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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第2章 冒険者ヒカル

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「東方四星」の動向

月間4位まで上がり、3万ポイントも目前になっていました。多くの人に読んでいただいて感謝しております。

 時間は少々さかのぼり、その日の午前。

 ポーンドで「最高級の宿」と聞かれれば、ポーンド住民の全員の意見が一致する場所がある。

「グランドホテル・ポーンド」だ。

 ホテル王が造ったグループホテルであり、「街の一等地」「いちばん高い建築物」「贅沢な従業員人数」の3点を満たせる場所にしか出店しない。

 もちろん王都にもあり、ヒカルが行こうとしているルートハバードの街にもある。そしてこのポーンドにもグランドホテルがあった。

 その1階には広々としたラウンジがあり、1つ1つのテーブルの間隔は大きく取られている。


「みんな集まったかな?」

「いちいち確認する必要なんてないわ! あたしたちは4人しかいないのよ!」


 問いに答えたのはセリカ=タノウエだ。

 大理石を削り、磨いた天板のテーブル――その豪奢な見た目に似合わないものが積まれている。

 ホットドッグである。

 セリカは先ほどからホットドッグをぱくついていた。


「あは、ははは……よく食べるね、セリカ」

「だっておいしいもの! ソリューズも食べたい?」

「私は遠慮しようかなぁ」


「東方四星」のリーダーにして「太陽乙女」の異名を持つソリューズ=ランデは苦笑交じりに遠慮した。

 その表情に、ウンケンを前にしていたときのような緊張感はない。

 数少ない心許せる仲間との会話を楽しんでいる。


「ソリューズ、はっきり言ったほうがいいと思うんだけどなあ~? セリカ太るよ~? って」


 その横からツッコミが入った。

 紫の短髪はウェーブがかかっていて、頭の上でふわっとしている。

 細い目にある瞳の輝きも同じ紫だ。

 肘丈まで、膝丈までのシャツやパンツからのぞいている手足は細い。ただ彼女自身、さほど身長があるわけではないのでそこまでアンバランスな印象はない。

 獣人ではないが、受ける印象は「猫」。

 それが「東方四星」のメンバーであるサーラだった。


「太らないわ! だって魔法を使うとお腹がすくもの!」

「そういった研究結果はなかったと思うけどなあ」

「事実太らないの!」

「それはそうみたいだけどねえ~?」

「……なにが言いたいの?」

「セリカ、太らないけど、胸も大きくならないよねぇ~?」


 きろりとセリカににらまれ、サーラは「にゃはははー」と笑う。

 そのサーラは、セリカより背が低く、腕も足も細いのに――なぜか胸はたわわ(・・・)であった。

 ただし、サーラよりさらに大きい「東方四星」の4人目がいるのだが。


「話を始めましょ! ソリューズ!」

「そうだね。シュフィは……」

「教会と孤児院よ!」

「いつもどおりか。じゃぁ、始めよっか。まずお互いわかったことを報告しようね」


 ソリューズは自分が行った冒険者ギルドでのギルドマスターとの会話を伝える。


「午前中にモルグスタット伯爵邸に行ったんだけどね、中には入れてもらえなかった。ただ世間話として使用人から話を聞いたところ、どうも令嬢は『類い希なる魔法の才能』があったみたいよ」

「……へえ」


 ホットドッグを咀嚼する口を止めたセリカ。


「まさかその子って――」

「んーん。セリカとは違う(・・)みたい。この世界で生まれ育った女の子。銀髪に青い目だって言うし、別の国の言葉(・・・・・・)を話したりもしない。教えてもいないことを急に言ったりもしない」

「そう……」

「あたしが聞いたことなんだけど~、どうもそのラヴィアって女の子、戦力として期待されてたみたいよ?」


 サーラが言った「戦力」という言葉にソリューズが眉をひそめる。


「……ひょっとして今、争ってるクインブランド皇国との戦争に投入する気だったと?」

「伯爵はそういう話を陛下に持っていったみたいだけどねえ」


 ふう、とソリューズはため息をつく。


「成人もしていない女の子まで利用しようっていうのは……イヤね」

「やっぱしさあ、さっさとこの国見限ってどっか行こうよ? あっ、あたしは南のフォレスティア連合国がいいなあ~。リゾートバカンスってやっぱし最高よねえ?」

「水着は着ないわ!」

「誰も強制なんてしないわよ~」


 にこにこと話を聞いていたソリューズだったが、


「次にどこに行くかは、この件が片付いてからにしようね? となるとやっぱり、モルグスタット伯爵と敵対していた軍務卿の動きが気になるね」

「んー……」


 首をかしげたのはサーラだ。


「あたしもそう思ったんだけど、軍務卿の子飼いの連中は中央で動いてて、モルグスタット伯爵から距離を置いていたっぽいんだよねえ~。たぶんあらかじめ根回し済みってことなんじゃないかなあって思うんだけど」

