悪意の香り
ゴールデンウィークに入り、そして、終わると、なんだか空に対する視線が変わったような気がする。
なんだか、蔑視の視線というのを感じた。
「あれがイケメン狙いで付き合ったっていう西園寺先輩だぜ?」
「そうだったのか。小鳥遊も腹黒女に付きまとわれて大変だな」
なんだその噂は。
空が腹黒?何のことだろう。俺に同情する声と、空を侮辱というか、そういう声。
俺はあまり気分が良くないが。
「空、なんかしたのか?」
「ううん?私は何もしてないけど……」
「だよな。空は何もするわけねえもんなあ……」
となると、下級生とかに広まっているこの噂は何だ?誰がそんな根も葉もない嘘を言ったんだ?
ちょっと腹立つな。俺の彼女を侮蔑するなんて。俺が騙されてる?そんなわけあるかよ。
「久太くんは気にしなくてもいいよ。こういうのって私は何ともないからさ」
「でも、こういうのは放置しておけないだろ」
「うーん。そこら辺は私が何とかしとくよ」
そういう空は苦笑いを浮かべていた。
なんだか心配だ。
後で、隆たちと対策を立てよう。
とはいえ、俺のクラスにまでその噂は広まってるのやばいよなあ。
二年のクラスならまだしも、こっちは大体新しい人で、空の性格とかはわかってない人だ。いや、この人たちは噂では聞いたことあるかもしれないけどな。
「小鳥遊。悪いこと言わねえ。あいつと別れろ」
「小鳥遊くん。あんな腹黒女に付きまとわれて迷惑してるんでしょ!」
人の口に戸は立てられぬとは言ったものだ。
「俺は別れる気はないよ。というか、空は腹黒くないんだけど……」
「え?西園寺さんってイケメンが好きだから取っ替え引っ替えしてるって」
「してないよ…」
「え、でもしてるってみんな言ってるよ」
「そうだ。みんな言ってんだよ。だから別れた方が身のためだって」
「……はぁ」
みんなが、ねぇ。
みんなが言うから…。だけれど、みんなと言う奴は存在しないんだよな。古今東西問わず言われているのだ。
みんなが言うから、やるのだとか。
お前らはみんなのことを信頼しすぎだよ。だからお前らは流されやすいんだよ。
「わかったよ。忠告だけは聞いておくわ」
話半分には聞くことにしたけれど。
なんでそんな噂が流れているのだろう。誰がこんな悪質な噂を流しているんだ?
ちょっと…いや、ちょっとどころじゃない。ムカついてきたぞ。
俺のイライラは増していくばかり。
この噂を流したやつをとっちめてやる。
「西園寺 空って…。きゅーたの彼女だよな」
自販機で飲み物を悩んでいる高垣はその噂を耳にした。
いつも一人の彼女は、少し悩む。
「きゅーたの彼女か……。助ける義理はねぇんだよな」
と、頭をかく。
だけれど、高垣は考えなかった。
「まあ、こういうのは俺も腹立つしな。きゅーたを奪うのは俺は真剣勝負だ。こういうことするやつは…ムカつくぜ」
高垣は小賢しい小細工が嫌いだった。
常に真剣勝負が好き。男を奪う時も常に真っ向に。それが彼女のポリシーだ。
自分に恥ずかしくない生き様を。自分が後悔しないように。
そして、久太にも恥じずにいられる。
もはや、久太より男っぽい。マジで。
「とっとと炙り出してしめるか」
腕を鳴らして、そう決意していた。
それを聞いた通りがかりの隆はそそくさと逃げ出したのだった。




