番外編・逃走と豹変
どうしてこうなった。
「本編はラブコメ無しにする予定だから番外編でラブコメしょう」と思ったらいつのまにかラブコメ要素が無くなっていた。
本当にどうしてこうなった。
ミカと二人噂の新ダンジョンへとやって来た俺はさっそく後悔していた。
「なぁ、俺町で待ってるからミカ一人で行ってこない?」
「なにバカなこと言ってんの。早く行くわよ。」
ですよねぇ。俺がミカの立場でもそう言うだろうな。でも、嫌なものは嫌なんだよ。あのときの俺はどうして気がつかなかったんだ。
新ダンジョン『死者の庭園』はその名の通りゴースト・アンデッド系のモンスターが徘徊してるダンジョンで、一反木綿は妖怪とかお化けの類いだということを。
「そもそもあんたが誘ってきたんだから本人が来るのは当然でしょ?」
「それはそうだけど、ほら、適材適所って言葉がな、あってな。」
「知ってる。あんたが盾になって私が焼き払う。ほら、適材適所の良い例じゃない。」
ここまで来たらもう、話し合いでの解決は無理だ。残された道は大人しく着いていくかここで死ぬかだ。
俺は意を決して後ろへ飛び退く。その勢いを利用したバックステップで更に距離を取る。
「こんなところに居られるか!!俺は町に帰るからな!!行くならお前一人で・・・・」
「一人で何かな?」
俺のすぐ後ろでミカの声がした。
「もう一度聞くけど、『一人で』何かな?」
その声には殺気や怒気のような感情が一切感じられない。いや、何の感情も感じられない。それゆえにものすごいプレッシャーを感じるのだろう。
まるで子供の頃夜寝る前カーテン越しに感じていた言い様の無い恐怖に似ている。
「・・・・・・・」
「黙ってちゃ何も分からないよ?ねぇ?」
蛇に睨まれた蛙ってのはこの事なんだろうか。
何にせよこの状態を打開しないと俺は町に生きて帰ることができない。
「ひ、一人で素材か情報を探してきてくれ。」
ようやく言えた一言でプレッシャーが増す。
ミカの顔からは表情が消え、変わりに大量の魔力が凄い勢いで収束していく。
「もし、何らかの情報なり新素材が手に入ったら腕によりを掛けてミカの好きなものをフルコースしょうと思ったのになぁ。」
一瞬だが魔力の収束が止まった。
よし、これならいける。あと一押しだ。
「実は、ここに下見に来たんだけど、その時一反木綿と戦って負けたんだよね。ミカならうまいこと倒して新素材をゲットするか何らかの手掛かりを見つけてくれると思ったんだけどなぁ。」
収束していた魔力が霧散し始める。
「それにミカなら確実に成果を上げるだろうから、お祝いにミカの好きなものをフルコースで用意して装備品も新調してやれると思ったんだけどなぁ。」
嬉しそうな顔をするのを隠そうとする彼女にだめ押しの一言を添える。
「準備に時間かけたかったんだけど、俺もダンジョンに潜るとなるとフルコースはまたの機会になるかなぁ。」
「そう言う事は最初に言いなさいよ!!わかったわよ。私一人で行くからあんたは最高のフルコースを準備して待ってなさい!!」
そう言ってミカはダンジョンに向かって走り出した。
「ハンバーグとビーフシチューは絶対に出しなさいよ!!」
やれやれ、本当にハンバーグとビーフシチューが好きなんだな。まぁ、旨そうに食べてくれるから作り甲斐があるってもんなんだけどさ。
その後、夕食前に帰って来たミカは新素材『霊布』を携えて帰って来た。




