この人がいれば警備員さんはいらなさそうだ。
俺が眠れずに起きていると、足音が聞こえる。
巡回している看護師さんだろうか。でも、この時間は巡回するのだろうかとも思うが。
すると、ドアが開かれる音がする。
看護師……ではなさそうだ。何やらぶつぶつ言っている。俺はうっすりと目を開けてその人を待つ。すると、懐中電灯か何かで照らされた。
見てみると看護師さんではない。ナース服を着ておらず、なおかつ男の人だ。白衣は着ているから医者だろう。でも、医者がこんな夜遅くまで見回ることはないだろう。
怪しい。俺はちょっと狸寝入りを決め込むことにした。
寝たふりを決め込んだとたん、その男は俺に近寄ってくる。
手には刃物を持っていた。なるほど。殺そうとしているのかもな。逃げられない。俺はバレないようスイッチを押した。
「寝てる……。くくく。殺す」
と不気味に笑う男。
そして、ナイフを振り下ろしてきたのだった。それは俺は躱せず、片手で受け止めるしかない。もう片方の手は今背中にあるから。
「いってえ!!」
ナイフが俺の手のひらを貫通する。
手に刺さると真面目に痛い。穴が開いただろう手のひらに!! これ超痛い!!
「っ! 起きてやがったのか!!」
と男は俺の手からナイフを引き抜こうとする。
俺はもう片方の手で男の手を押さえつけた。こいつが誰だか知らないが、とりあえず俺を殺そうとしているのは理解できた。
「離せ!」
「……断る」
右手の痛みを我慢しながらそう答える。
やはり左手は力が出ない。このままだと力負けする。
「なんで俺を殺そうとするんだよ。死ぬんだから聞かせてくれ」
と動機を尋ねると、男は静かに答えた。
「お前のせいでぼっちゃんは捕まった。お前が西園寺様と付き合ってるから」
それだけの言葉でだれかわかってしまう。
こいつは本宮の付き人だ。本宮がつかまったから逆恨みで俺を殺そうとしているのだろう。きっとこいつは本宮が好きだったのだろうな。
だが、捕まったのは本宮のせいだし、俺は関係ない。
「逆恨みにもほどがあるだろう」
俺は笑ってみせた。
「なにを!!」
男は激昂し、俺の手を振りほどく。
すると、勢いよくドアが開かれたのだった。
「どうしましたか!?」
やっと来た。やっと来たか。
「……! なにしてるんですかあなた!」
「な、なぜ人がここに……」
「そのナイフを離しなさい。そして患者から離れろ!!」
と、聞き覚えがある声がする。
そのナースの顔を見ると、それはどこかで会ったような顔。百瀬さんの親だった。
俺もあったことがあるし、その恐ろしさはわかっている。人を殺せるような力を持ち、それを娘にも遺伝させているある意味チートの母親。
そのチート母が、看護師をやっていた。
「……近づいたらこいつを殺すぞ」
「やれるもんならやってみな。やったと同時にお前が死ぬぞ」
その言葉が本当になりそうで怖い。
というか、百瀬さんの母親本当に怖え!! 眼力だけで人殺せるレベルだよ。きっと百獣の王ライオンにも素手で勝てるレベル。
「わかった。じゃあ」
と、ナイフを振り下ろしてくる。
だが、ナイフは俺まで届かなかった。気が付くと、その男は吹き飛んでいたのだった。何が起こったのだろう。と、その男を見ると、近くに枕がある。
ま、枕で人を吹っ飛ばしたのか?
「大丈夫? 小鳥遊くん」
と、俺の様子をうかがってくる。
大丈夫じゃないです。ある意味。
「あ、ありがとうございます百瀬さん」
「ふふ。大丈夫よ。患者さんを守るのが私の使命だからねえ」
この人がいれば警備員さんはいらなさそうだ。




