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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師
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教官の恐喝

すみません、ちょっと短いです。

 翌日、「C棟」に向かったヒカルは、建物にカギが掛かっているのに気がついた。

「小剣」講義が始まる時間帯であるにも関わらず。

「魔力探知」を走らせた——が、中はもぬけの空だ。


「……あいつ、バックレたか。学生じゃなくて教官が逃げるとかどういうことだよ」


 ヒカルは仕方なく、ジョギングをして筋力をほぐしていくという自主トレを始めた。


 翌日もまたいない。自主トレをした。

 その翌日もまたいない。自主トレをした。

 さらに翌日——。


「いない……」


 講義C棟の前でたたずむヒカル。


「……そうか。そこまで逃げるか。そうか。——ふっ。ふふふふ。こうして放っておけば僕がいずれ来なくなるとでも思ったか。なるほど——」


 ヒカルの口元だけがゆがむ。


「絶対見つけ出す」


 一度家に戻り、夕方まで待つ。完全武装したヒカルはひとり、街へと繰り出した——。




「ぷはぁーっ! 美味い! エールが美味いなあ! これのためにアタシは生きてんのよねえーっ!」

「おおっ。相変わらずいい飲みっぷりじゃねーか、ミレイちゃん」


 カウンターの向こうで、店長が笑う。

 そこはスカラーザードでも知る人ぞ知る——繁華街から3本奥に入った通りにある店だった。

 小さい店舗で席数も30程度しかないが、いつも満席。カウンターには「お一人様」が電線にとまった雀のように並んでいる。


「そんなにがぶ飲みしてたら、ミレイちゃんにおごろうって男も出てこなくなるぜ」

「そもそもそんな酔狂はいねぇよ」

「ちげぇねえな」

「カカカカッ」


 常連らしいオッサンたちが笑う。

 店内の喧噪に負けないよう、一言一言が怒鳴るようだ。


「はぁ〜? アタシが本気出せば男なんてすぐに釣れるんですけどぉ〜? アンタたちみたいなオッサンと話してやってんだからありがたく思えっつうのよ!」

「よぉく言うぜ! いつも最後にゃ酔い潰れて『彼氏が欲しいよぉ』って泣くくせによ!」

「泣いてねーし! 泣くわけねーだろ、バカ!」

「そういやミレイちゃん、あんなに夜遅くまで飲んでちゃんと帰れてんのか? なんだっけ、学院の宿舎は今帰れないんだろ?」

「あー……うん、そーね。今改築中でね。友だちんとこに転がり込んでるよ」

「友だちいたのか!」

「なに変なところに驚いてんのよ! マジ蹴り飛ばすよ!」


 ゲラゲラ笑うオッサンたちの声は、ざわめきと混じり合って店内をぐるぐる回っていく。


「まだまだ夜は始まったばっかよ! 今日は飲むわよーっ!」


 その背後から、声。


「ずいぶんと元気がありあまっているようですね」

「そりゃあそうよ! 起きたのなんて夕方だし!」

「今日の講義は?」

「行くわけねーし! あはははは!」


 手をひらひらと振って答えたミレイは——ふと、その声が、オッサンたちのものではないことに気がつく。


「それは興味深いことを聞きましたよ……ミルクレープ=ヴァン=クァッド教官」


 その声が——先日、出会った少年のものであることに気がつく。


「ひ、ひ、ひ、ひぃっ!?」


 至近距離で当てられた怒気に、びくんとミレイの身体が震える。


「僕は先日、教官から小剣の構え方を教わりました。では問題です。今の僕は、小剣を装備しているでしょうか? 装備している場合、なんのために持ってきたでしょうか?」

「ひいいいっ!?」


 イスから転げ落ちたミレイの顔が恐怖に引きつっている。

 あれ、そこまで脅かす気はなかったのに、とヒカルが思っていると、


「な、なんでアンタがここにいんのよ!? アタシに気づかれずに来るなんてあり得ない!」


 ああ、そっちに驚いたのか、と納得する。

