ゴーストと方針
これから食料を探しに森の中へ・・・は危なそうだからやめておこう。
人間1日なにも食べなくても死にはしない。腹は減るけどな。
「そういえばモンスターは食事とかするのかな?」
いったん達は別として少なくとも物質的な体がある六花はどうなんだろうか。その辺を聞いてみる。
「私は食事をとる必要はあんまりありません。モンちゃん達はわかりませんが、この場で食事を必要とするのはマスターだけになります。」
まさか六花も食事が必要ないとは。
「必要が無いだけで食べれない事はないんだろ?」
「はい。熱い物でなければ食べられます。」
「溶けるのか?」
「いいえ、溶けはしませんが熱いのは苦手です。」
どうやら猫舌なだけらしい。
「一人だけ飯食べてるのに他のやつらが食べないのはさすがに俺の精神衛生上ろしくないからさ、これからは六花も一緒に食べようぜ。」
「かしこまりました。マスターが望むのであれば。」
一緒の食卓を囲むメンバーができたのは良いが、この先ずっと俺の意見に従うだけだと問題だ。その辺もちゃんと話さないとダメだな。
そうこうしていると本日最大の被害者、ゴーストが復活した。
「やっと話ができるな。さっきまでのこと覚えてるか?」
『あぁ、いきなり襲いかかってすまなかったね。君が僕を呼び出したってことはわかってたんだがどうしても止められなかったんだ。』
正気に戻ったらえらい紳士的なやつだな。よくよく見れば身に付けてる物も高級そうだし元貴族とかかな?
「いや、こっちも戦闘の訓練ってことでボコボコにしてすまなかったな。」
『いやいや、訓練でもなんでもなにもしなかったら君たちが死んでたんだ。反撃は当然のことさ。』
さっきまで「オマエノセイデ」とか言ってたのと同じとは思えない。こいつを殺したやつはどんだけのことをやらかしたんだよ。
「そうか、それじゃこの話はここまでだ。」
『そうしてもらえるとこちらも助かるよ。』
「そうだ、俺は柳 八雲だ。柳が名字で八雲が名前だ。」
『僕は、パトリック・ユグレギザグギャグ。』
そろそろ本題を切り出す。
「うちのダンジョンで働かない?」
『それは僕を戦力として考えての話かい?』
「ダンジョン」この単語が出た瞬間パトリックの表情が険しくなる。
『僕はモンスターとして人間と戦う気はない。』
「戦う必要は無いぞ。無論危害を加える必要もない。ただほんの少しだけ驚かせるだけで良いんだ。」
パトリックは怪訝そうに眉をひそめたが警戒を解かない。そんな彼に俺は目的と方針を説明していく。
「綺麗事だけど俺、人間を殺すとかしたくないんだ。だからさ、人間の恐怖の感情でダンジョンを育ててあいつらに仲間を作ってやりたいんだ。人間は一攫千金を狙える。俺達はダンジョンが成長する。お互いに損の無い・・・・いや、お互いに利益を享受できる最高のダンジョンにしたいんだ。」
そう言って5体のウィルオウィスプに視線を向ける。
『そうか、君の考えはよくわかった。しかし、僕は人を驚かすなんてことはできない。』
申し訳なさそうにパトリックは言う。
多分このすぐに人を信じる所を利用されて死んだんじゃないかなこいつ。まぁ、俺の場合は本当の理由を言ってないだけで目指してる方向もやりたいこともほとんど正直に言ってるから関係ないけど。
「大丈夫だ。君に頼みたい仕事があるんだ。」
『頼みたい仕事?』
「そうだ。大分先の話になるんだけどな、ドッペルゲンガーになって欲しいんだ。」
『ドッペルゲンガー?』
この世界にはドッペルゲンガーは存在していなかったのか。
後ろの方で六花が「座学も追加ですね。楽しみが増えていきますわ。」なんて言ってるのは聞かなかったことにしよう。
「ドッペルゲンガーってのは俺がもと居たところに伝わる「もう一人の自分」ってやつだ。そいつの能力で適当な冒険者に化けてモンスターに殺されたり、罠に嵌まって死んだ振りをして欲しい。」
『なんでそんな遠回りなことをするんだい?』
「例えばだけど、『絶対に安全なダンジョンがあるから行こうぜ』って誘われてうちに来た冒険者がモンスターに襲われて怖がると思うか?」
『確かにそれは怖い怖くない以前の問題だ。』
「そう、だから君には定期的に死者・行方不明者を演じてもらいたい。」
『それくらいならお安いご用さ。』
パトリックは何かを決意した顔になっていた。
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