鉱山都市ゴードン
更新は「オバスキ」と同じ日曜18時にすることにしました。ズラすと、混乱してしまうので……!(自分が)
前回あらすじ:
クインブランド皇国の政争にケリがついたこともあり、ヒカルたちは次の目的地を決めようとしていた。折しも、冒険者ギルドでは「幻の黄金民族ポジ」の話題で盛り上がっており、それを見つけるべく行動を開始することに。久しぶりの冒険者活動だった。
クインブランド皇国、皇都から馬車で揺られること10日。
町から町への移動だった旅も、やがて村から村へと変わり、最終的には旅人用の宿泊所を使っての自炊をすることになった。
それでもラヴィアやポーラが楽しそうにしているのは、この世界でいう「旅」はこれが当たり前だから環境は気にならず、むしろ「旅」をちゃんとできていることの喜びが勝っているからかもしれなかった。
多くの人がポッテラト山岳地帯を目指していた。
乗合馬車だけでなく、専用の馬車と御者を雇っている冒険者パーティーもあれば、大きな荷物を運ぶ商団も多い。夜になると宿泊所周辺にはいくつも焚き火が現れ、それを囲む輪ができた。商魂たくましく、酒や食事を売る者も出てきて、せっかくだからとヒカルは食事を買って食べることにする。
「んんん〜〜辛くて美味しい!」
震えながらラヴィアが喜んでいる。
木の器に盛られたスープは、羊肉を使った煮込みだった。
脂がぎっとりと浮いているが、スープは真っ赤で、トマトと香辛料がたっぷり使われているためにすっきりと飲める。ただその後にカーッとするような辛さが押し寄せてくるのだが。
(パクチーみたいだ……)
アクセントで添えられている刻んだ白いタマネギ、青い香草はパクチーと同じ香りがした。
標高が高くなってきているのだろう、夏だというのに夜は気温がぐっと下がるのでこの温かいスープがありがたい。
(冒険者稼業もいいもんだな)
見上げた空に星屑がちりばめられている。地球でも、天文台が設置されているような場所でしかお目にかかれない美しい夜空も、この世界では見放題だ。
「うい〜……お嬢ちゃんたち、冒険者ごっこかぁ? こんなところにいたら寒いだろうよ。俺たちんとこ来な!」
面倒があるとすれば、ラヴィアとポーラを連れているとこうして酔っ払った冒険者に絡まれるということだろうか。
「ほら、こっち来いって、こっち……あれ?」
そういうときは黙って「集団遮断」を発揮する。
たいてい、夜の冒険者は酔っ払っているので、酔っ払って幻でも見たのかと首をかしげながら帰っていく。
何度も続くと面倒なので、食事のときはくっついて座って「集団遮断」を発揮しっぱなしにするヒカルだった。
移動も楽しかったが、さすがに10日も経つと疲れが溜まってくる——そのタイミングでようやくたどり着いた。
鉱山都市ゴードンは、クインブランド有数の金鉱山ゴードンのために作られた町であり、今も稼働している。
標高4,000メートル級の山々がそびえているポッテラト山脈は、茶色の地肌を晒しており、そのうちのひとつが金鉱山ゴードンだ。
砂金が採れるという川は今も町の水源として利用されていて、川の上流に金鉱脈があったというわけだ。
山脈の麓とはいえ、標高は1,000メートル近くある。町の周囲には緑がなく、ここから少し下ると森が広がっていた。
川に沿った道が鉱山へとつながる唯一の道であり、それはこの街を貫く大動脈でもあった。
「賑わってるなあ……!」
関所もなにもない。城壁も囲いもなにもないのは、ゴードンが国境から遠く、またモンスターが押し寄せてくるような要因もないからだろう。
出入り自由の街というのは辺境の村以外で初めて見たヒカルである。
街は緩やかな傾斜の中にあり、広々とした馬車の停留所を離れると、多種多様な人々が入り乱れていた。
冒険者、商人、街の住人、子どもたち……。
人種も多様だ。
ヒト種族はもちろん、エルフに獣人、ドワーフ、ハーフリングに見たこともない——身体に植物を生やしている人、身体に鉱物をまとわせている人、爬虫類系の人種までいる。
石造りの建物の中にカラフルな色を身に纏った人たちが歩き回るので、ますます統一感がなかった。
当然、道の舗装などされていないので砂埃が舞う。住人は口元を布で覆っている人たちが多く、砂埃のせいだろう、家々の壁はすすけていた。
「部屋が取れてよかったですね!」
黄金のウワサに釣られた冒険者が押し寄せているせいで、どこの宿もいっぱいだった。だが、ヒカルたちはいわゆる冒険者が望みそうな宿ではなく、出張でやってくる行政官や富裕な商人が使うような、高級宿を狙った。
この僻地にこれほどのものが……と思えるほどに凝った内装と、清潔な部屋にヒカルは満足した。身体中がホコリだらけだし旅の汚れを落としたいと思っていると、奥に浴室まで見つけた。
