事案が発生した
「じゃ、またいつでも来てね〜。久太、送ってってやんなさい」
「もとからそのつもりだよ」
現在の時刻は七時を上回る。
夏休み入ろうとしている今、まだ外は明るい。北海道の夏は涼しいと言われてるけど、北海道人は暑さにも寒さにも弱い。ソースは俺だよ。
「じゃ、いくか」
「あ、兄さん帰りにナインでアイス買って来て」
「え?俺ネイコマのほうが好きなんだけど」
「瑞穂はナイン派なの。文句言わない」
「……あいよ」
俺は靴を履く。
「あ、そうだ。瑞穂」
「なに?」
「約束、覚えてるよな?」
「……」
覚えているらしい。
ならばよし。まあ、あれは冗談だろうけどさ。
「それじゃ、お邪魔しました」
「いえいえー。また来てねー」
俺は西園寺さんと一緒にでていった。
夏の夜は蚊とか飛んでてうざったい。気温は丁度いいくらいに下がってるけど蛾とか超うざい。
でも自販機の光に集る蛾とかみるとまさに夏という感じがする。
「もうそろそろ夏休みだね」
「そうだな」
「それでさ、久太くん」
「なんだ?」
「わ、私と一緒に京都行かない、かな。もちろん友達誘ってもいいけど」
「京都?」
「うん。お母さんの実家に行くことになって、友達とか誘いたい人いるなら誘ってと言われてて…」
「ああ、なるほど」
京都か……。歴史溢れる日本の都。
ふむ。前々から行きたかったし、それもいいかもな……。
「わかった。非モテ集団も誘っておくよ」
「おっけー。八月一日からだからそれまでに準備しておいてね」
「了解」
八月一日から京都か。楽しみだ。楽しみで仕方がない。
俺もともと歴史好きだし。戦国武将とか超好きだよ?真田幸村とか、武田信玄上杉謙信……。京都はどちらかというと天皇が住んでたからね。
あと京都で有名なのは本能寺か。本能寺の変が起きたとこでも有名だ。
……ちょっとだけ胸が高鳴る。
ちなみに俺の推してる武将は真田幸村です。
家に帰って携帯を開く。
ラインのグループで非モテ集団が今日も話していた。
『ちーす』
『来たでござるな久太氏』
アニメのアイコンが喋る。
アニメのアイコンは隆だ。
『いやはや、やっぱ付き合ってる人はこんな時間に来るんすか』
『いやいや、今日はたまたま家族に紹介しただけでこんな時間だよ』
『そうなのか』
『やっぱ文字打つの怠いでござる。通話よろし?』
『おーけーっす!』
『あいよ』
『わかった』
そして少し経つと通話が始まった。
グループ通話はいつもしていることだ。基本的に文字打つのが怠いからこうして通話してる。
『今日はすまなかったでござる。心から謝罪を述べたい』
『そうだな。俺としたことが醜い嫉妬心に駆られてしまったぜ…』
『やっぱ拙者たちはまだまだでござる』
「まだまだだね」
まあ、みんなそうだと思うけど。
みんなダメダメだ。世の中のイケメンも、美少女もすべてダメだ。
現実はクソ。非モテ集団の共通で認識していることはそれだ。
「あ、そうだ。お前らに話があんだよ」
『話?』
『まさか、俺たちと縁切るってことっすか!?』
『人でなし!非モテ集団を煽ってそんな楽しいか!』
「違えよ!話を聞けお前ら!」
そう勝手に勘違いするのもモテない原因だと思います!
「話はあれだ。西園寺さんから京都へ行かないかと誘いを受けた」
『ほう?』
『それはそれは』
「で、お前らも来ないかと誘ってたぞ」
『なんと優しい彼女!拙者たちを見捨てぬその優しさは時に毒でござる!』
『まったく…。西園寺さんは神だったのか…』
『まさに天上の人って感じっすね。恵まれないものに恵みを与える……。これはもう西園寺教作ってもいいレベルっすね』
喜んでるのか悲しんでるのかよくわからないな。
『まあ、拙者は遠慮するでござるよ』
『俺も』
『俺もっすねー』
「いかないのか?アニメの聖地とか色々あるぞ?」
『それは魅力的でござる。だけどカップルの邪魔をするほど恋には飢えてないでござるよ』
『楽しんできな。彼女と』
『その代わりお土産よろしくっすー。俺八つ橋食べたい!』
「隆、恭一郎、光……!」
いい友をもった。こいつらいいやつだなあ。
じんわりと目尻に涙が浮かぶ。これぞ仲間という感じだ。うんうん。良きものなり。
涙を拭いていると、ドアが開けられた。
「兄さん!早く風呂一緒に入ろうよ!」
「……へ?」
上半身裸の瑞穂が部屋に入ってきた。
な、なんで一緒に入ることになってんの!?
『一緒に……』
『入る?』
「ちょ、一緒に入るってなんでだよ!?」
「約束したでしょ!彼女が可愛かったら一緒に入るって!瑞穂約束は守るからね!」
あれ普通冗談だと捉えるだろ!なんで本気にしてんだよ!
『これは事案でござるな』
『おまわりさんこちらです』
『妹と一緒にお風呂なんて羨まけしからんす!』
「ほら、いくよ!もう!」
「髪引っ張んな!わかったから!お前ら、俺は抜けるぞ、じゃな!」
電話を切って俺は風呂へと向かった。
次回はお風呂回です。
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