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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

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入学準備の片手間に

連合国の内情は次話と次々話あたりでしっかり明かされます。

 書類手続きがあるので入学できるようになるまで5日掛かると学院事務から連絡があった。彼らは、カウンター上に入学案内を置いて、そこから3メートルは離れた場所でヒカルに説明を行った。ずいぶんと怖がられたものである。


(これが貴重な学費を払う学生にする態度か?)


 とは思ったものの、ヒカルは学費免除になっているのだった。


 時間に余裕ができたがその間にもやるべきことがある。

 住居探しだ。

 寮などはないので、スカラーザードに部屋を借りる必要がある。


「わあっ、ここ素敵ね!」


 不動産屋に頼んで部屋を見せてもらっていた。

 その中でラヴィアが気に入ったのは、3階建ての3階に位置する部屋だ。

 さほど広くない建物ではあったが、3階は1室で占領しており、広々としたルーフバルコニーがある。

 間取りは2LDK。LDKがめっぽう広い。

 このアパートメントの裏手は井戸や洗い場があり表通りからは見えないようになっていた。ヒカルはパリの町並みを思い出した。行ったことはなかったし、これから先もどうやら行けそうにないが。


「十分に光が入りますし、学術研究院にも歩いて数分です。すばらしい物件でしょう?」


 えびす顔の不動産屋が揉み手する。


「いくら?」

「はい。これほどの物件でございますから、引く手も数多(あまた)でして……年間契約で80万ギランとなっております」


 ふっかけてきたな、とは思わない。

 学院に通う人間にとっては一等地。内装のできもよいし、最上階なのだ。

 ヒカルやラヴィアの着ている服をそれとなく確認して、いいところのお坊ちゃんお嬢ちゃんだと考えている節があるので、ある程度高めの金額設定にしている可能性はあった。

 それはそれで、信用を得ていると思えばプラスの側面もあるのだが。


「ふーん……」


 ヒカルは窓枠や壁の溝に残っているほこりを確認した。

 よく掃除されている。不動産屋の言うとおり、ここが人気物件というのは間違いなさそうだ。前の住人が出て行ったばかりなのだろう。

 すでに家具がそろっている。ほとんどが備え付けなのだが、前の住人はテーブルやソファを残していった。

 ベッドはマットレスを新調しなければならなかったが、買わねばならないのは寝具くらいだ。今日からでも生活を始められる。


「半年で40万ギランにしてくれない?」

「ほほっ。お客様……半年後は冬のど真ん中ですよ。新しい借り手は見つかりません。どうぞここは1年でお借りくださいませ」

「じゃあ春までで60万ギラン。そこから再契約」

「70万ギランでしたら……」

「冗談でしょ。今の季節から借り手いるの? 62万ギランだ」

「うーむ。68万ギランでどうでしょう?」

「64万ギラン」

「65万ギラン」

「わかった、それでいいよ」


 不動産屋の持っている契約用小切手のようなものにサインする。ギルドカードを当てると、ほんのり青く光った。この契約書を持っていくと、冒険者ギルドからお金をおろせるらしい。よくできている。

 ルーフバルコニーに出ると学院の南東門がよく見える。

 ヒカルの隣にラヴィアがやってきた。


「ヒカル……いいのかしら? かなり高い買い物になったような……」

「資金は十分あるよ。でもお金が気になるなら、ちょっと働いてみる? 冒険者ギルド、この街にもあるはずだよ」

「! 行く行く!」


 地下ダンジョンであれだけ大量のアンデッドモンスターを見ても、ラヴィアの「冒険」への好奇心は衰えていないようだ。

 ヒカルはラヴィアとともに冒険者ギルドへと向かった。


「おー……雰囲気違うな」


 変わった造りの建物だった。

 まず四角くない。丸い。円筒状になっており中央のカウンターもまた円を描いていた。

 壁際に依頼の掲示板があり、冒険者たちが打ち合わせできる丸テーブルやスツールが点在していた。

 ヒカルとラヴィアが入っていくと、数人の冒険者がこちらを見た。ラヴィアに気がついて口笛を吹く者もいるが、積極的に声をかけてこない。

 全体的に、冒険者たちの年齢が高いせいかもしれない。20代後半から30代の冒険者が多く、女性の冒険者も他の街に比べるとかなり多く感じられた。

 あるいは、


(人種か?)


