職場見学に行こう!①
「と言う出会いだったんだよ」
出会いを話し終えた。
「……それだけ?」
「それだけだよ。案外普通だろ」
出会いなんてそんなもん。
ドラマとかそんなものはない。そんな単純な出会いだからこそ仲良く続くのかもしれないな。
「普通の出会いからこう長く続いてるのでござるよ」
「……あ、そういや光くんとの出会いは?」
「恭一郎たちと同じっす!」
「……そうなの」
小寄はおかずを口に含んでもぐもぐと口を動かしていた。
「ま、振り返ったらホント俺らには何もねえな」
「そうだな。それわかるわ」
平凡な毎日を楽しんでいた。それだけだった。
「拙者たちであった時から何も変わってないでござるな……」
「……変わっただろ。久太は」
「そうっすね」
たしかに。
見た目だけだけどな。
「……あっ!」
何かを思い出したかのように叫んだ空。
「そうだ!みんなで職場見学行こうよ!私の会社求人だしたから!」
そう言うのだった。
株式会社民天堂。
世界的にも有名な大企業であるからして。本社は本当は東京にあるらしいが、社長がずっとここにいるということで本社みたいなものか。
「我が社は多岐にわたる様々なジャンルに手をつけております。化粧品やゲーム、製菓など。昨年の経営成績はこのようになっております。何か質問は?」
その会社に職場見学に来ています。
もちろん俺ら個人で…ということではなく、他にも人がいる。違う高校の制服も見えるのでその人もここに希望を出しているのだろう。
「はい」
「はい。そこの黒の学ランの方。どうぞ 」
「ここって大学出なくてもいいんですか。大企業は大学卒業した人しか取らないというイメージがありますが」
「それは偏見です。高卒もきちんと雇いますよ。第一、我々が求めているのは優秀な人材。大学卒業しても何もできない人がいれば高卒でも仕事をこなせる人もいる。大学を卒業してもしてなくても大差ありません」
うわあ。あの人すっぱり言い切った。
要約すると大学には行かなくてもいいよ。あそこと高校はそんな変わらないから。ということだな。
「あー…自分もいいですか」
と、俺の隣の男子が手を挙げた。
「はい。どうぞ」
「やめた人ってどれくらいいるんすか」
「やめた人、ですか」
聞きにくいこと聞くなあ。
「やめた人は五人程度でしょうか。結構多いですがやめた理由は不幸や幸運が訪れた、としか言いようがありませんね」
「やめた理由?」
「本州に住んでいるお爺さんが逝去して家業を継がなくてはならなくなった者、結婚して寿退社した者などが理由です。我々の会社は至ってホワイトですよ」
「ありがとうこざいます」
この人聞きにくいことを聞くのは本当に怖い。
「他に質問がなければ次は会社内を見学したいと思いますが。……ないようですね。では、会社内の見学をしましょう。ここからは担当が変わるのでその担当の人についていってください。では」
そういって、女の人は退室していった。
それと入れ替わりで空が室内に入ってくる。真剣な顔をしていて、ビシッとスーツを決めて。
かっこいい。仕事ができる人みたいで。
会場も空に釘付けとなっていた。可愛いもんな。
……さて。次は見学か。




