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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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古代神民の地下街 2

 冒険者をぐるり囲んでいるアンデッドは、デッドシチズンがいちばん多く、次にスケルトンだった。

 切り倒しても切り倒してもデッドシチズンは向かっていく。身体に循環している魔力が切れない限りは襲い続けるようだ。

 そのせいで、肉があちこちに散らばってとてつもなく臭い。


「やっぱり離れようか。臭すぎる……」

「ヒカル」


 ラヴィアが眉根を寄せる。悪ふざけしている間に、誰かが死ぬかもしれないと言いたいのだろう。

 冒険者のうち1人が負傷して転がり、1人が魔力切れ。3人がトライアングルになって2人を挟み込んでなんとかなっているような状況だ。


「……わかってる。さすがにこのまま死なれるのは寝覚めが悪いからな。ラヴィア、いつでも火魔法を撃てるようにしておいて」

「はい」


 ラヴィアの手を離し、囲んでいるアンデッドの背後にひとりで近寄る。


「ヴッ」

「アァ」

「グァァ」

「グゥ」

「アァ」


 瞬く間にデッドシチズン5体を倒す。


「なっ……なんだ!? 勝手に倒れやがった!」


 冒険者たちは、なにが起きたのかわかっていない。ヒカルが「隠密」を使っていたからだ。


「――オトナ(・・・)の皆さん、おそろいで」


「隠密」を解いたヒカルが声をかけると、


「あっ、てめぇはさっきのガキ!?」

「俺たちが引きつけてる間にデッドシチズンをやりやがって! 横取りかよ!」


 ヒカルはため息をつきたくなった。明らかにデッドシチズンを「間引いて」やったのに、「横取り」ときたものだ。


「はあ、じゃあこの腐乱死体はお前たちにくれてやる。残りはオトナの皆さんで倒すんだな」

「ちょっ、待て!」

「待つ義理なんてあると思うか?」

「待てっつってんだよ!! ――っく」


 デッドシチズンが襲いかかり、冒険者のひとりが体勢を崩しかける。

 一方のヒカルにもデッドシチズンが襲いかかってくる。だが、


「ラヴィア!」


 ヒカルが瞬時に距離を置くと、ラヴィアが「ファイアブレス」を放つ。2体がまとめて焼かれる。


「す、すげえ、なんだあの火魔法!」

「助けてくれぇ! お願いだ!」

「てめえら! プライドはねえのかよ! 相手はガキだぞ!!」

「ガキだって助けてくれるならいいじゃねえかよ!」


 ヒカルは釘を刺すように言う。


「その話し合い、長い? 先を急ぐからもう行くけど?」

「ちっ!」


 リーダー格らしき男が叫ぶ。


「助けてくれ! 頼む!!」

「――だ、そうだ。ラヴィア」

「はい」


 ラヴィアがファイアブレスを連続で放つ。あっという間にデッドシチズンとスケルトンの大半が灰と化し、最後に残った2体を冒険者たちが片づけた。

 周囲には肉の焼ける妙な香ばしいニオイと、熱気が立ちこめる。


「はぁぁぁぁ……」


 疲労困憊、という体で最後まで立っていた3人の冒険者が座り込む。ヒカルはその間にソウルカードを確認する――が、取り立てて見るべきものはなかった。「剣」2、「大剣」2、「弓」2――その程度だ。