「根回し……そんな情報があったの?」

「ん。王都にいたときに、軍務卿のおうちに何度か入って耳にしたんだけどね?」

「そう、さらっと言わないでよ。見つかったら大変なことよ」

「まあ、まあ、あたしを見つけられるヤツなんて今までひとりもいなかったから平気よ~。ヘマをしなければね~」


 そのヘマが心配なんだけどね、とソリューズは付け加えつつ、


「とりあえず先入観はなしで検討してみましょうか。セリカ。『馬車から煙のように消える魔法』について調べはついた?」

「…………」

「セリカ?」

「……推測していたことがひとつあって、というか、おそらくそれが正解だと踏んでたんだけど……錬金術師ギルドのマスターと話をしたら『完全否定』されたわ」

「えぇと、確か『替え玉』だったっけ?」

「そう」


 セリカの推測は、こうだ。

 馬車に乗せられた時点ですでに令嬢ではなかった――風魔法と水魔法で作られた「幻影」だった。

 そういう魔法が実際にあるのである。

 この幻影はかなり高性能で、見た目はもちろん、触られてもその触感を再現できる。冬だと凍りついたり「人肌にしては冷たい」となるのだが、この初夏ならばそこまで気にならないだろう。

 替え玉のいいところは、魔法が解けると水蒸気となって空気に溶けるように消すことが可能なのだ。びしょびしょになったりはしない。

 もちろん問題もある。食事ができないとか、動作を操るにはある程度近寄っていないとできないとか、だ。

 だがそれらは今回のケースでは問題ない。「馬車に入れるまで」令嬢を動かせれば問題ない。馬車が離れていき、ある程度の距離で魔法が解ければいい。


「令嬢が魔法に『類い希なる才能』があるということなら十分説得力のある推測だと思うんだけど」

「錬金術師ギルドが言ってたのは、『実現可能性』じゃなくて、『手順』の問題よ」


 錬金術師のギルドマスターは、「令嬢が馬車に載せられる直前まで屋敷の地下牢にいた」と証言した。そこは「高位の魔力牢だったから逃げ出すことは絶対にできなかった」という。

 彼女を「魔力牢から出したらすぐに手錠をかけた」ため、魔法も使えなかったはず――。


「じゃあ、令嬢が自力で逃げたという線はないか……やっぱり協力者、あるいは、簒奪(さんだつ)者がいたということね。サーラならどうやる? 気配を消して忍び寄れるでしょう?」

「ん~できるし、開錠までいける。それにちょっと気になることもあって~」

「気になること?」

「確か護送の冒険者は~……『水をくれ』って言った男に出くわしたんだよね」

「そういう証言もあったわね。それが?」

「ちょっと歩けば王都近辺の街や集落に行き当たるのに、そんなことあるのかな~って」

「うん。私もちょっと不審に思ったけど、でもたいした対応もしてないのよね。1人が水をあげて、おしまい。馬車を停めることもなかった」

「…………」

「気になるの?」

「ん~~~~ただの勘だけどねえ。それがなにか関係している気がする。でもにゃ~~~~」

「なに?」

「仮に気配を消して忍び寄って、開錠に成功して、『水をくれ』と言って馬車を停められたとしても……令嬢を抱えては逃げられないんだよね。令嬢も気配を消せるんなら別だけどねえ」

