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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第8章 歴史に陰あり、そして力に光あり

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行きがけの駄賃

 山間にひっそりと建てられているログハウス然とした山小屋は、たった一軒ならば変わり者が住んでいるだけだろうと思えるのだが、同じ形のものが5つ並んでいるとそこにはなんらかの「目的」を感じるものだろう。

 テーブルに広げられた地図を確認している6人の男たちは、見た目こそ野卑な山賊だったが、


「皇都からの連絡は?」

「定刻通りに。陛下の暗殺未遂以降、新興派貴族の動きが激しい様子です」

「くっ……あのゲスども。陛下あっての皇国だということを忘れたか。やはり陛下を亡き者にせんとしたは新興派か」


 話している内容は、明らかに山賊のものとは違っていた。


「新興派を勢いづかせるわけにはいかん!」

「では我らはやはり皇都に戻るべきでは? 陛下の守りを固めましょうぞ」

「いや……しかし我らの任務はまだ解かれておらぬ。右大臣閣下も、作戦は続行だという認識だろう?」

「はっ。右大臣閣下も、ここで我らが山賊のフリ(・・)をして荷馬車を襲うという作戦によって、新興派をじわじわ追い詰めているとお考えのようです」

「連中は金ばかり考えているからな。積み荷がなくなり、金が手に入らないとなればはげ頭をかきむしって悔しがっていることだろうよ」


 くっくっく、と声を殺したような笑い声が室内に満ちた。


「……ん? なにか叫び声が聞こえなかったか?」

「気のせいではありませんか、隊長? あるいは野犬が噛みついたか、噛みつかれたか……」

「山の中に籠もっていると、人の物とも知れぬ声が聞こえるような気がするよ」

「案外、感覚が優れてきたのかもしれませぬぞ。戻れば、剣の腕が一段上がっていると気づくことになったりして」

「そうなれば右大臣閣下からの覚えもなおさらめでたくなるな。あの方にこそ、軍部を掌握していただきたいものだ」

「我ら皇都警備隊遊軍は、近衛兵団にも負けぬものを……」

「新興派貴族を一掃すれば、その功績を認められ、右大臣閣下のさらなる昇進もあり得る」

「つまり、宰相に……?」

「そうだ。そうなれば——」


 ——ウワァァァッ。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 6人の男たちは、視線を交わした。今、確かに叫び声が聞こえたのだ。


「……様子を見て参ります」

「我もともにゆこう」

「頼むぞ」

「はっ」

「はっ」


 隊長格にうなずくと、2名の山賊——皇都警備隊遊軍兵は山小屋から外へと出た。

 夜も更けている。

 深い森の奥にあるそこは、リリリと鳴く虫と、フクロウの鳴き声だけが聞こえていた。つまるところ、いつもと同じ夜だ。

 後ろ手に扉を閉めた彼らは、並んでいる山小屋へと忍び寄っていく。就寝時間はとうに過ぎているので、当然灯りも消えているし、静まり返っている。

 手近な一軒に近づき、コンコンコンとノックする。返事はない。


「……寝ているのか?」


 先頭の兵士がつぶやいて、ドアの取っ手をつかんだ。ぐいと引いて開くとギィィとやけに耳障りな音が鳴った。

 間取りは先ほどの山小屋と同じ。二段に重ねられたベッドが並び、狭いながらも6人が寝起きできるスペースが確保されている。


「なっ……!?」


 彼が見たのは、転がっているテーブル、散乱する食器やシーツ、そして——中央に、縄でくくられ、まとめられた6人の兵士。

 ぐったりしている。死んでいるのか? いや、それなら縄で縛ったりはしない。しかし誰が、なぜ、こんなことを——。


「ハッ。お、おい、すぐに隊長にこのことを知らせ……」


 振り返った兵士は、すぐ後ろについてきていたはずの兵士がいなくなっていることに気がついた。

 その瞬間、全身に鳥肌が立った。

 仲間を縛り上げた何者か(・・・)は当然今もなお野放しのはずだ。

 もし、もし仮に、最初に隊長が言った「なにか叫び声が聞こえなかったか?」という言葉がほんとうに叫び声だったとしたら——その次に聞こえた叫び声がちゃんと(・・・・)全員の耳に聞こえたのだとしたら——声は、少しずつ近づいてきていたということではないか。


「た、隊長! 隊長! 誰か、侵入者がいます! ここは危険です!!」


 声の限りに叫んだ。5メートルほど先に隊長たちのいる山小屋がある。これだけ声を上げれば当然聞こえているはずだ。

 だが、待てど暮らせど隊長たちが出てくる気配がない。


「た、隊長……?」


 そのとき、ギィィ、と音がして、そちらの山小屋の扉が開いた。


「隊長!! 隊……」


 だがそれ以上は、言えなかった。

 ばたり、と仰向けに倒れるように出てきた身体——それこそが彼の頼りとしていた隊長だったのだから。

 隊長はもはや、動かなかった。


「あ——」


 兵士はようやく気がついた。

 自分がもう、最後のひとりなのだと。



   *   *



「コイツで最後——っと」


 ヒカルは、山小屋のドアを開いたところで勝手に(・・・)気絶して泡を噴いていた兵士を縛り上げると、仲間のいる横に転がした。


「だけどなんでこの兵士は気を失っていたんだ? お漏らしまでしてるし……」


 アンモニア臭がするので足早に離れながらヒカルは首をかしげた。まあ、気を失わせる手間が省けて助かったのだが。

 実のところ、ヒカルはここにいる兵士の誰も殺していない。端から順に寝込みを襲って縛り上げていくという簡単な作業ではあったが、人数が多くて面倒だった。嗅がせることで強制的に眠らせる薬を使ったりしたが、効きが悪くて跳ね起きられたりしたのが厄介だった。


「どうすっかな、この人たち……」


 隊長のいた山小屋に戻ってヒカルは悩む。「山賊」は空の荷馬車を襲わない。だが当然見張りはいるだろうと思い、昼のウチから「魔力探知」で街道から離れた場所を確認し続けていたのだ。

 案の定、見張りを見つけ、しかも宿場町からほど近い山中に潜んでいるようだったので、こうしてひとりで夜勤に励んだというわけだった。


「明らかに軍関係者っぽいもんなぁ。ま、予想はついていたけど」


 取り上げても金にならないコウナツを襲う「山賊」と来たら、目的は限られてくる。よほどのコウナツ好きか、コウナツの流通を止めることで間接的に苦しめる目的か。

 おそらく後者だろう——とヒカルは踏んでいた。これほどしっかりした(・・・・・・)山賊ならば。

 軽く探してみたが書類やメモの類は残っておらず、物的な証拠はなかった。訓練された兵士ならば尋問してもなかなか口は割らないだろう。


「どうしようかな……」


 運ぶにも大変、持ち運びが便利な証拠もない。尋問するにも手間。こうなってくると放置するしかないのだが——ここで野垂れ死にされても寝覚めが悪い。彼らは「山賊」として商人を襲いはしたが、コウナツを捨てただけで(ラヴィアに問えば「有罪」と言われかねないが)人的な被害は出していないのだ。

 ヒカルが迷っていたときだ。

 無意識に展開していた「魔力探知」に新たな反応が確認された。

 その反応は、超高速でこちらに迫ってくる——。


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― 新着の感想 ―
[一言] ヒカルが暗殺未遂と全然関係ないとこ行っちゃったと思ってたら繋がってるのかよ!!
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