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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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古代神民の地下街 6

 王城の内部へと侵入する。

 メイドや従者といった服装のアンデッドたちがぼんやりと立ち尽くしていた。生きている人間の気配を察知すれば彼らは襲ってくるのだろうか? 疑問に思ったがヒカルとてそれを確認する気もない。

 石造りの城は歩きやすい。回廊を進んでいく。そこここに、王城で働いていた人間たちの姿があった。


(やっぱりおかしい。騎士や兵士の数が少なすぎる)


 ゼロではないが、ほとんど見かけない。正面の橋に陣取っていたデッドナイト・ドラウグルチーム以外はまとまった数がいない。

 これでは王城の警備が成り立たないだろう。

 1体だけうろついていたデッドナイトに近寄ってみる。板金鎧の上からでは短刀は通らない。隙を探してみる。びっちりと鎧によって身体は覆われている。顔は露出しているが首は見えない。


(顔に刺せば一撃で行けるだろうか? ……駄目な気がする)


「直感」1が「無理じゃない?」とささやく。

 無理して倒す必要もないかとあきらめた。


 宝物庫の位置は、近づくとすぐにわかった。その一帯だけ巨大な魔力の塊があったのだ。貴族の屋敷のものに近い。

 開けられないのなら来る意味もない——というところだがヒカルにはある打算があった。


「ここがカギ穴か」


 見上げるほどに巨大な、両開きの扉。

 白の石造りで、表面にはドラゴンのようなモンスターが彫り込まれている。

 これ見よがしにヒカルのちょうど目の高さくらいにカギ穴がある。


「こういうカギって、宝物庫の管理者みたいな人が持ってるのかな?」

「そう……だと思うけれど」

「アレかな?」

「アレじゃないかしら」


 扉の横には、600年前にはきらびやかであったろう服を着込んだデッドノーブルが立っている。右手にはカギ束をぶら下げていた。

 近寄って一撃で倒し、ヒカルはそのカギ束をいただく。それっぽいカギをカギ穴に差し込んでみる——と、するりとカギ穴に入った。


「どうしてあのアンデッドはここにいたのかしら? あまりに都合が良すぎない?」

「確かにな……まあ、カギが合っても開けられないわけだが」


 ヒカルはカギを抜き出す。他のカギを試しても入らなかったので、このカギが扉を開ける鍵で間違いなさそうだ。カギの素材も扉のものと同じようだし。


「真ん中に窪みがある」


 カギの取っ手部分に窪みがあった。なにかを埋め込むようだ。


「あーあ。宝物庫の最強装備を持ってボス戦ってのが相場だと思ってたけど、そうはうまくいかないか……むしろこのカギに魔力を込めるなにかを、ボスが持ってるのかな」

「ボス? 上司ということ?」


 思わず使ってしまったゲーム用語はラヴィアには通じない。


「ああ、えーっと……ここのボスは、そうだなあ」


 ヒカルは言った。国王だろうな、と。




 王城の正面へ戻る。まずは国王がいるかもしれない謁見広間へと向かう。

 長い階段を上がっていくと、謁見広間へと続く扉は左右に大きく開け放たれていた。

 絨毯がある。ただ長い年月で、絨毯の色もわからないほどにホコリが積もっている。

 廊下はアンデッドが歩いた場所のホコリがなくなっていたがこの絨毯はホコリが積もっている。雪の降った翌日のように足跡ひとつついていない。


「……いる」


 ヒカルの「魔力探知」に引っかかっていた。


「光は消したほうがいい?」

「大丈夫。ここにいるのはデッドノーブルだけだ」

「……そう?」


 半信半疑という顔だったがラヴィアは魔導ランプを点したままついてくる。

 彼女が広間内に光を向けた——。


「!?」


 左右に立ち並ぶデッドノーブル。

 数段上がった向こうには玉座があり、1体のアンデッドが座っていた。

 腕置きに頬杖をついて、カラッポの眼窩をこちらに向けている。

 ゆったりとしたローブに縫い付けられてあったいくつもの宝石は、ダイヤモンドの輝きだ。

 600年経ってもダイヤモンドは衰えることなく——ホコリをかぶってはいたが、輝いている。


『——・・・・・・————・・・・・・・・・』

『————・・——』

『・・・———・・・・・—』

『・———・・・——』


 壊れる寸前のヴァイオリンのような音が聞こえる。それは、居並ぶデッドノーブルたちの声だった。

 かすかな音だ。だけれど、この静寂ではよく聞こえる。

 ヒカルは1体のそばに近づいて耳を澄ませる。「ギィー」とか「ァアウ」とかいうデッドシチズンとおなじうめき声だけしか話せないようだ。


「な、なんなの……これは?」


 呆然としていたラヴィアがようやく我に返って当然の質問を投げる。


「王の前でなにかを議論しているんじゃないかな」

「それはわかるけれど」


 なにを議論しているのか、それはわからない。

 600年間議論しているのか。あるいは、毎回議題は違うのか。

 国王は退屈そうに睥睨しているだけだ。


「……国王の指輪」

「ん?」

「あの形、カギにはまりそうだ」


 頬杖している右手の指にはごってりと指輪があった。

 ミイラ化しているわけではないので肉は残っている。指輪は、落ちずに指にくっついている。