「……それもそうね」


 ソリューズは小さくため息をついた。


「振り出しに戻る、か……やっぱりランクC冒険者が買収されたと考えるべきかしら?」

「それだと芸がないよねえ~。もうちょっと考えてみようよ」

「そうよ! ここに滞在したいわ!」


 勢いよくうなずいたセリカを見て、ソリューズは言う。


「……ホットドッグ食べたいだけでしょ?」

「それもある!」

「それ()?」


 セリカの口についていたケチャップを、ソリューズが手を伸ばしナプキンで拭き取ってやる。


「おそらくこの街に、同郷の――日本から来た転移者がいるはずよ! 会ってみたいわ!」



   *   *



 湖の奥にある森に足を踏み入れること30分。

 人間の姿はまったく見えない。


「さて、と。ラヴィア、ちょっと試したいことがあるんだけど――って、どうしたの?」


 ラヴィアはくすくす笑っている。


「ヒカルは実験が好きね」

「あ……その、また大規模魔法を使って欲しいってわけじゃないんだ。警戒しなくても大丈夫だから」

「警戒なんてしていないわ。私とあなたは対等ではないのだから、どんどん横柄に振る舞ってもいいのよ?」

「そうはできないよ……性格的に」

「かもしれないわね。私にひどく気を遣ってくれるものね。……夜だってとても優しいし……」

「ん、今なんて?」


 最後のほうがごにょごにょしていたので聞こえなかった。


「な、なんでもないわ! それで、なにをすればいいのかしら!?」


 頬を赤らめたラヴィアは誤魔化すように言う。


「お、おう……えっとね」


 ヒカルは説明した。

 ラヴィアの火魔法は強烈過ぎる。屋外ならまだしもダンジョン内ではダンジョンを破壊してしまう恐れがある。その結果、自分たちが生き埋めになったら目も当てられない。


「……私もそう思うわ。でもいちばん初歩の魔法でもあれくらい大きくなってしまうの」


 初級魔法「ファイアブレス」は3メートルほどの火球だった。


「前にちょっと話したろう? 魔法に『干渉』して欲しいんだ。拡散したり、形を変えたり――重要なのは小さくすることだけど」

「小さくする……」


 それからラヴィアは「ファイアブレス」を5発放った。そのどれもが一定の大きさだった。

 軌道を変えたりということはできるようなのだが。


「ふう……ダメみたい……」


 わずかに額に汗をしたラヴィアは、目の前に広がる黒々と焦げた地面を見てつぶやいた。


「うーん……全然無理かな?」

「絶対できないということはないと思うの。冒険物語にも書いてあったわ。ネズミのように小さなファイアブレスを放って、細い隙間の先にある納屋を燃やすの」

「へえ」

「毎日」

「毎日!?」


 これから毎日、家を焼こうぜ! というフレーズがヒカルの頭に思い浮かんだが一瞬で消し去った。


(不可能ではないが、ラヴィアはできない。なにが邪魔しているんだろう? 装備品? アクセサリー? ……いや、待てよ)


 ラヴィアのソウルボードを呼び出し――「魔法創造」に1振った。



【ソウルボード】ラヴィア

 年齢14 位階13

 6


【魔力】

 【魔力量】11

  【魔力の理】2

 【精霊適性】

  【火】6

  【魔法創造】1



「もう一度やってみてくれるか? 火球を圧縮するイメージで」

「……わかった」


 ヒカルがなにかしていたのはラヴィアにもわかったが、実際になにをしたのかまではわからない。

 半信半疑のままラヴィアは詠唱する。


「『我が呼び声に応えよ精霊。原初の明かりたる焔もて、焼き尽くせ』」


 ぼうっと彼女の前に浮かんだのは、こぶし大の炎だった。


「……え?」

「ラヴィア、前へ放って」

「は、はいっ」


 ひょろりひょろり、ゆらり、と炎は飛んでいく。

 そして地面に到達するや――ゴウッと高さ3メートルほどの火柱が立ち上った。


「う、ウソ……」

「範囲は狭いけど、火勢はさっきのファイアブレスより強いね。燃焼時間もおよそ倍、か」


 火が消えた場所をヒカルはチェックする。手にした棒きれで土を掘り起こしてみると、炭化の深さが他の場所よりも深い。


「……威力はおよそ2倍から3倍かな? エネルギー保存の法則が仕事してるな」

「ちょ、ちょっとヒカル!? どういうこと!?」

「ラヴィアがやったんだろう? 僕に聞かれても」

「でもさっきまではできなかったのよ。あなたが――」


 なにかを言いかけて、ラヴィアは、ふう……と息を吐いた。

 さすがに怪しまれるよなあ、とヒカルは思う。


「ヒカル」

「うん」

「……私は、一生分の運を使い切ってしまったのかもしれないわ」

「急になに?」

「あなたという人物と出会ったことで、ね」


 ラヴィアはヒカルの能力を追及もしなければそれ以上蒸し返すこともなかった。

 ただヒカルに近づいて、そっと手を握った。


「あなたは、私がダンジョンでも戦えることを優先してくれたのね」

「……まあ」

「それは私が、『冒険』に憧れているから?」


 参ったな、とヒカルは髪をかき上げる。

 ラヴィアはほんとうに頭がいい。

 ヒカルが「ソウルボード」について知られる可能性があってもなお、ラヴィアの願いを叶えるために使用に踏み切ったことすらもわかっている。


「ヒカル。あなたも、あなた自身の望みを優先してね」

「わかってるよ。僕の望みは――とりあえず世界を回ることだから。それにはダンジョンだって含まれてる」


 ふたりは歩き出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] ドゥンドゥンやろうじゃねえか!
[一言] まさかホットドッグでバレるとは。 師匠とまで言われているからもう時間の問題か。
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