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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第1章 「隠密」とスキルツリーで異世界を生きよう
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ソウルカードの作成

 昼前に目が覚めた。喉がカラカラだった。

 墓地は人が来ないのか、しんとしている。

 天気はすっかり晴れていた。


 墓地に隣接したところに井戸がある。釣瓶式の井戸でからからと桶を引っ張ってあげて、水を飲んだ。

 乾きが癒えると腹が減る。

 ヒカルはお腹をさすった。

 さて、どうするか。

 お金がない。

 売れるようなもの……服? でも血まみれだ。

 一度シャツまで脱いで水で洗った。……茶色い染みと穴のあいたシャツになった。


「これは……冷たいな」


 乾かしている時間もないのでそのまま着た。

 やるべきことを考える。


 ・お金を稼ぐ。

 ・モルグスタット伯爵の殺害犯としてバレないように逃げる。


 この2つが最優先だろう。

 金稼ぎの手段としてローランドの記憶を探る――。


「……?」


 昨日よりも記憶がかすれている。いや、知識は残っているのだけれど、経験として覚えたこと、感じたこと、思い出――そういったものがどんどん色あせている。どこかでウワサに聞いた他人の経験のような感じさえした。

 ヒカルの身体からローランドが消えていっているのを感じた。


「……ま、とりあえず生きるしかないな」


 記憶を探ってまず思いついたことがあった。

「ソウルカード」の作成だ。ヒカルのスキル「ソウルボード」に似ているが、「ソウルカード」は簡単に言えば身分証だ。

 冒険者ギルド、商人ギルド、錬金術師ギルドなどに行けばギルドカード、神殿に行けばソウルカードという名称で発行される。

 それぞれ使用される用途が違うので、細かい機能は違うが、大本の「身分証」としての機能は同じ。


「……冒険者ギルドだな」


 冒険者ギルドなら、初めての発行であった場合、無料で発行してくれる。他のギルドは確か手数料が掛かる。

 たいした金額じゃないにせよ、そんな金額すら持っていないのが今のヒカルだ。


「だけど冒険者ギルドってどこだ?」


 それはローランドの知識にはなかった。

 墓地から離れて街中へ歩いて行く。巡回中の警備兵がいると、思わず道を逸れて裏路地に入ってしまう。「隠密」のスキルがあるが――ここでその効力を試してみるのは意味がない。別のところで試そう。

 そんなことをしているうちに風景はどんどん大通りから離れていく。寂れていく。

 少し先では小さな幼女が路地の壁に、チョークみたいなものでお絵かきをしている。


「ふむ」


 これは……やるしかない。

 幼女に怪しげな男が声をかける、事案発生である。

 とはいえヒカルはまだまだ若いのだが。


「ちょっといいか」


 声を掛けると見慣れぬ風体のヒカルに、幼女がびくりと身体を震わせる。

 汚れてくたびれてはいるが、そこそこの貴族に見える身なりだからだろう。


「心配しなくていい。道を聞きたいだけだ……冒険者ギルドはどこだ?」

「……お兄ちゃん、冒険者ギルドに行きたいの?」

「ああ」


 すると納得したように少女はすらすらと言った。


「あのねー、この路地をまっすぐ行くでしょ? 大通りにぶつかるけどそのまま横断して真っ直ぐ行くんだよ? そのまま裏路地を真っ直ぐ行くと、また大通りにぶつかるから、そしたら右に行って。5分くらい歩いたら、見えてくるよ?」

「わかった。……礼をしたいところだけど、あいにく持ち合わせなくてね」

「いいよ! 出世払いで」

「……わかった」


 なかなか豪快な幼女だった。


 石造りのどっしりとした建物が冒険者ギルドだ。

 中は、屈強な男たちの笑い声や胴間声で満ちている。もちろん女もいるが、筋肉ムキムキだったり、どこか影のある表情だったりと、一筋縄ではいかない。

 少年少女で組んでいるパーティーなんかもあるが、たいてい彼らは大人の冒険者にちょっかいを出され、からかわれていた。


 ギルドのカウンターにいる受付嬢は1人だけだった。

 白い布地に銀の縁がある小さな帽子を頭に載せている。

 同じディテールの制服を着ている。長めのスカート。上着は前であわせになっていて、袖は大きく広がっている不思議な作りだった。

 赤い髪のショートボブ。ちょっときつめの顔つきだが、美人だった。年齢は20歳には届いていない。

 彼女はクエストの受け付けをしつつ、デートの誘いをかけてくる男をあしらいつつ、業務を進めている。


「ふむ」


「隠密」スキルを発揮しているヒカルに、気がついた冒険者はいない。「なんだぁ~? いつから冒険者ギルドはガキの遊び場になったんだ~?」なんて言ってくる冒険者もいない。

