表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第3章 学術都市と日輪の魔導師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/415

学院長との面談

「あ、ああっ!?」

「誰か、誰か救護の先生を!!」


 事務員がぶっ倒れたのをきっかけに人々が動き出した。


 ——マジかよ、鬼教官負けたぞ!?

 ——ていうか今の見えたか!? 俺、なにがなんだかさっぱり……。

 ——消えたよ。絶対消えたってアイツ!


「あのさ、救護はいいんだけど。試験はこれで終わりか?」

「ひっ」


 他の事務員に声をかけると、めっちゃ引かれた。


「いやいや……わけわかんない試験ふっかけてきたのはそっちなのに、逃げるとかなんなの?」

「す、す、すみません! 入学の許可は、わたくしどもの一存ではできかねますぅ!」

「は? 試験に合格したら入学できるって言ったのはそこの事務員だろ? それを黙認したのはアンタらだろ?」

「ひぃっ!? 怒らないで、ど、どうぞ、怒らないでください……!」

「それともやっぱりあのミハイルを殺さないと駄目か?」

「それは勘弁してください!!」


 ミハイルの救護に当たっていた事務員が「ヒッ」と言って立ち上がる。

 持っていたミハイルの頭が地面に落ちてゴスッと音を立てた。ミハイルはとばっちりである。


「それじゃ、入学させてくれるの? くれないの?」

「もちろん構いません!」


 涙目で言われた。なんとも釈然としない気持ちではあったが、ヒカルの入学は認められたらしい。


「ヒカル、わたしは?」

「ああ、そうだった。なあ、ラヴィアの試験も——」

「結構です!! 入学決定ですっ!!」

「——だ、そうだ」

「よかった。ヒカルと違って、わたしは相手を殺さないように調整できる自信がないもの」


 さらりと言った一言に、事務員たちはさらに怯えたという。




「……で、なんでこうなるの?」


 その後、ヒカルとラヴィアは学院長から直々に呼び出しを受けた。

 学院長室に入ってみると、にこやかながらも目がまったく笑っていない初老の女性がヒカルを出迎える。彼女のそばには4人ほどの武装した教官が控えていたが。


「話は聞きました。あなたの目的はなんですか?」

「入学」

「そういうのはもう結構です。率直に話してください。戦争中のポーンソニアの名を振りかざし、教官を負傷させ、事務員を混乱させる。内部からこの学院の価値を下げることが目的ですか? それにしてはずいぶんと雑な手口ですね?」

「…………」


 ヒカルは頭が痛くなった。

 なんで素直に入学させてくれないのか。ちゃんと高い学費も用意してあるというのに。

 ちなみに2年間の受講で1人50万ギランである。


「つまり、僕がポーンソニア王国と書かれたギルドカードを持っていることが悪いのか?」

「……疑わしい者はまず疑うべきでしょう? あなたは十分以上に疑わしい」

「逆に聞きたいんだけど、どうやったら信用する?」

「さあ? それはあなたが考えるべきでは?」


 あ、これはアレだ。悪魔の証明ってヤツ。もう二度と信用しないモードだ——ヒカルは思った。

 やれやれ、どうしようか。

 そう思って横を見ると——ラヴィアが学院長を、軽蔑した目で見ていた。思わずヒカルがひゅっと息を吸ってしまうほどの。


(ちょっ、ラヴィア! 目! 目! にじみ出てるよ、嫌悪感が!)

(仕方ないでしょう。ヒカルを信用しない無能が学院長を名乗っているんですもの)


 小声でとんでもない毒舌が返ってきた。


「そうだ、学院長。こうしてはどうでしょう——」


 唐突に武装した教官のひとりが言った。前髪だけがやたら長くて、目元にかかっている。いけ好かない感じの男である。手には短槍を持っていたが、ソウルボード上では「短槍」2と、特筆すべき点もないほどに平凡だった。ミハイルほどの筋力量もない。

 さらにいけ好かないことには、ヒカルたちが入室してからずっとラヴィアをじろじろと見ている。


龍腎華(りゅうじんげ)の葉を取ってきてもらうのです」

「! それは、しかし——」

「学院長にとって必要なものですし、人命救助にもつながります。学院の生徒となる者がなすにはちょうどいい宿題(・・)でしょう」

「……ダメです。危険すぎます」

「学院長……なにを言っているんです。ポーンソニアの人間が大暴れしているんですよ。それくらいやってもらわないと」

「それとこれとは話が違います」

「あのさ」


 ヒカルが口を挟んだ。

 このまま放っておくとなにをやらされるかわかったものではない。


「盛り上がってるところ悪いんだけど、入学を管理する事務員から僕は『試験』とやらを受けさせられた。それに合格した。なのに入学を拒否している。その上なにをやらせようっていうの?」


 ヒカルとしては少々面倒な気持ちになってきていた。

 高い金を払って、こいつらの給料になるってどうなの? その高い金を報酬にして「隠密」が得意な冒険者を雇って個人レッスンを受けたほうがいいのでは? ——そんなことを思い始めていたのだ。


「『試験』については……学院の規定にある、正式なものです。『入学希望者の適性が未知数であった場合、教官がこれを判断する』とあります」

「じゃあ、僕の適性はどう——」

「ヒカル」


 そこでラヴィアがはっきりと声を出した。

 今まで話していなかった彼女が口を開いたので、学院長は興味をそそられたようにラヴィアを見た。


「行きましょう、もう。ここにいる全員がかかったってヒカルに勝てない。こんなところでなにを学ぶ必要があるの?」

「なっ——」


 学院長を始め、4人の教官も絶句した。

 そこへ、部屋のドアが急に開けられた。


「学院長! ——おお、ここにいたか、お前も」


 ミハイルだ。

 ぴんぴんしている。回復魔法ですぐに復活したのだろう。


「こいつは絶対に入学させるべきです。俺は思い知りました。生徒だろうが年下だろうが、ナメてかかったらいけない——当たり前のことをすっかり忘れていた。こういうヤツを学院に入れれば、絶対に刺激になる」

