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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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クロードの鍛錬

 学生連合会議が終わり、リーグを始めメンバーが去っていく。

 会議の最後にリーグは「学生連合初代議長はシルベスターさんにお願いしたいと思います」と申し出て、受け入れられた。

 連合国でも最大勢力のルマニアではなくツブラのシルベスターが選ばれたことに驚いたメンバーも多かったが、当然のようにシルベスターがそれを受け入れた(あらかじめリーグが話していたらしい)ことからすんなり通った。


「エカテリーナさん」


 最後にエカテリーナが出て行こうとしたのを、ヒカルが止めた。


「……なにかしら?」

「少し話したいことがありまして」

「ふん。私が今回の提案に反対を述べたことについては謝る気はないわよ。大体、実現可能性がないものを——」

「お礼を言いたくて」

「——なんですって?」

「反対意見を出してくれて、ありがとう」

「…………」


 エカテリーナはまじまじとヒカルを見た。


「あなた、大丈夫? ていうかひょっとして新手の嫌み?」

「違いますよ。反対意見やリスクへの検討もなく進む会議なんて、危険極まりない。その点であなたが反対してくれたことはほんとうに助かりました」

「別に。私はおかしいことをおかしいと言っただけよ」

「他の人が否定的な見解を述べていたら、あなたは賛成意見を出していたんじゃないですか?」

「…………」


 図星だったのか、むっ、と口を閉ざした。

 ヒカルはエカテリーナが単にネガティブな性格から意見していたのではないだろうと思っていた。その証拠に、「どのように実現すべきか」の意見を求めると、すらすらと方法が出てきたのだ。

 自身の個人的な意見ではなく、会議の行くべき方向性を考えて、検討すべきを検討する——それができる能力を彼女は持っていた。

 連合政府に官僚を多数輩出している家系、というのもわかる気がした。


「ふうーん。理解したわ。真に警戒すべきはルマニアではなくあなたということね?」

「なんのことだか。リーグはいい男ですよ。頭も切れるし」

「ポーンソニアという国は恐ろしいわね。『剣聖』もいれば、ラヴィアちゃんのように感性豊かな文学者もいれば、あなたのように狡知に長けた男もいる」

「ちょっと、エカテリーナ」


 ラヴィアが口を挟もうとすると、


「また図書館でね、ラヴィアちゃん」


 エカテリーナそう言って去っていった。


「……変わった友だちだな」

「図書館で話していたときはおとなしい印象だったのだけれど」

「それで、『感性豊かな文学者』って?」

「……ノーコメント」

「教えてよ。ラヴィアのことでエカテリーナさんが知ってて僕が知らないなんておかしい」

「ノーコメント!」


 恥ずかしそうに顔を赤くしてラヴィアはカウンターの向こうに入る。

 ヒカルもにやにやしながらそれについていき、使った食器をふたりで洗い始めた。


「それにしても……厄介なことになってきたよなあ」


 ヒカルが言うとラヴィアが「ふふ」と笑って返した。


「なんで笑うんだよ」

「だってヒカルが自分からいろいろと提案していたじゃない。この分で行くと合同結婚式の手伝いもさせられるんじゃないかしら?」

「さすがにそれは彼らがやるだろう」

「でもヒカル以外に合同結婚式ってものを知らないんだから」

「……それは、そうだね」

「正直、驚いたの。ヒカルが自分から女王陛下を説得すると言って。あなたは、その——あまり興味がなさそうに感じたから。リーグの活動に」

「僕の役目は『女王の説得』までのつもりだったんだ。学生連合の活動でマルケド女王の手助けが必要になることは予測できたし。まあ、いきなり必要になるとは考えていなかったけど」

