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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師
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魔物狩りの依頼

 ヒカルがミハイルの教官室を訪れたときには、ちょうどミハイルは荷造りをしているところだった。

 ヒカルのサイズなら3人は入りそうな、巨大なリュックサックがパンパンになっている。


「ん、ヒカルか?」

「どうしたんだ、それ。ジャラザックにでも帰るのか? 夜逃げか?」

「誰が借金まみれだ。ミレイ教官といっしょにするな。あー、ヒカルは今年来たばかりだから知らんのか。夏になるとな、湧くんだよ」

「教官の頭が……」

「違うわ! モンスターだ!」

「?」

「長い冬を抜けるとモンスターは人外の地で繁殖を始める。その個体が成長し、大きくなり、野蛮になるのが夏というわけだ。で、夏のうちにデカくなってきた個体を討伐するのが夏の終わりだ」

「それは……モンスターの間引きみたいなものか? 大きくなる前に倒せばいいのに」

「そうなると数が多すぎる。ある程度『仕上がった』状態のほうが戦いやすいんだ」

「へぇ。でもそういうのは軍の仕事のように感じるけど」

「軍は国境警備が忙しいからな。フォレスティアは、過去に荒れたクインブランド皇国と、現在進行形で荒れているポーンソニア王国の2カ国に接している。あと、なかなか実入りのいい仕事だというのもあってな、冒険者に人気なんだ」

「冒険者ギルドが仕切ってるのか?」

「そうだ。俺も冒険者なんだぞ?」


 ミハイルが出した冒険者ギルドのギルドカードには「C」というミハイルのランクが見えた。「職業」は空欄だったが。


「くっくく。ヒカルも俺の『職業』が気になるか? あいにく見せるわけには——」

「それで出発はいつなんだ?」

「最後まで言わせろ! ったく……今日中には出るつもりだ」

「どうしても行かなければいけないのか?」

「ん? どうしてもというわけではないが……このモンスター退治は毎年の楽しみなんだ。クインブランドの冒険者や、今年は珍しくポーンソニアの冒険者が来るって言うからな。ヤツらと情報交換できるいいチャンスだし、なにより命がけで戦える。って、そんなことをわざわざ聞くということは、なにかあるのか? ハッ、もしかして大剣講義に参加したくなって——」

「いや、それはない。戦って欲しい相手がいるんだ」

「ヒカルと再戦か!? いやあ、それならそうと早く言え。腕が鳴る——」

「キリハルの学生だ」

「…………」

「なんだよ」

「……キリハルの学生ってことは俺の講義に出てない学生だろう? イヤだよ。そんなことに時間を割くくらいなら国境に行ってモンスターと戦いたい」

「戦闘狂め。ちなみにそのモンスター掃討にはどれくらい日数がかかるんだ?」

「例年通りで行くと、10日から20日ってところだな」

「却下」

「なんでお前が俺のスケジュールを却下するんだよ!」


 ミハイルなら素直に「模擬戦」の許可をくれるだろうと楽観していたのだが、モンスター掃討の仕事は予想外だった。

 だがこの程度の「予想外」ならば対応のしようがある。


「そのキリハルの学生は、あと10日とちょっとで、ジャラザックに行く。そしてジャラザックの王と戦う予定だ」

「……どういうことだ?」

「もちろん勝つつもりだ。僕が鍛えてるんだからな」


 厳密にはイヴァンが鍛え、ヒカルはソウルボードをいじっているだけではあるが。


「ヒカルが直接?」


 ミハイルの目に興味が表れる。


「ジャラザックのボス、アレクセイ=ジャラザックに勝つために鍛えている。その前哨戦として、ミハイル教官と戦うことで経験を積ませたい」

「ふうーむ……うちのボスに勝つ、か……。確かに俺に勝てれば可能性はありそうだが」


 腕組みして唸りながらも、ミハイルは「そんなのあり得ない」という顔である。


「ちなみに昨日、イヴァンと模擬戦をして10戦10勝だった」

「!」


 イヴァンは大剣講義を受けている学生の中でもいちばん強いことをミハイルはよく知っている。だからこそ、目を見開いた。


「ウソだろう? 学生でイヴァンを完封できるような者など……」

「ウソじゃない」


 昨日、「職業」を「片手剣技巧神:テクニカルソードマン」に変更したクロードは、それまでの苦労が夢であったかのように巧みにイヴァンの剣をかわし、10戦して連勝した。その後、ジャラザックの学生たちがこぞって「俺とも戦え!」と殺到するので、何度か疲労で負けたものの、ほとんど勝った。

「盾」をまったく使わないほうが戦いやすいようで、そこは修正せず、片手剣でどこまでいけるか訓練しているところだ。


「そいつの武器は大剣か?」

「いや、片手剣だよ。もともと短槍講義に出ていたんだけど、剣のほうが筋が良かったからそっちで伸ばしている」

「ヒカル……お前はそんなこともわかるのか」

「別に教えるのが得意ってことじゃない。たまたまだよ、たまたま。——で、どうする? 魔物狩りはちょっと遅らせて学生と戦ってみないか?」

「……ボスとの戦いは10日とちょっと後とか言っていたな。お前、俺をそこまで拘束して、仮想アレクセイ様ということで訓練させる気だろう?」

「バレたか」


 しかしこの程度は見通されるだろうとヒカルは思っている。


「ふーむ。まあ、俺は学院の教官だから学生の訓練は本来の仕事のうちではあるんだが……そうだ。こうするのはどうだ?」

「なんだよ。交換条件か?」

「一度、その学生と俺が模擬戦をやる。ある程度戦える……つまり10日でなんとかなりそうなレベルであると判断できればお前の言うとおり、10日間、訓練してやろう。だがその才能はなさそうだったら——お前が大剣講義の教官をやれ」

「はあ?」

「なに、ずっとというわけではない。俺が魔物の掃討に行っている間だけだ。お前のようにひらひら回避する相手との訓練も学生には必要だろう」


 クロードの実力があれば、訓練と称してミハイルも楽しめるし、実力がなければヒカルを利用して学生への課題ができる——と。


「なるほど、どっちに転んでもアンタに損はないと」

「それが条件というものだ」


 ジャラザックの男は脳みそまで筋肉が詰まっているのかとヒカルは思っていたが、案外ミハイルは智恵が働くらしい。


(まあ、そうでもなければ教官なんてできないか)


「わかった」

「おお、いいのか? うちの学生の相手をしてもらって悪いな!」

「へえー。もう、クロードを見限って魔物狩りに行く気か?」

「アレクセイ様に勝てる学生なんているわけが——ちょっと待て。キリハルの学生っていうのはクロード=ザハード=キリハルか?」

「じゃあ模擬戦は明日な」

「ちょっとヒカル、待て! お前、キリハルのザハード家っつったら名門中の名門——」

「頼んだぞ」

「それがアレクセイ様と戦うってどういうことだよ!? おい、ヒカル、ヒカル!!」




 ヒカルがミハイルの教官室から出て行く。

 それを——柱の陰から見ていた人物がいた。

 ヒカルは振り返らずに去っていった。


いったい柱の陰で見ていたのは誰ネンコなんだ……。

次回、その素性が明らかに!(隠す気なし)

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― 新着の感想 ―
[一言] 柱の陰で見ていたのはツェルネンコで決まりだな(迷推理)
[一言] >いったい柱の陰で見ていたのは誰ネンコなんだ……。 そんなの市原悦子か飛馬の姉ちゃんでしょ(  ̄ー ̄)y-~~
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