いい体験にはなった
休日。
俺は君清さんに連れられて民天堂の会社にまた来ていたのだった。空がスーツを着て働いており、俺はたんに呼ばれただけの事。学べることがあったら学べ、仕事を今のうちに把握しとけ。たぶんそういうことだろうな。何も言わなかったのは試練を与えてくれてるんだろう。
俺は邪魔にならない程度に見学をさせてもらっていた。
ちょうどお菓子の開発しているところにいくと、なにやらチーズの匂いがする。
チーズか。お菓子の。
「モッツアレラ、ゴーダ、クリーム、ブルー、カマンベール…」
思いつくチーズはこれくらいだ。
モッツアレラは食べたことがない。とろけるチーズなら食べたことあるくらい。あとはぎりぎり6Pチーズぐらいか。
と、俺がその匂いがする場所に顔を覗かせると。
チーズケーキが数個置いてあった。きっと社員さんの差し入れだろう。食べたらだめだな。帰りに買ってこう。
だけど、チーズの匂いを嗅ぐとチーズ食べたくなるんだよ。俺って前世鼠だったもな。だけど鼠はチーズ食わないけどな。
「久太くん!」
「おう。空」
スーツ姿もかっこいいし可愛いな。
「えっと、久太くんさ、梅干し食べれる?」
「梅干し? 食べられるけどどうした?」
「実は試作ができて。私梅干し嫌いだから……食べてもらいたいんだよ」
「ああ。そんなことか。わかった」
それにしても、空は梅干し嫌いなのか。たしかに弁当にいつも梅干し入ってないよなあとは思っていたが。
試作を手に取って口に運ぶ。
ほわっと口の中に梅干しの酸味が広がっていく。今度はチョコレート。梅干しのチョコレートか。これはこれで新しい味かも。
でもちょっと酸っぱいな。
「ちょっと酸っぱいです」
「梅干しの量が多かったか……。ありがとう」
ただ、お茶には合いそうだ。
これ食べた後、緑茶を飲んだらきっとうまいだろうな。和のチョコレートみたいな感じで。このようなやつってほのかに酸味が感じられるのが結構ベストなのかも。
「梅干しを前面に出すのではなくてほんのり梅の香りがする程度が美味しいかもしれませんね」
「それだとしたら梅干しの意味がなくなるわ」
「ですよねー」
他に案だとしたら。
「ああ、あれだ。ロシアンルーレットみたいにしては?」
「ロシアンルーレット?」
「ほら、駄菓子にもあるじゃないですか。三つあるうち一つ酸っぱいやつ。あれをモチーフにしたらどうでしょう」
「ああ、それいいかも。他の二つはほんのり香るだけ。もう一つはものすごく酸っぱいチョコレート。あるいみ冒険的でいいわね」
「ではその路線で挑戦してみてください」
「わかりましたー!」
といってまた試作に向かっていったのだった。
「ありがと、ね。まさか案まで出してもらえるとは思ってなかったけど」
「いや、こういうのはどうかなって思っただけだよ」
「そーなんだ」
案が浮かんだから言ったまでなんだよね。俺はまだ入社してないし案までは出さなくてもよかったかもしれないな。
まあ、これもこれでいいか。いい体験にはなったし。




