対峙
バレる嘘をついた理由はなぜか。
それはまだ俺にもわからない。だけれど、一つ思うのは君清さんに目的があるということは確かだ。
俺に嘘をつかせてまで目的を果たしたい。いや、目的を果たすためには俺が嘘をつくことが必要なのだろうか。
嘘つくことで俺を危機に陥らせる。それが、何かあるのだろうか。
君清さんが俺を貶めるとは思わない。だからこそ、疑うのだ。
俺が嘘をついたらどうなる?
マスコミもバカじゃないから裏付けのために学校に向かうだろう。嘘がバレるのは必然だよな。
嘘がバレるとはわかっているだろう。嘘がバレるのを仮定して君清さんがやりたい事……。
わからない。俺は頭を抱え、悩み続けていた。
俺には会社のこととか社交界?とかそんなのよくわからない庶民だから、こういうことはわからない。
君清さんには目的がある。それは何なのかはわからないが。
「空は隠れていろ。そろそろ来るだろう」
君清は、空を病院の個室に隠れさせる。その時誰かが、病院を訪れた。
手にはナイフを持って。やはり来たかと君清は笑う。
「待っていたよ。本宮 妙」
「あら。よく嘘ついてまで隠したがる西園寺 君清様」
妙は嘲笑った。
「そして、私の祥太郎を殺した人を庇う愚か者さん。あなた、小鳥遊という方になにか個人的な私情でもあるのですか?」
「ある。私の姉の息子だからな」
「まあ!なるほど!従兄妹なのですね!」
「ああ。で、話はそうじゃないんだろう。妙」
と、君清は妙を睨んだ。
妙はなんのことかと笑う。
「本当は生きているんだろう?祥太郎は」
「なんのことでしょう」
「少年院からいなくなったのはお前が金を渡していたからだ。それで、遺書だけ残して祥太郎が自殺したことにした。現場には死体がないのはそのせいだろう」
と、君清が言うと、妙は少し険しい顔をした。
「私が小鳥遊くんに嘘をつかせた理由もわからないだろう?そんな低脳な頭では私の考えは読めるまいに」
君清は煽った。
どんどん不満を募らせる。きっと今なら小鳥遊を殺せるだろう、息子の無念を晴らすべくと母親が来たのだから。
それもそうだ。嘘をついた理由は本宮をおびき寄せたかったから。嘘をついて疲弊しているところを狙うということだった。
案外隙だらけの作戦で、穴もあったのだが、本宮には効果覿面である。
現に、釣られてきているわけだから。
「この程度の罠にひっかかるとはやはり間抜けだな。母子共々愚かだ」
「侮辱するのはよしてくださいまし。君清」
「侮辱?私はそんなことしていないがね。それに、嫌がらせをしているんだ。こっちも反撃しようかとね」
「子供の喧嘩に親がしゃしゃり出て来るのもどうかと思いますが?」
「それはそっくり返そうか。本宮」
本宮の母親には反論する術がない。
手にはナイフを持っているのだから。最早言い逃れはできない。
だけれど考える。
君清を殺せば、私がここにいるのを見たという人はいなくなると。愚直で愚かな考えだったが、それを実行すべく妙は君清に近づいた。
「わかってんだよ。そういうことに出て来るのは」
刺そうとしたのだが、寸前で止められる。
そして、パシャりとカメラの音が鳴った。妙がそこを見ると、カメラを持った人がそこにいた。マスコミの一人である。
「誰もいないと思ったか。辺りが暗いということで誰か隠れているということも容易に想像出来るだろう。だから愚か者なんだよ、君は」
と、ナイフを奪い、地面に思い切り叩きつけ刃を折った。
「私の目的は本宮を潰すことだよ。久太くんにはすまなかったが囮になってもらった。マスコミで疲れているところを狙うってことは想定済みだよ」
君清が嘘をつけた言った理由。それは疲れさせるためだ。昨日、本宮の家のものが久太を襲ったことを聞いていた。そして、失敗したことも。
だからこそ、思いついた。久太は疲れていなければ対応はできる。ならば、疲れさせて囮になってもらおうと。
まあ、それ以外にも目的はあったようだが。
その目的は単に娘を取られて悔しかったからちょいとした嫌がらせというのもある。
まあ、それはほんの少しだけだが。
「じきに警察も来るだろう。その時は、殺人未遂ということになるだろうな。よかったな。まだ未遂で」
君清は笑い、病院の中に戻っていった。




