俺らの出会いの前の前
クラスが違えど、非モテ集団とは毎日遊んでいる。
いつも笑顔で明るく過ごしている俺ら。だけれど、今日はなんだか暗い雰囲気となっていた。いや、なってしまった。あることを自覚してしまったから。
「もう、何月もしないで卒業っすねえ……。卒業したら、俺らどうなるんっすかね」
「わからん。問題はそれじゃなくて」
「そうでござるな……。非モテ集団が無くなるでござる……」
卒業したら、俺らは別れてそれぞれの進路を歩く。それに伴い、今の関係も、消滅していくのだ。それが怖い。俺も少し怖い。
卒業して、空と付き合って働きたいとも思うが、卒業しないでずっと今の非モテ集団と一緒にいたい。そういう気持ちもある。
一回は解散の危機に陥りつつあったが、持ち直し、今でもこう、続いている俺らの関係。これが、卒業と同時になかったことにされる。いや、なかったことにはならないか。
多分、将来また出会って、あの時この集団って名乗ってたよなって笑いながら話すレベルになってしまう。俺らにとっては大事なものなのに、時間とともに風化していく。俺はそれが怖い。
「……なら留年する」
「それも嫌だろ。非モテ集団をずっと残すために留年とか鼻で笑われる」
「……そっか」
嫌でもなくなってしまうのだ。俺らが卒業したら、名乗る人はいなくなる。学校ではある意味有名で、モテない男集団(今はモテないという概念が失いつつあるが)だ。その集団をなくすのは惜しいと、思ってくれる人はいない。
みんなはモテることに希望を持っているから。俺らはいわば諦めたものの集まりでもあったから。
「ちょっと聞いていい?」
「なんでござるか西園寺氏」
「そもそも久太くんたちはどうやってであったの? 趣味とかもばらばらだよね」
「聞きたいのか?」
「うん。ちょっと興味ある」
「ソレ! ワタシもありますデス!」
昔話はあまり好きじゃないんだが。離しておくのもいいか。
あれは今から36万・・・いや、1万4000年前だったか。
「兄さん! 番号あった?」
「あった」
俺は雪が解けない三月。合格発表のために高校の前に妹と来ていた。
ここは結構難しいところで、俺はなんとなくそこを受験してみた。俺は将来になんの見通しも持てず、共通した趣味を持つ友達もおらず、ただ一人。その日その日を無心で過ごしていた。
つまらない。
どうせ高校でも友達は一切できないに違いない。高校デビューとかは俺には無縁な話。何をどう頑張っても浮いていることになるのが目に見える。
ほら。今も周りがひそひそと俺のうわさ話をしている。汚い、不潔だの。たぶんそんなことを言ってる。
「よかったじゃん。よし。受かったから今日はパーティーだね!」
「無理だろ。父さんは俺を連れてかねえし」
「え? でも私が外食したいって言ったら普通に連れてってくれるのに?」
「それは瑞穂だからだよ。俺の場合は連れてってくれねえんだ」
父さんは娘偏愛主義。俺には一切の愛を注がない。
嫌いな人はあまり作りたくなかったが、どうしても嫌いになったのだ。たぶんあっちも俺のこと嫌いだと思うがね。
「お父さん優しいのに?」
「優しくねえよ。いずれそれに気が付く時が来るから覚悟しておけよ」
「う、うん?」
俺は瑞穂の頭を撫でる。
すると、隣に可愛い女子が通った。
通ったその時に俺の鼻に柑橘系の香りがする。ちょっといい匂いだった。誰なんだろうかあの子。今年あんなかわいい子入学するんだ。……違う学校にすればよかったかな。
そう思ったのは、気のせいだ。