「おいおいミハイル! 不意打ち食らっただけなのになに言ってるんだ!」


 教官たちが口々に言うが、


「うるせえ!!」


 ミハイルは怒鳴りつけた。


「お前ら誰ひとり、俺にすら勝てねえだろうが! 不意打ちしても、だ! それをこいつは——」

「こいつこいつ言うな。ヒカルだ」

「あ、ああ……ヒカルは、俺の意識を一瞬で刈り取った。死ぬとかどうとか考える余裕もなかった。こいつの実力は未知数だ。俺が学びたいくらいだ」


 ミハイルの言葉に教官たちが息を呑む。


「それほどですか」

「そうです、学院長。それにこいつは俺を殺さなかった……俺は『死んでもいい』と言っておいたにもかかわらず。ポーンソニアからの刺客だったら、俺みたいに目立つ教官は真っ先に殺すでしょうよ」

「それは……そうですね」


 学院長はしばらく考えてから、


「……わかりました。入学を許可します」

「学院長!?」


 悲鳴のような声を上げる教官たち。

 ただひとりミハイルが、ヒカルの背中をバンッと叩いた。


「よかったな、ヒカル!!」

「……痛い。ていうか今さら上から目線で『入学を認めます』とか言われてもムカつくし、気持ち的にはもう入学止めようかなって思ってたところなんだけど」

「そう言うなよ! 学院長、ヒカルは特待生でお願いします。教官の推薦があれば可能なはずです」

「おいミハイル!!」


 教官たちが怒りの声を上げるが、


「……わかりました。そうします」


 学院長は手のひらを返したように、ミハイルの意見を採用した。

 その変わり身の早さを一瞬、ヒカルは不審に思ったが、自分に関係なければどうでもいいかと思い直した。


「ふうん……それならまあ、入学してやってもいい。気にくわなければ出て行けばいいだけだし。——それでいいか、ラヴィア?」

「……ヒカルがそれでいいなら、いいけど……」


 ラヴィアはまだ不満そうではあったが、納得してくれた。




 学院長室を出るとミハイルがついてくる。


「すまなかったな……だいぶイヤな思いをさせたらしい」

「ここまでポーンソニアにアレルギーがあるとは知らなかった」

「お前の国もなあ、戦争なんてやらなきゃいいのにな」

「……それはまあ、僕も思うけどね。にしても、僕に気絶させられたのによく入学を後押ししようと思ったな。ひょっとして殴られるのに喜びを感じるとか?」

「ねえよ!」

「じゃあ、剣を抜いた状態で僕と戦いたいとか思った? それなら勝てると?」

「——くくっ、それは是非とも試してみたいが、そうじゃない。さっき言ったとおりだ。学院も最近、研究が停滞気味だ。刺激が欲しかったんだ。それに学院長は……人格者だ。お前がポーンソニア出身じゃなければきっとちゃんと対応してくれたはずだ」

「ポーンソニアに恨みでもあるのか」

「甥御さんがいらっしゃってな……クインブランドとポーンソニアが小競り合いしているところに出くわしたらしい。そして——」

「殺された?」

「勝手に殺すな。まだご存命だ。ポーンソニアからの流れ矢でケガを負ったのだが、どうも特殊な毒を塗られていてな」


 それは高熱を発し、傷の治りを悪くする毒であるという。

 毒の解除は魔法では難しいらしく特殊な薬が必要だった。


「その材料が龍腎華の葉ってわけか」

「あん? なんでヒカルがそれを知ってる?」

「僕に採らせに行かせようとしてたからな、あのいけ好かない短槍教官が」

「キルネンコ教官か……。まーな、控えめに言ってもアイツはクソ野郎だ」


 気持ちいいほどにミハイルは言い切ったので、思わずヒカルは噴き出した。


「僕もそう思うよ」


 主にラヴィアをじろじろ見ていたあたりが。


「気が合うな!」

「その一点にかけてはね」

「それで、ヒカルはいつから大剣の講義を受けにくる? 明日もあるぞ!」

「……は? 大剣?」

「それはそうだろう。ここは俺とヒカルの友好を温める流れ——」

「友好などは、ありません」


 ラヴィアがやってきてヒカルとミハイルとの間に入り込んだ。


「さっきからヒカルに対してなれなれしすぎます。大体、大剣を使っていないヒカルがどうして大剣を学ぶんですか?」

「えぇっ!? 大剣の講義、受けないのか? 俺といっしょに、過去に滅びた大剣の流派を研究しないのか?」

「しない。ていうか意外とインテリなんだな、アンタ」

「俺は武闘派インテリだからな! それじゃあなんの講義を受ける気なんだよ」

「とりあえず小剣かな。——そんなわけで、それじゃあ」


 ヒカルはさっさとミハイルとの話を切り上げた。

 なんとなくラヴィアが焼き餅を焼いている気がしたのだ——男との、しかもムキムキのオッサンとの会話なのに。


「えぇっ!? 小剣ってお前……教官はよりによって…………」


 ミハイルが唖然としてつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
全員暗殺しとけ。
[良い点] 学園でどんな成長をするのか楽しみ [気になる点] 不快なキャラを出しすぎでは? こういうところは、読んでいてうんざりする
[一言] 人格者(笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