
「ふうううううう!」
隆と恭一郎は熱狂を見せるが俺は空の体調が心配してそれどころではなかった。
「まずは俺から行くっすよ! 曲は”ビターソングとシュガーステップ”っす」
曲が流れ始める。俺は空の近くにいた。何があっても対応できるようにと。
光がノリノリで踊り、どこで覚えてきたのかは知らないがブレイクダンスまで披露している。俺は普通なら称賛するのだが、今は空が心配だ。
というかダンスゲーでブレイクダンスすんな。
「次は俺か。俺はこれだな」
と、恭一郎は懐かしのマリオの音楽を流していた。テレッテッテレッテという初代マリオの音楽に合わせて恭一郎はジャンプしたりしている。やられたときも再現していてなかなか面白いと思ったが。
拍手喝さいを送りたい。だけれど、空の様子がおかしいからこのままでいることにした。
「次は拙者! 曲は”まほうしょうじょでんせつ”。今こそ拙者のヲタ芸を見せる時が来たでござるな!」
そして、テンポのいい曲が流れていく。
”まほうしょうじょでんせつ”というのは「あろは」のオープニングテーマであり、神OPと名高いものでもある。
「まほ~しょ~じょとして生きてくのなら~」
「「生きてくのなら? 生きてくのなら?」」
盛り上がっている三人。
俺は空に話しかけた。
「大丈b」
ぐぎゅるるるぅぅぅぅぅ。
大きいお腹の虫が、どこかから聞こえてきた。
こ、これって……そ、空?
空のほうを見ると、照れたように顔を赤くしていた。




