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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第1章 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう
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葉月先輩の夢

 ケルベックへの配達報酬は200ギランだった。

 まっすぐ行って帰ってくれば30分程度で終わるので、金額としてはふつうかもしれないが、


(効率は悪い)


 というのがヒカルの結論だった。

 RPGでも荷物を運ぶだけのクエストは、報酬が微妙なのが定番だった。

 異世界でも同じのようだ。

「繰り返し達成可能」なクエストや「ボス討伐」クエストが効率よく資金を稼げる。


(……資金を稼いでどうするか)


 ごろん、と宿の床に横になる。

 昨日と同じ素泊まり宿だ。

 もうちょっとお金を出してそこそこの宿に泊まってもよかったが、これから先の身の振り方をどうするべきか、考えてからにするべきだった。


(1つ、この世界で十分生きていける大金を貯める。2つ、元の世界に戻る方法を探る。3つ、趣味に没頭する……でも僕に趣味という趣味がないんだよな)


 本を読むのは好きだった。

 ゲームもやった。

 勉強だって嫌いじゃない。

 だがスポーツはいまいちだった。どう逆立ちしてもナンバーワンになれっこない才能なのに、スポ根よろしく部活に打ち込むのは「非効率的」だと思ってしまったのだ。


(世の中、効率じゃない。……ま、それはそうなんだけどね。だからって他にやれることも……ん、そうか。やれることを見つければいいのか。この世界になにがあるのか、もっと見て……)


 世界を回ろう。

 そして、自分がなにをなすべきなのか、考えよう。


 むくり、と起き上がる。


(そのために必要なのは、お金だ! 軍資金だ! やっぱり「効率」だな!)


 密かに鼻息を荒くすると、せっかく起き上がったというのにヒカルはそのままひっくり返った。

 そんなふうにヒカルがやっていたのに、「隠密」スキルが発動していたために他の誰もヒカルに気づかなかった。

 ふだんは街中で「隠密」を使う気はなかった。

 このスキルの存在を気づかれては困るからだ。

「実験」はケルベックの部屋に侵入するまでですべて終了だ。


 ケルベックの部屋に侵入する実験は緊張したが、大成功だった。

 まさか監視がついていたとは気づかなかったが――逆に言えば、ヒカルは「隠密」できても「探知」できないことを思い知った。


(「探知」スキルか……「知覚」なら最初のボードにあったんだよな)


 ソウルボードを召喚する。



【生命力】

 【自然回復力】0

 【スタミナ】0

 【免疫】

 【知覚鋭敏】



「知覚鋭敏」をアンロックすると、嗅覚や聴覚といった項目が出るのではないかとヒカルは考えていた。

「知覚遮断」は1つですべて遮断できるのだが。


(まあ、「嗅覚」をアップしたら誰かを探知する以外の使い道もいっぱいできるからな。単に他者から「隠密」で行動するためならポイント1ですべてを遮断できるのもわかる)


 一応、「項目ごとのポイントは等価である」という前提でヒカルは考えていた。


(つまり、知覚をアップするのは効率的じゃないよな)


 残りのポイントは4ポイント。

 すぐ使うのはもったいない気もするが、このソウルボードがとてつもない力を秘めていることは理解している。

 だったらどんどん使ったほうがいい。


 ソウルボードについても調べてみた。それぞれの項目について調べてみる。アンロック項目である「免疫」「知覚鋭敏」などはこうだ。


【免疫】……【免疫】関連スキルをアンロックする。

【知覚鋭敏】……【知覚鋭敏】関連スキルをアンロックする。


 と、これだけ。

 なので、すぐにポイントを振ることができる「0」の表示がある項目を片っ端から調べる。


【生命力】

 【自然回復力】……外傷を回復する速度を向上する。最大で20。

 【スタミナ】……運動に関わる継続する力、疲労を回復する力を向上する。最大で20。

【魔力】

 【魔力量】……魔法を執行する際に消費する魔力の総量を向上する。最大で30。

【筋力】

 【筋力量】……筋力の量を増やす。最大で30。

【敏捷性】

 【瞬発力】……瞬時に発揮する筋力の動きを向上させる。最大で15。

 【柔軟性】……肉体、特に関節を柔軟にする。最大で10。

 【バランス】……体幹の感覚を向上させる。最大で20。


 ヒカルが驚いたのは、「最大」値である。

「隠密」関連が5で済んだ。「暗殺」や「狙撃」に至っては最大3だ。

 なのに、10やら30やらがある。


(……基礎項目と応用項目みたいなものかな?)