 冒険者たちはそれぞれがそれぞれの人種でまとまっているようだ。青い肌の者は青い肌の者としかつるんでいない。


「依頼の数はそれほど多くないのね」

「まあ、地方都市ではあるからね」


 ヒカルはランクEの依頼掲示板を眺めた。

 知らないモンスターの討伐依頼や、知らない街への護衛依頼。

 学院が依頼主となっているものも多かった。講義や研究で使用する素材を集めているようだ。あの学院では武術だけではなく、魔術やその他学問も研究されている。


「ん……これは」



【プラントハンター】

 【龍腎華の葉】……なるべく若い葉を中心に、できる限り多く持ってきて欲しい。

 【報酬】基本報酬500,000ギラン。納品状態が良ければ追加100,000ギラン。

 【依頼主】国立学術研究院



 ミハイルの話していた、学院長がらみの案件と見ていいだろう。依頼主は学院になってはいたが。


「おい、そこのお前。なかなか可愛い顔をしているじゃないか。私のパーティーに入れてやろう」


 振り返ると、ラヴィアに声をかけている学院の制服を着た3人の男がいた。

 金髪に、赤髪に、緑髪。

 制服の下に着ている服はなかなか仕立てがよく、どこぞの裕福な家のお坊ちゃんのようだった。

 ただ年齢はヒカルよりも上だ。18歳とか20歳とか、そのあたりだろう。


「…………」


 すすすとラヴィアはヒカルの後ろに隠れる。


「おい。私が声をかけてやったんだぞ? こっちに来い。パーティーに入れてやると言ったんだ」

「…………」

「なんとか言え!」


 軽蔑しきった目で見ているだけのラヴィアに、声を荒げる金髪。

 赤髪と緑髪はため息をついているだけだ。どうやら暴走しがちな金髪らしい。


「いくつか依頼を受けてみようか」

「ヒカルがそうしたいなら」

「ラヴィアだってランクを上げたいだろ?」

「ひょっとして……依頼を受けるのはわたしのため?」

「ああ」

「やるわっ」


 にっこりとラヴィアが微笑みを浮かべると、


「待てよ!? なに私を無視してるんだ!!」


 金髪がずかずかとこちらへやってきた。


「私は黄虎の氏族にして学院生でもあるローイエだ!」

「どの依頼にする?」

「討伐は時間がかかりそうだから、やっぱりプラントハンターかしら?」

「無・視・す・る・なぁぁぁああああああ!!」


 金髪はラヴィアの肩をつかんで無理矢理振り向かせようとする。

 その指先がラヴィアに触れる直前でヒカルは金髪の手首をつかんだ。


「おい……なに勝手にラヴィアに触ろうとしてるんだ」

「はっ。ようやくこっちを見たか。黄虎の氏族である私の腕を握るとは、さてはお前はバカだな? さあ、吹っ飛べ——」


 金髪は腕を振り抜こうとしたが、強い力で押さえ込まれている。


「あ、あれっ?」

「ひ弱なくせに粋がるなよ」

「お前が私にひ弱とか言うのか!?」


 ヒカルはこれでも「筋力量」に1振っている。

 なんとはなしに金髪のソウルボードを見てみると、



【ソウルボード】ローイエ=黄虎=ルマニア

 年齢19 位階2

 19


【魔力】

 【魔力量】1



(雑魚だな。ていうか「黄虎」とか言ってるのにどうして筋力量じゃなくて魔力量なんだよ……)


「こ、こんなのはおかしい! お前みたいなガキがどうして私を押さえ込めるんだ!?」

「そりゃ僕のほうが力が強いからだろう」

「私は勇猛なる黄虎の氏族だぞ!」

「勇猛さは受け継がなかったようだな」


 ヒカルが一歩踏み込むとローイエは背後に倒れそうになる。それを赤髪と緑髪が抱き留める。


「わ、わ、私を『出来損ない』だと……そう言いたいのかッ……!!」


 なんだかスイッチが入ってしまったようで、金髪が赤いを通り越して赤黒い顔でこちらをにらんでくる。


「お、おい、ローイエ止めろよ」

「ここはギルドですよ。そこまでにしてください」


 赤髪と緑髪が止めようとする。

 周囲の冒険者たちもさすがに騒動に気がついてなんだなんだとこちらを見てくる。


「うるさいうるさいうるさい!! バカにされて引き下がるのは黄虎の恥——」


 だがローイエはそれ以上言えなかった。

 いつの間にか背後にいたヒカルが、軽めのグーで後頭部をしばいたのだ。

 その場にぶっ倒れてしまった。


「え……え?」


 赤髪が、なにがなんだかわからない、という顔をするが説明する気もない。


「おい、赤い髪。邪魔だからこいつ回収しておけよ。——じゃあこの依頼にしようかな」


 ヒカルは何食わぬ顔で依頼のメモを手に取った。

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― 新着の感想 ―
⬇️どう考えても周りが短気で傲慢で理屈や道理を示そうと無条件で見下し関係ない自分都合に巻き込んで自分の快・不快を優先してるから傲慢にしてるんだろ 傲慢にしてなかった結果、最初のギルドで何された?勝手に…
[一言] ヒカルの性格がどんどん傲慢になって来てる。 なろう小説の主人公は、強くなって金を稼ぐと何で傲慢で自分本位になるんだろう。
[一言] マジで冒険者クソしかいない 最後までクソしか出さない気か?
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