 つまらないな、とヒカルはラヴィアを連れて歩き出す。道が続いているので必然的に冒険者たちの横を通ることになる。


「お、おい、てめえらは……」

「『どうせすぐに死ぬ。死なれてアンデッドが増えたら困る』――だっけ?」


 それはダンジョン入口でヒカルに向けて彼が言った言葉だった。

 石でも呑まされたように冒険者が固まる。


「息が整ったらさっさと逃げろよ? この辺りのアンデッドは倒しきったけど、派手な音が鳴ったから遠くからだって連中は来るだろう」

「ヒッ」


 いち早くヒカルに助けを求めた冒険者が立ち上がる。傷を負った腕を治しもせず手ぬぐいで押さえたまま。

 それに釣られてほかの冒険者も立ち上がり、入口へ向けて逃げ出す。

 最後にリーダーらしき冒険者だけが残った。


「出口はあっちだけど? その方角もわからなくなった?」

「てめえらはどうするんだよ!? なんなんださっきの魔法は!」


 リーダーらしき冒険者に、ラヴィアは答えた。


「『ファイアブレス』」

「……は?」

「火魔法の中でも初級の魔法よ」


 唖然とした男をほうっておいてヒカルとラヴィアは先へと進んだ。

 彼の目からは、30メートルほど離れたところでふたりの姿が闇に溶けたように見えただろう。

 十分離れたところでヒカルはラヴィアの手を握り「集団遮断」を発動したのだった。




 アンデッドを倒すのは止めた。魂の位階上げにしては効率が悪いし、武器も消耗するのだ。


「ゲームの世界なら使い放題なんだけどな……いや、耐久値が設定されてる武器もあるけどさ」

「? ゲーム?」

「ああ、気にしないで。『腕力の短刀』の刃先がもう(こぼ)れてて」


 スケルトンが固い。骨を砕いて中の魔力を割っているのだからすぐに武器がダメになりそうだった。

 試しに小石を投擲してみるが、ある程度距離があると風切り音が鳴るので他のモンスターに気づかれるという問題があった。

 音は聞こえるのか――聴覚は生きているのか? という疑問はあったが、音とはすなわち振動だ。振動を探知している可能性はある。

 ある程度近寄って石を投げればスケルトンの頭を破壊できたが、短刀を節約するのに小石を拾うのも面倒な気がして止めてしまった。


「だいぶ進んだな。休憩しようか」


 ダンジョンに入ってから4時間が経過している。ヒカルは懐中時計を取り出した。

 この世界には時計がある。時間を刻むムーブメントは精霊魔法石の「火」「風」「水」「土」の4種を組み合わせて造られているらしい。魔法がベースになっているからか、時間のずれが起きない。ヒカルからすると謎のテクノロジーだった。

 ちなみに希少品であるのでギルドから借り受けている。高額の保証金が必要だったが。


「そろそろ夕方か……」


 座って水筒を取り出す。これもまた精霊魔法石を利用したものでカラッポになっても放っておくと水が溜まる。精霊魔法石はクズのようなサイズでいいので、安い。

 温い真水を飲んで、ラヴィアにも渡す。ラヴィアは両手で持ってこくりと少量飲んだ。


「採集とかはしていかないの?」

「霊石か。確かにアレなら拾っていってもいいかも」

「あそこにあるわ」

「え?」


 見るとヒカルの横、5メートルほどの道ばたに落ちていた。七色の光沢を持つ碁石サイズの石ころである。

 これは魔法触媒に使われ、1つあたり500ギラン程度で買い取ってもらえるはずだ。


「これってほんとうは神殿の庭にだけ出現するんだっけ?」

「そうみたいね。墓地にも現れるみたいだけど……」

「墓地のものはスラムの少年たちに拾われてしまうと聞いたことがある。いい金稼ぎの手段なんだとか」


 ちなみにローランドの知識である。ローランドはこういった知識が豊富だった。

 それもそうだろう、異世界に渡る術なんてものを研究していたのだから。


「ダンジョン……というかアンデッドが多いところに出現しやすいのかな? 霊石を拾うパーティーなんてのもあるんだよな」

「ええ……あそこにもあるし」

「え?」


 ヒカルが1つ拾った3メートル先にもあった。


「よく見つけられるな」

「?」


 こてん、とラヴィアは首をかしげる。


「ヒカル、見えないの? 暗いからはっきり見えるのだけど」

「そうなのか? ――まさか」


 ヒカルは「魔力探知」を切った。

 すると――。


「あるな」


 今まで歩いてきた道を振り返ると見える範囲だけで3つほど転がっている。

 霊石から流れる魔力が、カムフラージュとして見えにくくなっていたのだろうか?


