断罪の時①
昼休み。俺は、三橋を体育館に呼んだ。
今から始めるのは、悪人の断罪だ。俺が許せぬ相手との対峙。一人の女の子を、糾弾する。今までにやったことがない。少しだけ胸が痛い。
あんな女にも、罪悪感というものは感じてしまうらしい。
だけれど、戸惑っていられるものか。躊躇してられるものか。
「な、なにかな。急に体育館にまで呼び出して」
隣には空がいる。
空も三橋と同様、なにがなんだかわからない様子だった。
「三橋さん。はっきり言おう。俺は君のことが嫌いだよ」
俺はそう告げた。包み隠すこともしなく。
そう告げると、三橋は、少し涙目になっている。そして、隣にいる空を睨んでいた。
「君がしたことはわかってるよ。空の悪評を流したのは君だ。嘘をついて、空を悪者に仕立て上げた。君は、本当は俺の事なんか好きじゃないんだろう?」
「ち、ちが……私は、小鳥遊くんのことが……気になって……」
「違うな。お前はイケメンに媚びるビッチだ。騙せると思うな」
変身しても、リミットがある。そのリミットが今だろう。化けの皮が剝がれたのだ。その本性を今からさらしてみせる。
「君とあったとき不自然に感じたよ。なんで痣も何もないのに足をひねったのかって。そこから疑問に感じていた。そして、つい先日。それが確信に変わったんだよ」
「わ、私は……!」
「俺は、入院中の授業を受けていた。その時の休憩の時に聞いたんだよ。隆と君が話してるとこ。そして、空と隆の家を潰すって言ってたことも知ってるんだ」
そういうと、三橋は顔が変わる。演技っぽかった悲壮感ではなく、憎しみの顔。憎悪の視線を空に向けている。
この視線の感覚は本宮と似ているのだ。だからこそ、畏怖を感じる。
「三橋。お前はヒロインじゃないからな。お前はただの悪役だ」
そして、三橋の幻想もぶち壊す。
容赦はしたくない。幻想も、現実も何もかも壊したかった。空を苛められたんだ。俺だって苛める。やられたらやり返す。目には目を歯には歯を。そういう言葉があるようにきちんとやられた分はお返しするべきなのだ。
「俺はお前のヒーローになりたくはないし、ヒロイン面されたくもない。二度と、俺に声をかけないでくれ」
そして、俺から突き放した。
すると、もう、本性を隠す気はないらしい。
憎しみの顔を向けていた三橋は話し始める。
「なんでなの……。なんで私が……。そっか。泣きついたんだ。みっともない。人に頼ることしかないの?」
彼女の声は震えている。よほどショックなのだろう。
「小鳥遊くんは私のものなのに……。なんであなたのになるの? 私がヒロインよ! あなたは悪役なのよ! 私はこんなの認めない! こんな茶番なんて認めない!!」
三橋の叫びが体育館に響く。
「小鳥遊くんは私のもの! 私のにしないと気が済まない! 私中心に世界が回っているのに! なんで私に逆らうの! 私がほしいんだから私のなの!」
子供みたいに泣きじゃくる三橋。
もはや、考え方が幼稚で、何も言えなかった。自分がほしいものはなんだって手に入る。そう思っていることこそ、間違いなのに。
甘やかされて育ってきたんだな。親もろくなやつじゃなさそうだ。
「きゅ、久太くん。可哀想だよ」
そう空が言うと、その言葉に刺激されたのか。
「あんたからの哀れみはいらないわよ!」
そう、突っぱねられたのだった。
そのことに少し怒ったのか、空の表情も変わる。
そして、空は三橋に近づくと、乾いた音が、体育館内に響くのだった。