 アンロックを重ねずに利用できる項目は最大値も大きい。

 そしてそれら項目は生命体の根幹の動きに関わるものだ。


(『筋力量』を30にしたらどうなるんだろうな。もしかして素手で岩を割ったり、家を持ち上げたりして。はは。まさか……)


 とそこで考えが止まる。


(……あり得る)


 これほど「隠密」が役に立っている今、ポイントを30も消費するような項目はどれほど強大な力を手に入れられるのか。


(とりあえずそれは置いておいて——残りのボードは3つか)


「五角形」「六角形」「無印」だ。

 これまでが「生命力」「魔力」「筋力」「敏捷性」と来ているのだから……。


(ゲームで行くと「精神」「信仰」「魅力」「器用さ」とかかな? 効率を求めるならまず「知る」ことが大事だよな……情報もなしに効率は語れない)


 ヒカルは起き上がった。


(でも3つをアンロックすると残り1ポイント。1ポイントしか振れないのは効率が悪い。アンロックするならせめて1つ……)


 ヒカルが選んだのは「無印」だ。


(無印ってめっちゃ気になるし! 僕の知識欲がうずく!)


【ソウルボードをアンロックしますか? 消費1】


「する」


 そして画面が現れた——。



【直感】

 【直感】0

 【ひらめき】

 【知性】

 【記憶力】0

 【探知】



(「直感」!「直感」と来たかー)


【直感】……感覚を研ぎ澄ませ、予知に近い啓示を得ることができる。最大で20。

【記憶力】……記憶を司る脳の働きを高める。最大で10。


(それにやっぱりあったな、「探知」。アンロック項目っていうのが嫌らしいよな。さて、どうするか……残り3ポイント、ね)


 ソウルボードをしばらく眺めて——ヒカルは横になり、目を閉じた。

 眠りはすぐに訪れた。


 残:4,890ギラン



   *   *



 ——××くん、あなた生意気ってよく言われるでしょう?


 明るい午後の光は白のカーテン越しでもまぶしい。

 そんな強い光を背にしたその人は――ヒカルより1歳だけ年上のその少女は、少しだけ笑ってみせた。


 ——生きにくいよ、それじゃ。あなたは賢いかもしれないけれど、危なっかしい。どこかで、いつか、ひょんなときに……ふっ、と死んでしまいそう。


 黒髪ロングの美しい少女だった。


 ——物騒な予言をどうも。


 他の先輩や大人から言われたことは素直に聞けなかったが、この人の言うことならヒカルはすんなりと聞いていた。

 そう、その人の名は——。


 ——葉月先輩。



   *   *



「…………」


 翌朝、日が昇り始めたという時間帯。

 素泊まり宿の大部屋、その片隅でひっそりとヒカルは目覚めた。


(……今のは……夢?)


 ふぅ……と長く息を吐く。

 こっちの世界に来てこれまで、夢なんて見なかった。ようやく見たと思ったら、親でもなく、直近の高校のことでもなく、2年前から会っていないひとりの先輩の夢だったとは。


 親のことは思い出しもしなかった。

 敵対していたわけではない。ただ、父と母のふたりの関係が冷え切っていくにつれてヒカルもふたりに無関心になっていった。

 子どもは年を取ればどんどん手が掛からなくなる。そしてヒカルは早熟だった。同じ空間で生活していても他人のように振る舞うまでになっていた。

 だから、ヒカルのギルドカードには「家名」が表示されなかったのだが——それすらヒカルは考察しなかった。自分のギルドカードに家名がなくとも「ふーん」で終わるのだ。


(なんでこんな夢を見たんだか)