「すばらしい……!」
よく磨かれた銀色の蛇口をひねると、魔道具で温められたお湯が出て、石を削って作った浴槽に注がれる。浴槽のサイズが「洗濯機かな?」と言いたくなるほど小さいのはこの際目をつぶることにした。
「すばらしい……!」
そのころ同じように声を上げているラヴィアがいた。
風で舞い上げられた砂埃がこびりつき、曇っている窓ガラスの向こう——この部屋がある3階から表通りを見下ろしている。
そこにはいくつかの屋台が並んでいて、そのうちの1軒に彼女は目を留めていた。
見覚えのある看板。そこに書かれた文字は、「ポーンドホットドッグ」。もうひとつの看板には「激辛ソース、ゴードンオリジナルソースあります」。
ポーンド発祥のあのホットドッグがなんとゴードンにまで進出していたのだった。
冒険者パーティー「東方四星」のセリカが——ヒカルと同じ日本からやってきたセリカが「もっと広めたい!」と考え、ヒカルも出資したホットドッグチェーン。
ケガや加齢で冒険を続けられなくなった冒険者を積極的に雇うという冒険者サポート事業でもある。
1日1回は必ず食べよう、なんなら今から買いに行こう、どうしてこの宿に入るときに気づかなかったのかな——なんて考えているラヴィアは両手を握りしめ、ふんすと鼻息も荒く心に誓ったのだった。
「ふたりとも、なんだかテンションが上がってますねぇ……」
お茶を淹れながら、ポーラはそんなことを思ったのだった。
1日ゆっくりして旅の疲れを取ると、その翌日からヒカルたちは行動を開始した。
まずは冒険者ギルドで情報収集だ。
冒険者ギルドは街に溶け込むような石造りの建物だったが、家が数軒分はあるかというほどに大きかった。
砂埃が舞う街なので集まる冒険者たちもホコリまみれである。そんな中、こぎれいな格好のヒカルたちがやってきたので冒険者たちの視線はこちらに集まった。
もともと少年少女で活動してきたので注目を集めがちで、この程度の視線ならもはや慣れたヒカルである。
(ふーん……「黄金登山組」と「元々この街で活動してた組」と、半々くらいか)
ゴードンを根城にして活動していた冒険者と、黄金のウワサを聞きつけてやってきた冒険者とはやはり混じりはしないのだろう、雰囲気が全然違うとヒカルは思った。
(この街の冒険者は、獣人が多いな)
これから登山をする、つまり4,000メートル級の山に挑むという冒険者はわかりやすく防寒着を持っている。
だが山を登る必要がない冒険者は軽装だ。
軽装の冒険者は獣人が多かった。
ネコミミやイヌミミがついているだけの獣人もいれば、顔は完全に豹、みたいな獣人もいた。グ○ンサーガかな? とか思ってしまうが、その豹頭王は女性だった。
身体の重要な場所だけプロテクターを付け、それ以外は身軽なスタイルである。
夜は冷えるだろうが、それはマントや外套でカバーするのだろう。
「……坊やたち、見たところいいとこの坊ちゃんって感じだけど、山に登るってんなら止めときな」
声を掛けてきたのはぴょこんとふたつの耳が立っている猫系の獣人で、ヒカルが見上げるほどに上背がある。
腰に二振りの剣を吊っていて、どうやら二刀流らしい。
焦げ茶色のショートヘアはさらりとしていて、じろりをヒカルを見つめる瞳はわずかに吊り上がっている。
皮革鎧はよく使い込まれており、年齢は20代前半に見えるのに、彼女の立ち姿は熟練の冒険者のようだった。
「僕らを止める理由を聞いても?」
「理由だぁ? それがわからねーんだから坊やには無理だって言ってんのよ。こないだも、坊やくらいのガキどもがやってきては山に突撃して、仲間が半分死んだっつって泣きながら帰ってきた」
「そうですか。ご忠告どうも」
ヒカルは彼女を無視してカウンターへ進もうとする。
「おい! 死にたいならひとりで死にな! 可愛いお仲間まで巻き添えにするんじゃねーよ!」
「可愛いお仲間ってわたしたちのこと?」
「た、たぶんそうだと思います!」
「それなら巻き添えどころか、自分から進んで冒険者をやってるから平気」
ラヴィアとポーラが反応すると、明らかにムッとした顔をする猫系獣人。
「迷惑なんだよ! ヨソ者がどかどかやってきて大騒ぎすんのはさ」
猫系獣人の言葉に、同じ「ヨソ者」らしい冒険者たちがぴくりと反応したが、ヒカルは涼しい顔だった。
「それならなおさら僕らのことは放っておくべきですね。僕らがポジの跡地を見つければ『ヨソ者』たちは全員いなくなりますよ」
すると——ギルド内に静寂が下りた。
だが直後、
「——ぶっ。ぶははははははは!」
爆笑の渦に包まれる。
「あは、あはははっ、あははははははは! わ、笑わせる! この坊や、ギャグセンスは半端ねーよ!」
