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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師
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成長するクロード=ザハード=キリハル

 学生連合の初会合が終わってから25日が過ぎた。

「建国記念式典」が始まるまで——学生連合の設立を認めてもらう会議が行われる式典の始まりまで、あと25日。

 国立学術研究院を出発してジャラザックに向かうぎりぎりの期限まであと15日。

 ミハイル教官との模擬戦をクロードが開始するまであと5日。

 こう考えると、結構時間はない。


「ふう……ラヴィアの淹れてくれるお茶は美味しいな」

「ほんとう? それならうれしい」


 ヒカルとラヴィアはスカラーザードに借りた部屋にいた。

 朝食後のお茶はヒカルの毎日の楽しみでもあった。

 ラヴィアは茶葉に凝る性格だったようで、あちこちの店で茶葉を購入して、淹れ方を比較している。

 ヒカルの味の好みもわかったのだろうか、日に日に美味しくなっていく。


「キリハル票とコトビ票はこれで手に入ったってことかしら?」

「そう見て間違いない。あと、ツブラに戻っているシルベスターから昨日手紙が届いた」


 テーブルに置かれていた1通の書簡。

「リーグにも伝えて欲しい」と最初に書かれてあった。無論のことシルベスターがリーグに直接手紙を送るなどということはあり得ない。周囲の目があるからだ。だからヒカルに届けた、ということだろう。


 ——昨晩、父を説得した。建国記念式典で会おう。


 内容は、それだけだった。

 式典まではツブラにいることを選んだらしい。


「これで3票。あとはジャラザックだけだな」

「クロードさんは……どうかしら?」

「……そろそろ、かな」


 そろそろ、という言葉の意味をラヴィアもすぐに理解できたらしい。

 ソウルボードを使うタイミングだ。




「クロード、イヴァン」

「ヒカルか」

「おー、ちゃんとこっちにも顔を出せよ」


 訓練の場となっている小剣講義に顔を出すと、教官であるミレイが来ていないのにすでにクロードとイヴァン、それにジャラザックメンバーがやってきていた。

 ローイエはこの数日見かけていない。どうもリーグの周囲にルマニアの令嬢がまた追加されたらしく、その相手をするのにローイエも駆り出されているようだ。

 おかげでリーグとも学生連合の話ができていない。

 ただ、リーグには建国記念式典で重要な役割があるので、今は注目を集めないよういつも通りに振る舞ってもらうことが必要ではあるのだが。


「手合わせしていたのか。イヴァンから見て、クロードはどうだ?」

「おお。ヒカルの言ったとおり盾を使うようになってだいぶ動けるようになったな。今なら俺とやっても10本に3本はクロードが取るぞ」

「そうか」

「それにな、昨日ジャラザックのボスから連絡があった。『ボスに頼みがあるヤツがいる。戦って勝ち取りたいと言ってる』とこっちからは伝えたら大喜びでな。最近ボスに挑戦する若いヤツがいないから」

「そ、そうか」


 戦闘狂め……とヒカルの頬がひきつる。


「…………」


 ちら、とクロードを見ると浮かない顔をしている。


「クロード。ちょっといいか?」

「……なんだ?」

「ふたりで話したいことがある」


 ヒカルはクロードとともに、イヴァンたちから離れた木陰へとやってきた。

 相変わらず夏の陽射しは強いが、夜半は肌寒い日も出てきている。

 短い夏は盛りを過ぎていた。


「クロード、表情が暗いぞ」

「……ヒカル。俺はこのままでいいのか? このままで、ほんとうに、勝てるんだろうか……」


 イヴァンとの戦いで成長を感じてはいるものの、まだまだ足りないと思っているのだろう。

 敵はイヴァンよりはるかに強いのだ。


「クロード。ソウルカードはあるか?」

「え? ああ、そう言えば言っていたな。訓練中も身の回りに置いておけって」


 ギルドカードとは違い、ソウルカードは神殿で発行される。貴族や富豪が所持することが多く、カードそのものに使われている金属が高価である。そのため持ち歩かない者もいるが、ヒカルは念のため言っておいたのだ。