「……ヒカル。国王を……倒す、の?」


 ラヴィアにしては控えめに聞いてくる。


「いや。倒さない。今は」

「今は?」

「あの国王、近づいたらたぶんバレる。僕ひとりなら大丈夫な気がするけど」


 ヒカルはそう「直感」する。

 これはほんとうに便利な感覚だった。今はまだ「直感」1だからその程度しかわからないが、レベルを上げれば「どの距離まで近づけるか」までわかりそうだ。

 とはいえ今の段階でも十分だった。

 あの国王が同じように「直感」持ちなのかどうかはわからないが、「光を持ったまま近づけばバレそう」ということがわかるだけでヒカルにとって大きなアドバンテージだ。


「……やっぱりわたしは足手まとい?」

「ああ、ごめん。そういう意味じゃないよ。どのみち僕がひとりで接近して国王を倒しても、他のデッドノーブルが大騒ぎするだろ? 倒すならラヴィアの魔法も必要だ。僕とラヴィアのセットで、ようやく攻略できる」

「そう。ならいいのだけれど」

「それより——この感じだと調べ物が先かな」


 ヒカルはラヴィアを連れて、謁見広間から奥へと向かう。

 資料庫を探そう。書記官らしきアンデッドのいた背後の通路を通っていく。

「魔力探知」では、ここから先にアンデッドはいないようだ。

 そのとき——ひやりと冷たい風が吹いたように感じられた。


(風……?)


 ダンジョン内はほとんど空気が動いていないように感じられた。

 だがここにきて空気に動きを感じる。


「ラヴィア、ここに『資料庫』と書いてある」

「え?」


 ある一室の前でヒカルが足を停めるとラヴィアが魔導ランプを掲げた。


「古語……かしら? わたし、少ししか読めないわ。ヒカルには読めるの?」

「まあね」


 ローランドの知識ではあったが。

 扉は簡素な造りで、物理的なカギが掛かっていた。

 ヒカルは「腕力の短刀」を差し込むと、蹴りをくれて無理矢理錠を断ち切った。

 本気で閉鎖しようと思っていない造りだったからこそ、荒技で突破できた。


「……インクのニオイがする」


 植物紙が発展する前の、羊皮紙時代に使われていたインクは没食子インクだ。酸化鉄と植物由来のタンニンが混じり合ったもので、これはヨーロッパでも使われていた。

 こちらの世界で、没食子インクのために使われた植物は、独特な酸っぱいニオイがする。


 魔導ランプの明かりが舐めるように照らし出す。

 本棚に収まった豪華装丁の本たち。

 中央テーブルにはいくつもの羊皮紙が広げられてあった。

 ここは羊皮紙を集めて製本する場でもあるようだ。


「古代ポエルンシニア王朝の書庫……考古学的な価値はすごいわ」


 ガフラスティが泣いて喜びそうな場所ではあるが、ヒカルとしてはそれほどの価値を感じない。


「いくつか見てみようか。ラヴィアもまったく読めないわけじゃないんだろ?」

「ええ……自信はないけれど」

「よし。それじゃあ手分けしよう——近くにモンスターはいないようだからもう手を離しても大丈夫」

「わかったわ」


 ラヴィアが手を離した——そのときだった。


「えっ?」


 パッ、と部屋が明るくなったのだ。

 いや、部屋だけではない。

 光は書庫を飛びだし、廊下を伝い、王城中を明るくしていく。


「な、なにっ!? なんなの!?」

「落ち着いて、ラヴィア」


 ヒカルは彼女を引き寄せ、もう一度「集団遮断」を発揮する。だが光は消えない。

 今、ヒカルたちの「人間」——「生き物」としての気配を察知して明かりが点いたことは間違いないだろう。それも、自動的に(・・・・)

 日本になら人間を感知して明かりを点けるセンサーライトは一般的だ。だが、この世界ではそんなもの見たことがない。

 明らかに古代ポエルンシニア王朝による失われし魔術(ロストテクノロジー)だ。


「!?」


 ヒカルに、冷静に考える時間を与えてくれない。

 次は地響きだ。


「ちっ、次から次へと」


 ヒカルはこの書庫に窓がついていることに気がついた。木製の窓で、ガラスがついているようなものではない。

 窓を押し開く——。


「な……」


 そちらはヒカルたちがやってきた方角とは別の、王都の反対側だ。

 当然、同じように貴族街があり、その先に第1居住区があり、その先に街が広がっている——はずだ。


 王城のすぐ先には、なにもなかった。


 壁があったわけではない、ただひたすら、なにもない大地が広がっていたのだ。


 王城が煌々と明かりを放っているがために、むき出しの大地がはっきりと見える。

 ヒカルたちがいるのは高さ的に、3階か4階くらいだ。だから王城を守る外壁も見下ろせる。

 大地にはちらほらと影が見えたが、それらは動いていない。アンデッドモンスターでもないようだ。


 また、揺れた。


 揺れたときに、ヒカルは見た。

 遠く——1キロほど離れた場所に紫色の光を放つ巨人がいるのを。


ガフラスティ「……呼ばれた気がするぞ!」

アグレイア「行きますか」

ランクC冒険者「行かねぇよ!? 休憩させろよ! ようやくルートハバードに戻ったんだぞ!?」

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[気になる点] あとがきでキャラの掛け合いやめてほしい。気持ち悪い。
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