「『探知』は使いにくいな」

「うん?」

「いや、なんでもない――もうちょっとだけ進もうか。夜の時間帯に強くなるアンデッドとも戦っておきたい」

「わかったわ」


 ふたりは歩き出す。

 ほどなくして「強化された」アンデッドに遭遇した。

 これまでのアンデッドモンスターが「アー」とか「ウー」とか言いながらも強い力で迫ってきたのに対し、夜のアンデッドは、


「アスリートだ……」


 ヒカルは独りごちた。

 なにより速い。なんかダッシュとかする。壁にへばりついてするする登っていったりする。

 骨だけのスケルトンがジャンプしている姿はなんだか笑えた。


「……ま、まあ、こっちには気づいてないみたいだけど、倒すのは面倒だな……」

「真っ暗なせいかもしれないけど、眠いわ」

「食事にして寝ようか」


 手近な民家に入り、ドアをきっちりしめる。「聖油」を焚いてから「隠密」を切っても、確かにアンデッドは寄ってこないようだった。


「ん?」


 そのとき表から声が聞こえてきた。


「ここで引き返すだと!? バカを言うな! 下級区域ばかりおったせいでまったく収穫がない! 高い金を払って貴様らを雇っているというのに!」

「冗談止してくれよ。もう『聖油』がわずかしかないんだ。今からなら焚きながらでも帰れる距離だ」

「それでも冒険者か!」

「冒険者ってのは冒険しないもんなんだよ、貴族のジーサン」

「ぐぬぬぬ……」


 またトラブルか、とヒカルはドアからこっそり外をうかがう――。



   *   *



「……『ポーンソニア王家遺物研究会費』? なんですかこれは」


 書類から顔を上げたのはクジャストリア王女だった。

 執務室には上位執務官がいたが、すでに帰り支度を整えたところだ。


「王女殿下、それはまた明日にしませんか?」

「これだけ確認させてください。5年前からかなり予算を持ってますよ? 今年の年間予算は2億ギランです」

「『ポーンソニア王家遺物研究会』が使ってるんでしょう?」

「ですから、それがなんなのかと聞いているのです」

「……調べてみます」


 顔にははっきりと「早く帰りたい」と書いてあるが、上位執務官は書棚にある公的機関の総覧を調べ始めた。


「あぁ……バルブス卿の始めた研究会ですよ。王家に関する遺物が出土された場合、優先的に買い取り、遺物を資料として残しています」

「バルブス卿……歴史学者のガフラスティ=ヌィ=バルブスですか?」

「よくご存じで」

「それにしても2億ギランは多すぎませんか? お父様はこのことをご存じなのでしょうか?」

「研究会設立の後見人は陛下になっていますね」

「ふぅん……?」


 クジャストリアは首をかしげる。

 確かに父であるポーンソニア国王は様々な団体の後見人を務めているが、単にそれらは名前貸しだ。さらには発起人が美形の女性であることがほとんどで、国の予算をお小遣い代わりにくれてやるためにやっている。このような「お堅い」研究会の後見人など聞いたことがない。ましてやこれほどの予算がヒモ付いているとは。


(……お父様が国の歴史や王家の過去について話をなさっているのは聞いたことがありませんね……なんなのでしょう、この研究会は? 5年前――5年前になにかあったかしら)


 この件はもっと調べるべきかどうか、迷う。今はクインブランド皇国と局地戦が始まっており、国の中枢には余分な仕事のリソースがない。


「執務官。この件ですが調べるべきでしょうか――って……」


 すでに上位執務官は退室した後だった。


「はぁ~~~~~~~」


 とため息をついて、クジャストリアはその書類を積まれた山のいちばん上に置き、次の書類に取りかかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者連中はしつこく絡んでこなかったので、 実は本当に心配してくれてるだけか?と一瞬思ったけど、 結局助けられてお礼も言えないクソ連中だった それどころか「横取りしやがって」は草
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