 クロードはソウルカードを取り出した。


「クロードの『職業』は『凡片手剣儀礼神:ソードマンオブオナー』だったよな?」

「ああ」

「増えていないか確認して欲しい」

「いや、ヒカル。『職業』が増えるということは滅多にないんだ。そう簡単に……」

「いいから」


 ヒカルが繰り返すとクロードは渋々ソウルカードを取り出し、


「……え?」


 固まった。


「なにが増えて(・・・)た?」

「え? あ、え?」

「教えてくれ」

「あ……『凡片手剣戦士神:ソードアンドシールド』、それに5文字がある!『片手剣技巧神:テクニカルソードマン』だ!」

「うん」


 ヒカルはすでにソウルボードの操作を終えていた。



【ソウルボード】クロード=ザハード=キリハル

 年齢18 位階7

 9


【生命力】

 【スタミナ】1


【魔力】

 【精霊適性】

  【風】1


【筋力】

 【筋力量】1

 【武装習熟】

  【剣】3

  【盾】1


【敏捷性】

 【瞬発力】1


【精神力】

 【心の強さ】1

 【カリスマ性】1



「剣」に1、「盾」に1振ったのだ。

 これで後々、「筋力量」と「瞬発力」にそれぞれプラスを考えている。

「剣」4にするのは最終手段だ。


「『職業』を変更することで実際の戦闘能力が変化することは知っているよな?」

「だ、だが……これは神が与えたもので……」

「成長によって変わる人間もいる。僕だってそうだ」

「ヒカルも? ヒカルはどんな『職業』なんだ? まさか——5文字以上なのか……?」


 まさか2文字とは言えない。


「……僕のことはいい。それより、『職業』を変えてみるんだ」

「わ、わかった」


「片手剣技巧神:テクニカルソードマン」にしたらしい。

 ヒカルとクロードが戻っていくと、


「なんだなんだ? クロードになにを吹き込んだ? 暗い顔ばっかしてやがったのに、急に自信満々になってるじゃねえか」

「暗い顔などしていない」

「はー。よく言うぜ。毎日飲んでは愚痴たれて、リュカちゃんに怒られてたじゃねえか」

「前から思っていたがな、イヴァン。お前はリュカになれなれしいんだ!」

「同じ連合の仲間なんだからいーだろーが」


 そうだそうだ、とジャラザックメンバーがはやし立てる。


(……僕が首都に行ったり、コトビの錬金王に会ったりしている間に、なんかみんな仲良くなってる……)


 ほんの少しだけ取り残されたような感じがしたヒカルではあったが、


「そうだ。ヒカルも行こうぜ、『酒万歳』」


 イヴァンが話題を振ってきた。


「お前たち、あそこで飲んでるのか?」

「ミレイ教官もいるし安全だろ?」

「それがいちばん危険なんだけど……ていうかあの人、飲むなって言ってるのに飲んでたのか?」

「ヒカルがこっちを離れてる間は仕方ないでしょって言ってたぜ。お前が昼に飲ませてたんだろ、先生を」

「……まあ、それもそうか」

「そんなわけでヒカルも行こうや。ボーイズトークで盛り上がろうぜ!」

「…………」


 ジャラザックの連中はイヴァンを始め男どもは実年齢+10歳くらいに見える。それなのに「ボーイズトーク」か……と思いつつも、


(誘われるのも……そんなに悪い気持ちじゃないな)


 イヴァンのように裏表のない男は、話していて清々しいものがあった。


「まあ、考えておく。それよりもイヴァン——クロードと手合わせしてくれ」

「おっ。いいぜ。その自信満々の理由を見せてもらうかな?」


 にやり、とイヴァンは笑ったが、


「僕のかけた魔法は強力だぞ?」


 ヒカルもまた、にやりと笑って返した。


ソウルボードの操作は最小限で「全部『職業』のせい」という路線でなんとか調整しようとするヒカル。

そしていつの間にか仲良くなってる他のメンバー。

自分が紹介した店で、後日、自分が知ってる人たちが飲んでたりするとなんか、こう、「え、あ、誘ってくれなかったんだ……そっか……」って感じになるんですよねえ……。



お知らせです。

連載しているもう1作品「異世界釣り暮らし (旧:異世界釣行記)」が集英社より書籍化決定しました。

こちらも同じ異世界転生で、テーマは「釣りとグルメ」という感じです。

ご興味ありましたら読んでいただければ幸いです。

http://ncode.syosetu.com/n5698du/

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― 新着の感想 ―
人のソウルボードを弄れるって既に神の領域に手を掛けてるんよ 智神の領域もだが、様々な武の2文字までをある程度狙って付けれるのも武神の領域に手を出せてるし… 隠し種族で亜神か隠し称号で0文字の加護とか持…
[気になる点] 文字数減るなら以上じゃなくて未満じゃないですかね?
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