閑話 空の休日
休日。私は目が覚めた。
朝起きて、日課のラジオ体操をする。
『腕を回します。1、2、3、4』
ラジオにあわせて体操をする。
これが毎日の日課だ。
そして、ラジオ体操が終わったら朝食を食べる。
今日の朝食はジャガイモのポタージュスープ。もう夏に入りそうなので冷スープだ。美味しい。
朝食を食べ終えると、次はスーツに着替える。
私は日々お父さんの会社の手伝いをしているからだ。一人だけ私服というわけにはいかず、私もスーツを着て働いている。給料とかはないけれど、楽しいからいいんだ。
「空。いくぞ」
「うん」
私は車にのっかって会社に向かった。
私のお父さんが経営する民天堂は、ゲームをはじめ、様々な分野に手を付けている。ゲームが主力だが、化粧品や、お菓子、家電製品など幅広い製品を製造していたりする。どれも一定数の顧客がいるから続けられている。
そのため、私の会社にはゲーム開発課、化粧品開発課、お菓子製造課、家電製品製造課などに別れ、社員の数も多い。
そして、今日はゲーム開発課に顔を出していた。
「ゲームの作成は進んでいますか?」
「ばっちり! といいたいところなんですがねえ。ちょいと世界観に迷っていまして。現代ファンタジーにするか異世界ファンタジーにするかで」
「……いせかい?」
「知りませんか? ライトノベルでは結構ありますよ。異世界物だとかね」
「ライトノベルというものはあまり読まないので……。不勉強ですいません」
「いえいえ。そんなことは。……参考までに聞きますが、どちらがよろしいですかね」
「私は……言葉の響きですと現代ファンタジーが好きですね」
どうも現代という言葉は好きだ。
「現代ファンタジー。ではその路線で行ってみます」
「参考になれれば幸いです。さて、私はプログラマーさんの様子たちを見てきます」
私はその場から離れる。
プロデューサー室をでて、今度は分けられたプログラマー班のところに。そこでは黙々とキーボードをたたくプログラマーさんたち。
次発売するゲームのプログラムをしているんだな。もうそろそろ期限なはずだから忙しいか。邪魔しないようにほかに行こ。
その時、誰かにぶつかった。
「わっ!」
「きゃっ!」
思わず転んでしまった。
胸元が、熱い。見てみると、私のスーツにコーヒーがこぼれていた。
「す、すいません! って、わあ!? す、スーツに!? 申し訳ございません!」
「いいんですよ。気にせずとも……って、誰かしら」
「あ、私は今年入社した新人の鬼頭 美鈴と申します。あなたは見たところ高校生でしょうか。職場見学に来たのですか?」
「いえ、ちが」
「きっと迷子になったのですね。スーツについたコーヒーを落としたいのでキャラクター班のところに来てもらえませんか?」
「……はい」
私、迷子じゃないし。そもそもまだ求人出してないよ……。
だけれど、私もこのコーヒーのシミは気になるし、お言葉に甘えてついていった。
隣には鬼頭さんが歩く。なんだかワクワクした顔で。うんうん。いい顔だね。楽しそうで私も楽しく感じるかな。
給料以前に、楽しく働ける職場っていいよねえ。
「リーダー。迷子らしき子供連れてきたんでちょっと仕事休んでてもいいですか?」
「いいよー」
奥から声が聞こえる。
「では、すみませんがシャツを脱いでもらえますか? 先ほど男性は払いましたので」
「わかりました」
シャツを脱いで、下着姿になる。ちょっと恥ずかしいな……。と思うぐらいだ。
まあ、前に久太くんと一緒にお風呂入ったから、少しは恥ずかしくなるのを防げたのかもしれない。
「では、すみません。こう、濡らしたタオルでとんとんと……」
……そうやれば落ちるんだったっけ?
私が悩んでいると、奥から誰かがあらわれる。
腰ぐらいまで髪が伸びている人だった。
「あ、リーダー。すいません」
「おう。で、迷子ってどの子……」
そのリーダーが私と目が合って固まった。
「ま、迷子って……その子?」
「はい。そうですけど」
「……鬼頭。その人は迷子じゃない」
「え? ですが高校生は……」
「まだ求人は出していないんだぞ? 職場見学になんてこられるものか」
「あ。そうでした。ではこの子は誰ですか?」
リーダーが鬼頭さんの肩を掴む。
「バカお前! この子は社長の娘さんだぞ!」
「ほ、本当ですか!?」
「はい。西園寺 空っていいます。よろしくお願いしますね。鬼頭さん」
私がにっこりあいさつすると、慌てた様子の鬼頭さんの姿が目に映る。
「どど、どどどど、どうしましょう!? 私迷子扱いしてしまいました!?」
「落ち着け! 誠に申し訳ございません空さん! うちの部下が!」
「申し訳ございません!」
「あー、顔上げてください。私は気にしてませんので」
本当に、お父さんの娘って大変だなあ。




