ハッピーエンド
結果的には、この病院は爆発せずに済んだ。
だけれど、俺らには沈黙が流れる。まだ、勝負は終わったわけじゃない。本宮とは終わったかもしれないが、まだ、那智ちゃんがいる。
俺らは、終わるまで、喋れずにいた。
すると、手術室の明かりが消える。そして、ドアが開かれた。
「手術は無事終わりました。那智さんは助かりましたよ」
そういったとたん、会長は、その場に崩れ落ちた。そして、涙を流している。空もつられたのか、少し涙ぐんでいた。
「よかった……。これで、終わる。那智も、病気から、やっと解放される……」
本宮のその後は、家共々潰され、海外に逃げたそうだ。
那智ちゃんも手術後のリハビリとか順調であり、俺の足も立てるくらいには回復をしていた。あの事件から数週間。もう、五月に入ったころだ。ゴールデンウィークが、また来る。
「空。ごめん。もう一度、俺と付き合ってくれないかな」
今は、空が不機嫌だった。俺が何言おうと、知らんぷりする。それがちょっと可愛いのだが。
「あの時は、空の家に被害が及ぶって思って……。ね?」
「わかってるよ。でも、私だって覚悟はあるのに私の心配ばかりして。それが嫌なの。私だって久太くんの罪は背負うこともしたいのに」
「ごめんって。こういうのって男がたいていやるもんだからさ」
「女性もやったっていいじゃん。そういうのよくないよ。私もカッコつけたかった。護られてばかりの姫じゃやだよ」
といって、また、違う方向を向いた。
お転婆な姫様だこと。どこかのゲームの姫様は見習ってほしいものだ。なんでずっと攫われるのだろうかと結構疑問に思ってたりする。
「だからちょっと怒ってるからね。私ともう一回付き合いたいなら私の機嫌を直してね……」
と、いってきた。
どうやって機嫌を直すべきなのだろうか。こういうとき頼りになる人はいない……。いや、一人だけいるな。愛の国出身で、天真爛漫な自由人の姿が思い浮かんだぞ。
うーむ。ここは、そのフランス人の真似をしてみるとしようかな。ちょっと恥ずかしいけど……。
「空」
俺は名前を呼んだ。
「……なに」
と、ゆっくりとこちらを向く。俺は、その瞬間、唇を重ねた。
……ヴァレンタインに学んだようなことだが、これが一番なのだろうか。自信はない。だけれど、もう、後戻りはできないのだ。このまま、やけになって突っ走るのみ!!
「ちょっ……! んっ……!」
流石に舌は入れないけどね……。それは、ちょっと恥ずかしい。
俺らが口づけ……もといキスをしていると、突然足に痛みが走る。
「うっ……」とうめいた後、叫んでしまった。
「いってえええええ!!」
「な、なに!?」
俺の足を蹴ってきた犯人……那智ちゃんは、膨れ顔をしていた。
「ずるい」
「……は?」
「空姉ちゃんだけにキスしてズルイ。私にもキスして」
な、何を言ってるんだこの子?
俺は床で傷みに悶えているんだけど? 足治ってきたとはいえ蹴られたりすると超痛いんだけど?
「私にもキスしないと、もっかい蹴る」
と、足を振り上げた。
俺はその脅しに屈してなるものか……!!
「はい! しますので許してください!!」
と、屈してしまったのはなぜだろう。
空がジト目で見ている。うう、やりづらい。
と、那智ちゃんは目をつむって待っているようだった。
俺は、おでこにキスをする。はたから見れば完全にロリコンだよな……。という現実逃避をしながら。
「……そこじゃない」
「き、キスはキスだよ。さ、さて。飲み物でも買いに行こうか。空。那智ちゃん」
「う、うん」
「むう」
俺は、空の肩を借りて、エレベーターホールまで行く。エレベーターに乗ると、誰も喋らなかった。
そして、不意に、空はしゃべりだす。
「……さっきの返事だけどさ」
「うん?」
「キス、嬉しかったよ」
といった。
「それって……」
と言おうとした瞬間に、一階に到着した音が鳴った。
「ほら、行こ! 久太くん」
「お、おう」
俺は、空に引っ張られながら、出て行った。
いい最終回だった。(最終回とは言っていない)