「ガキが、ポジの跡地を見つけるって!? ここにどれだけの冒険者がいて、その誰もがいまだ見つけてねえってのによお!」
「その自信だけはあやかりてえわ! ぎゃはははははは!」
こればかりはここの冒険者も、よそからやってきた冒険者も等しく笑っていた。
だがヒカルの表情は変わらず、すたすたとカウンターに向かうと、
「現在の冒険者による山岳地帯の探索状況と、モンスターの分布に関する情報をいただきたいのですが」
「あ、え……」
どこのギルドも受付嬢は若い女性ばかりだったが、ゴードンのギルドは若い男だった。
「えっと、あれ? もしかしてほんとうに山を目指すんですか?」
「事前の情報に問題がなければ、そのつもりです」
「……情報料、結構かかりますよ。山岳地帯のモンスターは手強いので……」
「いくらですか」
「1万ギランになります」
円換算で10万円ほどの価値だ。
これくらい躊躇せず払える冒険者にしか山岳への立ち入りを認めないということかもしれない——ヒカルは推測した。
「1万ギランなんて大金、坊やのお小遣いだと無理だろ? わかったらさっさと帰れ——」
「王国金貨でお願いします」
ヒカルが猫系獣人の茶々を無視して金貨を差し出すと、
「このガキッ! 自分で稼いだわけでもない金を、さも自分のもののように出してんじゃねーよ!」
横から伸びてきた彼女の手を、ヒカルはつかんだ。
「なっ……離せコラ!」
手首をつかまれたが逃げようとしても全然離れなかった。
「……あの、話が終わったならあっち行っててもらえますか? 邪魔です」
ヒカルはソウルボードに「筋力」3を振っている。大の大人よりも強い力だ。ちらりと彼女のソウルボードを見たところ、「筋力」は1しかなかったのでヒカルから見ればたいしたことがない相手だった。
ぎろりとにらまれた彼女は、「ひっ」と顔を青ざめさせ、手を離された瞬間に上体が泳いで倒れそうになる。
そこで尻餅をつかなかったのは、さすが冒険者と言うべきだろうか。
「情報を」
ヒカルはカウンターの男に、向き直った。
ファイルの閲覧室はギルドロビーから奥に進んだ部屋にあり、そちらはこぎれいで静かだった。
他に数人、利用者がいたが、その人たちは資料を写すのに忙しいようでヒカルたちには気づかない。
「……ポッテラト山脈はこれだけ広いんだなぁ」
地図を見ると、クインブランド皇国の西に、フォレスティア連合国にまでつながるように広がっている。
「これ全部を調べるのにどれくらい時間が掛かるのかしら……」
「いや、ラヴィア。さすがに全部は調べなくても大丈夫だよ。ある程度調査箇所は絞れると思う」
ヒカルの人差し指が指したのはここ——金鉱山ゴードンだった。
「この周辺、どれほど遠くとも50キロ以内だと思う」
「どうして?」
「単純な話で、『黄金民族』の黄金がどこから出たのかということなんだ。周辺ではこのゴードン以外に金鉱山がないというし、最初は川に埋もれていた砂金を見つけたんじゃないかな。そこから運ぶとなると、山道を通ることを考えたら50キロくらいが限度だと思う」
「なるほど……」
持ち運びの手段は、背負うか、ヤギなどに持たせるかだ。
「とはいえ簡単そうに聞こえるかもしれないけど、今までに見つかっていない集落だということを考えると、相当に険しい道を覚悟しなければいけないし、土砂崩れで道が埋まっている可能性もある。登山道も整備されていないから登頂するのも一苦労だろうね」
「だから、何十日も掛けてるのに、冒険者の探索範囲がたいして広がってないのね」
「そうだと思う」
ギルド職員に聞いたところ、これまでの冒険者による探索範囲は、人の手が入っている道から離れて、せいぜい20キロがいいところだった。
「あと、出現モンスターも特徴的だね」
「ワイバーン種に、フレイムゴートって言ってましたね」
ポーラが言った。
「確か、天敵のいないワイバーンがどんどん数を増やしていて、生態系は崩壊寸前で……フレイムゴート、つまり炎を纏ったヤギはワイバーンに捕食されないために生き延びていると」
ギルドは危機感を覚えているようだった。
ワイバーンは竜種であり、空を飛ぶ巨大トカゲである。面倒なことには鱗が硬くて並大抵の刃では歯が立たず、さらには火を吐く。
ヒカルは以前、フォレスティア連合国で下等翼竜と戦った。あのとき、連合国のツブラからやってきた王族、シルベスターと初めて出会ったのだった。
ほとんどが翼竜であるワイバーンだが、稀に地上を這う種もあり、それはフィールドワイバーンと呼ばれる。ちなみに、罠を得意とする冒険者パーティー「愉快痛快」がランクAに昇格したきっかけは、フィールドワイバーンの討伐だった。
それほどの、脅威である。
そして山岳地帯に食料がなくなったワイバーンはどこへ向かうのか?