「クロードさんのお手伝いは……どうするの?」


 ヒカルはカップを拭く手を止める。


「それって——ソウルボードを使うかどうか、ってことだよね?」

「ええ」

「手っ取り早くクロードを成長させるにはソウルボードを使えばいいのは間違いないよ」

「どれくらい強くなれる?」


 ヒカルは肩をすくめた。


「どこまでも」

「……どこまでも?」

「大陸一の剣豪になれると思う」

「まさか」

「ほんとだよ」


 クロードの残りポイントは12だ。すでに「剣」2を持っているので、8ポイント注ぎ込んで「剣」10が可能となる。

 その上で筋力量に振れば最強剣士のできあがりだ。

 ポーンソニア騎士団長ローレンスですら「大剣」6だから「剣」10で大陸一と言っても過言ではないだろう。

 ヒカルが真剣そのものであるため、ラヴィアが真顔になる。


「それほどの……ものなのね」

「一芸に特化することにかけてはすさまじい力を発揮するよ。できれば使いたくないと思ってる。明らかに僕がなにかしでかしたことがバレるからね」

「でも、そうしたらジャラザックの1票は取れなくなる?」

「不自然じゃない、ぎりぎりの手助けをするべきかな……催眠術をかけたことにするとか? いずれにせよ実際にクロードが戦っているところを見てみないとね」




 クロードの特訓の場はなぜか「小剣講義」の時間となった。


「なんでまた人が増えてるのよ」


 物置——講義C棟の外、木陰にイスを置いてそこに座っているミレイはクロードを見てうんざりしたように言った。

 ついでに言えばクロードだけでなく、リュカ、シルベスター、イヴァンとその仲間たちもいる。

 エカテリーナはラヴィアとともに図書館にいるだろうし、ケイティは研究室だ。リーグは監視(女子)をまけなかったようだ。


「じゃあ、クロードさんがどこまで戦えるのか見せて欲しい」

「ねーヒカルくん。これってアタシの授業じゃなかったっけ?」

「あとでちゃんと聞きますから。——クロードさんとイヴァンに模擬戦をしてもらいます」

「ヒカルじゃないのか?」


 クロードが聞いてくる。その質問には裏の意図がある。「お前がほんとに、そんなに強いのか確認したい」という。


「クロードさんが戦う相手は大剣使いでしょう? だったらイヴァンのほうが適任です」

「おっしゃ任せとけ!」


 指名されたイヴァンは大喜びで立ち上がると、


「がんばれイヴァン!」

「キリハルなんかに負けんじゃねーぞ!」


 と仲間たちに囃されている。


「それも……そうだな。ならばイヴァン相手に全力で行こう」

「ちょっと待ってください」


 短槍を構えようとしたクロードをヒカルが止める。


「使うのは片手剣です。短槍は得意じゃないでしょう?」

「……なんで知ってる」

「時間がないんです。いいところを伸ばすべきです。なりふり構ってられる余裕は僕らにありませんから」

「…………」


 クロードがためらっている。なぜだろうと思っていると、イヴァンが教えてくれた。


「ヒカルよお、剣と大剣じゃあ勝負にならんぜ」

「どういうことだ?」

「片手剣は所詮『大剣の劣化版』だ。振りの速度も威力も大剣のほうが上だからな」

「そういうのは僕に一撃でも与えてから言えよ」

「そ、それはヒカルが異常なんだよ!」


 イヴァンが声を上げると、「そうだそうだ」「異常なんだよヒカルは」と外野が声を上げる。

 涼しい顔でそれを無視してヒカルはクロードに向き直る。


「ならばなおさら、片手剣でやったほうがいいですよ」

「どうしてそんなに自信満々なんだ? 俺が習ってきた剣は、確かにイヴァンの言うとおりだ。大剣を小さくしたようなものだ。護身用途が中心で、儀礼的な部分も多く含まれている」

「相手もそう考えるでしょう。そこに勝機がある」

「勝機……?」

「この短期間で一気に強くなる方法などありません。ですが、相手をよく研究することで一発勝負に勝つことは可能です」

「……そう、か。そうかもしれない。わかった、片手剣でやってみよう」

「ありがとうございます」

「それと——ヒカル」


 なんですか、とヒカルが聞き返すと、


「俺にも敬語はやめてくれないか? ここでは俺がお前に教わっているんだ」

「ですが……」

「せめて対等でいたい」

「…………」


 ヒカルはちょっと考えてから、


「わかった。いいよ。その代わりビシバシやるからな?」

「ああ。望むところだ」


 クロードは意気揚々と言ったが、ヒカルがにやりとしたのを見たイヴァンたちは「ひぃっ」「悪魔が笑った!」と声を上げた。


エカテリーナが「反対のための反対」をしていたのではなく、「リスクへの検討」をしていたことを見抜いていたヒカル。

見抜かれてムッとしちゃう素直ではないエカテリーナ。


ここから各国への「説得ゲーム」が始まっていきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 十分な腕力があれば、大きくて重い方が一撃の剣速は上だろう。小回りがきかず、手数は減るだろうけど。
[気になる点] 片手剣は所詮『大剣の劣化版』だ。振りの速度も威力も大剣のほうが上だからな」 威力はともかく、速度も上は有り得ないだろう。 小さくて軽い方よりも、大きくて重い方が振るう速度が速いと言うの…
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