 ろくすっぽ戦うスキルがないので、絡まれないほうがいいに決まっているが。


 さて、カウンターは受付嬢を中心に、半円状に冒険者が群がっている。

 左右から声をかけられ必要な業務を淡々とこなしているが、常に10人は、受付嬢に誘いを掛けているのだ。

 クエストを受注したり達成したりしたければ、そこに割り込んで行かなければならない。


「――でさー、こないだすごくいいお店見つけてさ――」

「――ジルちゃんって彼氏いないんでしょ? とりあえず1回! 1回だけご飯行こうよ!――」


「ギルドカードを作って欲しい」


「隠密」を使って冒険者の間をすり抜けて、最前列でスキルをオフにした。


「んなっ!?」

「なんだこのガキ、どっから出てきた!」


 受付嬢――ジルという名前らしい――も、驚いたように目を丸くしている。


「あ、え、っと……」

「ギルドカードを作って欲しい」


 ヒカルはもう一度言った。すると、


「こんのガキィ! 順番守れや!」

「なに抜かしてんだよ!」


 わーわーと言ってくる冒険者たち。


「順番を守るように並んではいなかった。僕はギルドの受付嬢に正当な仕事を要求したに過ぎない。それに、ギルドカードを作りながらでも食事へ誘うことはできるのでは?」

「んのッ……!」


 カッと顔を赤くする冒険者。

 だがここで手を出してくるほど頭が悪いわけではないらしい。


「おい」

「――ああ」


 彼らは視線を交わすとぞろぞろと出て行った。


(ふうん。ギルドから出たところを難癖つけてくる気か)


 なんともわかりやすい行動だった。

 カウンターにはヒカル以外いなくなっていた。


「――はあ、アンタねえ。どこのお坊ちゃまか知らないけど、あとで謝ったほうがいいわよ? お金を出せば命までは取らないだろうから」


 ジルが呆れたように言った。

 お坊ちゃま、というのは服装を見られてのことだろう。


「ギルドに所属している人間が恐喝まがいのことをしそうだというのに、ギルド職員であるあなたはなにもしないのか?」

「――は?」

「職務怠慢だと言ったんだ。犯罪者予備軍を放置しているということはここの団体の程度も知れる」

「はあ!?」


 まさか反論されるとは思わなかったのだろう。

 ジルは声を上げ、次に怒りの視線を向けてくる。


「アンタ……冒険者ギルドを敵に回していいと思ってるの?」

「なるほど。職員も恫喝する、と」

「違うわよ。これは恫喝じゃなくて警告――」

「いいからギルドカードを作って欲しい。求められれば作らなければならない。そうだろ?」

「…………」


 すごい目でにらんでくる。


(美人が台無しだな)


 と涼しい顔でヒカルはそんなことを思う。


「……じゃあ、ギルドカード発行するわ。ここに手を当てて」


 差し出されたのは――つるりとした石版だった。

 ただ表面はガラスのようで、ガラスの向こうに幾何学的な紋様と古代文字が描かれている。

「ソウルボード」にも似ている気がするが、目の前にあるものはずっと無骨だ。

 だがヒカルが驚いたのは違う点だ。


(……これ、ローランドも研究していたものだ)