麓だ。
麓には森林地帯があり、街がある。
フレイムゴートも、緑豊かとは言えない山岳地帯から麓の森林へと下りて食事をし、夜には山へ帰っていくらしい。
そんなのが山から下りてきたら、数匹でも大惨事を引き起こすことになる。
「……そんな危険なモンスターがいるわりに、冒険者たちはポジを探しに出かけるんだよな」
「なんでも、ワイバーン除けになる鈴が売られているそうですよ。ヒカル様が受付の方と話していたときに、冒険者たちの会話が聞こえてきたのですが」
「鈴ぅ……? そんなバカな。熊じゃあるまいし」
熊除けに鈴を持って山に入るという話はあったが、アレはまた別の話ではあった。
(人を避ける性質がヒグマにはあるから、「ここにいるぞ」というアピールで持っていくんだよな、確か。鈴じゃなくても音が出ればなんでもいいわけで。……逆に、人を襲ったことがあるヒグマには逆効果で、「ここにいるぞ」とアピールすれば、喜んで近づいてくる)
冒険者の居場所を知らせれば、ワイバーンは襲ってくるのではないだろうか? 以前見たワイバーンも、人間を怖がっているふうはまるでなかった。
「ワイバーン除けの鈴、か……」
よくよく考えるとヒカルたちは「隠密」があるので、そんなものを身につける必要はない。
「……欲しいな」
「えっ。どうして?」
「いや、ちょっと気になってね。それ、誰が作ってるのかな」
「誰が……って?」
「よし、行動を開始しよう。探索を開始するには、まずは情報収集からってね」
「?」
「?」
わけがわからない、というふうにラヴィアとポーラは顔を見合わせる。
このギルドに来たことは「情報収集」ではないのかと。
「ふふ……まあ、ただの思いつきではあるんだけど、確認して損はないはずだよ。とは言っても」
ヒカルの「魔力探知」が反応する。
先ほど、ギルドのロビーで絡んできた猫系獣人はすでにギルド内にはいない。
内部には。
「僕らを待ち伏せしている皆さんの相手が先のようだね」
彼女は、仲間とともにギルドの表に陣取っていた。メンツをつぶされた腹いせに、なにかしようというのだろう。
次回はザコ戦です(直球)。
ここでおさらい。ヒカルのソウルボード。
後書きを使って主要キャラのソウルボードを出していこうかなと。
ヒカルの能力は物語の発端からして「隠密」に偏ってしまい、その後は場当たり的にいろいろ伸ばしてしまったところがあります。
「天」系スキルはなんかヤバイ気がして取ってきませんでしたが、取らなくてよかったな、というのは直前の章のルナムートを見てヒカル本人は思ったようです。人格をぶっ壊すことで強さを手に入れるぶっ壊れスキル。
魔力系のアイテムがないので、今は「魔力」のスキルツリーは不要ですね。
残りのポイントをどう使って成長していくのか。
【ソウルボード】ヒカル
年齢17 位階68
14
【生命力】
【魔力】
【魔力量】1
【筋力】
【筋力量】3
【武装習熟】
【小剣】3
【投擲】10(MAX)
【天射】0
【敏捷性】
【瞬発力】8
【バランス】1
【隠密】
【生命遮断】5(MAX)
【魔力遮断】5(MAX)
【知覚遮断】5(MAX)
【暗殺】3(MAX)
【狙撃】3(MAX)
【集団遮断】5(MAX)
【直感】
【直感】2
【探知】
【生命探知】1
【魔力探知】5(MAX)
【探知拡張】3(MAX)