 ヒカルが「隠密」系スキルを発動していなければ、店に入ったくらいで彼女はなにかしらに気づくのだろう。「直感」によって。


「おい、坊主。ここで暴れるってんなら俺たちだって黙っちゃいねえぞ」

「ああ」

「よく言ってくれたわ、オッサンたち! この子を放り出してよ!」


 オッサンたちの加勢で勢いづくミレイ。

 ちなみに両足を開いているのでまたも下着が丸見えだ。色気もクソもない。


「おじさま方、僕は学院の学生です。どうも教官は飲み代がかさんで借金をしているようです。借りたお金は返さねばなりません。僕に講義をすることで給金が発生しますが——もしおじさま方が肩代わりして支払うということでしたら、それでもいいと思います。どうしますか?」

「…………」

「…………」


 オッサンたちは視線を交わし合うと、


「よし、飲むか」

「そういや、今日ケッサクだったんだけどよー」

「ほうほう」

「うわああん! 見殺しにされた! アタシとアンタたちの絆はどこにいったのよ!」


 立ち上がってまなじりをつりあげるミレイに、ヒカルは微笑みかけた。


「借金女。自業自得」

「ムキーッ! もう絶対アンタに講義なんてしないから!」

「構いませんよ? 明日、学院長と面会の予定があって——」


 流れるような動作でミレイは土下座した。


「申し訳ございません。明日からきちんと講義をいたします……」

「——そうですか。では学院長との予定はキャンセルしておきますね」

「そ、それ、ハッタリよね? 学院長とコネクションなんて、ないのよね?」


 にっこり。


「笑顔のほうが怖いわよーっ!」


 ミレイの叫び声が響いた——が、騒がしい店内では誰も気にしなかった。


 その日以降、ミレイがこの店に顔を出す頻度がガクッと下がった。

 しかし店長はこう、常連たちに言った。


「ミレイちゃんはツケが溜まってたからなぁ……うちの売上は変わんねえよ」


 とことんあちこちに迷惑をかけていたらしい。




 ミレイは一度の襲撃くらいではへこたれず、なんとかヒカルの目をくらませて飲みに出かけようと画策しているようだったが、まずヒカルはミレイの自宅を押さえた。次にミレイのよく行く飲み屋を押さえ、「今後、真面目に仕事して借金を返させるので、飲みに来たら僕に教えてください」と伝えるとどこでも大歓迎された。トドメは、毎朝叩き起こしに行くことだった。

 ヒカルはこうして、小剣講義を軌道に乗せた。


「おっ、ヒカル!」


 そんなある日、ヒカルは大剣教官——ミハイル=ジャラザックと出会った。毛むくじゃらのジャラザック出身で、ヒカルを学院に「特待生」として通えるようにしてくれたミハイルだ。


「もう通っていたんだな! いつからだ、今日からか?」

「いや、もう10日くらい前からだよ」

「はあ!? なんで俺のところに来ないんだよ!?」

「どうして行くと思った? 僕は小剣の講義を受けに来たって言ったろ」

「ああ……小剣……とんでもない教官だろう? というかまともに授業なんてやらねえんだよ、ミレイは。もうそんなの止めて大剣講義を受けに来いよ」

「いや」


 ヒカルはニッと笑った。


「講義はちゃんとしてくれているよ? ——今からその講義なんだ。それじゃ」

「あっ……え? ちゃんとしてくれてる?」


 きょとん、とした顔のミハイルを置いて、ヒカルは歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] う~ん こんな奴から無理に教わらなくても、 もっとマシなのを探して教わった方が効率良い気がするが・・・ 国内最強の小剣の使い手とかならともかく、 3って達人レベルでしょ?それならもっとマシな…
[良い点] タイトルに騙されてクスッとした [気になる点] タイトルの接続語がおかしい(違和感で済まして良いのか?) [一言] 教官『の』恐喝 『の』ではなく、『を』もしくは『に』の方がしっくりくる?…
[一言] ちゃんとしてくれてる…? やらせてるの間違いでは?(笑)
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