 神殿の管理する「ソウルカード」と同じシステムに接続している。

 読み取るのは「魂の記録」だという。

 ヒカルは手のひらを押し当てた。一瞬、ガラスの向こうで光が揺らいだ気がした。


「……ふうん、確かに今までに一度も発行したことがないわね」


 ジルが手元の端末をなにか操作している。

 よかった。ローランドの分が記録されていたらお手上げだった。

 もっとも「魂の記録」なのでヒカルとローランドのものは別物だろうという思いはあったのだけれど。


「はい」


 カードの発行はすぐに終わった。


【冒険者ギルドカード】

 【名】ヒカル

 【記録】ポーンソニア王国ポーンド冒険者ギルド

 【ランク】G

 【職業】---


「……職業?」


 思わずつぶやいてしまった。

 これはローランドの記憶にもなかった。ローランドは冒険者との付き合いがほとんどなかったようだ。


「はあ~~~~~~話したくはないけど規則だから説明してあげるわ」


 めっちゃ嫌々説明してくれた。


「カードに指を触れてごらんなさい。そうしたらあなたの今の『魂の記録』にあわせて選択可能な職業が出てくるから。選択することであなたの能力を補正してくれるのよ。『○○○○○○神:○○○○○○』っていう形で表示されるの。神様の文字は短ければ短いほど強い加護が得られるから。3文字以下なんて超レア。1文字なんて神話級。4文字でだって上位の冒険者としてやっていける」


 ソウルカードや他のギルドカードにもあるのよ、と付け加えた。

 指を触れると、なるほど、プルダウンのように表示された。


【暗殺神:ナイトストーカー】

【隠密神:闇を纏う者】

【凡混沌神:台風の目】

【森林散歩神:フォレストウォーカー】

【広域市民町民村民救済神:シビリアン】


「……なるほど」


 なんかヤバげなヤツがいっぱいある……。

 どうすんだこれ、と思っているヒカルに、ジルが言う。


「まあアンタくらいなら『広域市民町民村民救済神:シビリアン』とか『金満市民町民救済神:マネーワーカー』とかその辺じゃないの?」

「……そ、そうだな」

「なに動揺してんのよ」

「動揺などしていない」


 これは見せちゃいけないヤツだ。

 絶対、暗殺体験が影響しているし、スキルツリーの効果のせいだ。

「シビリアン」を選択してジルに見せる。


「……やっぱりね」


 だと思ったわ、とジルは言いながら指で指し示す。


「掲示板で依頼を拾ってギルドカードを当てれば受注。納品系なら資料があるから資料庫で確認して。他には――」


 ジルはいろいろと追加の説明をした。


・冒険者ランクはGが最低でF、E……と上がっていき、Aの上がSとなる。


・ランクは依頼をこなした数や質でランクアップしていく。ランクアップすると上位の依頼を受けられる。


・冒険者は自分の得意分野に応じて特化していく。採取は「プラントハンター」。貴金属を探す「ジュエルハンター」。モンスター討伐に特化した「モンスターハンター」。ダンジョン探索特化の「アドベンチャラー」。護衛に特化した「ボディーガード」。何でも屋の「クエストハンター」。等々。


・それぞれのジャンルで有名になると指名依頼が来たりする。


・「職業」はなにを選択してもよいしギルドに報告する必要もないが、やはり3文字以下の神の加護はレアで、その加護は強力である。「職業」だけで有名になる冒険者もいる。修行を積んで「魂の位階」が上がることで「職業」が増えることもある。


 ちなみに「魂の位階」とはモンスター等を殺すと、その魂の一部を奪うことができ、肉体能力が成長することだ。

 ローランドの知識にもあったが、ローランドは「魂の位階」が上がったことはなかったようだ。貴族の子弟は10代後半からモンスター討伐を「たしなむ」らしい。

 パワーレベリングか、とヒカルは思った。

 モンスターとふつうの動物の違いは、人間に害があるかどうか、らしい。

 特に魔力を持っているモンスターの肉体は加工に自由があり、単純に食料、あるいは装備品や日用品に使われる素材となるため、ギルドに持ってきてくれれば買い取ってくれる。


「以上。二度は説明しないから――」

「大丈夫だ。覚えている」

「……じゃあさっさと行って。つかえてるの」


 気がつくと、ヒカルの後ろには冒険者たちが集まっていた。別の連中らしい。

 ジルにまた食事の誘いをかけているだけのヤツらだったが。


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[気になる点] 身内も知り合いもいない何の伝手もない知らない社会で何を思ってイキリ散らかすのか本当に理解できない。 自分が小金持ちだと仮定して法も明文化されてないルールも知らない土地に海外旅行して同じ…
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