 そう思いながらも、夢を見た理由はわかっていた。「生意気」とジルに言われた、そのせいだ。


 ヒカルは確かに「生意気」だった。校内のあらゆる生徒より自分のほうが賢いと思っていたし、それを隠そうともしなかった。ただ危険を避ける能力も高かったためにいじめられることも誰かと衝突することもなかった。日陰には、陽気なヤツらは近寄ってこない。

 こちらの世界にやってきてから、その「生意気」に拍車がかかったことも自覚している。なぜなら、ローランドの「記憶」が影響しているのだ。ローランドは貴族だ。両親は賢明であったが、貴族である誇りを忘れることはなかった。

 誰にも負けない。誰にもバカにされない。そんな思いが常にローランドの人生の根底にあった。

 いくら他人の記憶とはいえ、まるごと引き継げばヒカルだって影響される。

 ジルに強く出てみたり、ケルベック相手に「少々無茶な実験」を仕掛けたのも、その影響ゆえだろう。


(……どこかで、いつか、ひょんなことで死ぬ、か)


 奇しくも葉月の言ったとおりに、ヒカルは死んだ。生き返ったのは僥倖だったがそれこそただのラッキーだ。


(この世界でも、同じようなことにならないとは限らないもんな)


 ヒカルは「直感」ソウルボードを呼び出す。

「探知」をアンロックする。


【探知】

 【生命探知】0

 【魔力探知】0


 残りのポイントは、2だ。


【生命探知】……周囲の生命の存在を探知できる。最大で5。

【魔力探知】……魔力を通じて周囲の存在を探知できる。最大で5。


 それぞれに1ポイントずつ割り振った。

 これでポイントは0になり、獲得したスキルは次のものとなる。


【敏捷性】

 【隠密】

  【生命遮断】1

  【魔力遮断】1

  【知覚遮断】5(MAX)

   【暗殺】3(MAX)

【直感】

 【探知】

  【生命探知】1

  【魔力探知】1


「生命探知」と「魔力探知」をどのように発動するのか、説明はなかった。

 だけれど身体に、もうひとつの感覚——聴覚のような嗅覚のような触覚のような感覚が芽生えていた。


(……おお)


 それに集中すると、自分を中心に上下左右、全天球方向に探知の結果が感じられるようになった。

 部屋の中央で寝ている若い冒険者たちの生命が感じられる。オレンジ色のふわりとした炎のような感覚だ。

「魔力探知」に切り替える——切り替えも感覚的なものだった——ブルーのふわりとした炎のような存在を感じ取った。


 戦士らしい男は「生命探知」で感じた勢いが「魔力探知」では感じられなかった。


(魔力が少ないということか……ん? 待てよ、「生命力」ではなく「生命」を探知するのか)


 気がつく。「生命探知」では存在の大きい小さいはない。質量的な大きい小さいは感じるので、ものすごく集中すると羽虫までわかる。

 ただこれは、いくら目が良くとも微生物を裸眼で見られないのと同じことで、「デカイ生き物は見える」が「小さすぎると見えない」という代物だった。

 逆に「魔力探知」は魔力の多少に影響される。小さい虫でも魔力が濃ければはっきり感じられるのだ。


(スキルポイントを上げるとどうなるんだ? ……探知距離と遮断スキルへの対抗か)


 今探知できる範囲は10メートルがせいぜいだ。

 ポイントを上げることはできないが、ヒカルはこう推測した、ポイントが増えることで「探知距離が伸び」、「遮断スキル持ちを凌駕する能力を手に入れられる」と。


(……これは、効率的…………とは言いがたいけど、死なないことは最優先だ)


 ヒカルは身支度を整えて大部屋を出る。


(僕が死んだこと、葉月先輩は知ってるのかな?)


 そんなとりとめもないことを思いながら。


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