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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第7章 DRAGON SLAYER

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邪龍討伐戦

書籍版「察知されない最強職ルール・ブレイカー4」が4月30日に発売されます。今回はポーンソニア王国の王宮陰謀編ってところでしょうか。

よく「○万文字追加しました!」みたいな告知もありますが、この作品は完全に書籍版は別物なので、およそ13万文字新たに書いています。

内容的にもかなりよくできたと自負していますので、継続読者の方は是非お買い求めを! 未読の方はこの機会によろしくお願いしますー! 八城先生の描かれた、素敵バージョンのポーラが目印です!


 黒い壁のようでもあったし、黒い山のようでもある。全身を見渡すことができないほどに巨大で、以前戦った灰貴龍よりもずっと大きいとヒカルは感じていた。

 ヒカルたちがたっているのは、伏せるようにしている邪龍の顔の横。ちょうど首が見える場所だ——首、と言っても横に10メートルほどはあるが。


(ちゃんと見るとつるりとした表面ながら鱗がある。鱗は……僕の手のひらサイズか。意外と細かいな)


 周囲は濃い瘴気に包まれており、ヒカルたちも長くはいられないだろう。すでに頭がくらくらしている。体力をほとんど消耗していないヒカルですらそうなのだから、ヒカルが抱きかかえているポーラはさらに苦しいはずだ。


(ここまで来れば迷う必要はない——さっさと決着をつける)


 ヒカルは横にいるラヴィアにうなずきかける。

 作戦、開始だ。


「――『我が歩みし聖道は罪過を贖う道にして、前途は険しく、囲繞する山嶺のごとき試練に、矮小なるこの身の心は萎縮すれども』――」


 ラヴィアが構えた銀色のショートワンドに光が走る。この杖はヴィル=ツェントラで買ったものでその店で最も高価だったもの——25万ギランもした。

 だが魔法の取り扱いにおいては非常に有用で、コントロールの難しい魔法も比較的簡単にこなせるらしい。

 昨晩、初めて覚えた(・・・・・・)魔法もこうして使えるようになったのはショートワンドのおかげでもある。


「――『常世に清浄なる光もて、昏く細き道を照らしたまえ』」


 ショートワンドから発する光はラヴィアを包み込む。今までの彼女の魔法とは違い、魔法陣が出現しない。そして光も——白。ちりちりと周囲の瘴気とぶつかっては押し返していく白色の光だ。

 ラヴィアと話して決めたことは、彼女の攻撃力をどこまで高められるかということだ。ソウルボードの残りポイントは6あった。「精霊魔法」の「火」に4を足して10にすることを真っ先に思いついたが——ヒカルは、灰貴龍との戦いについて思い返していた。

 敵が「聖」ならば「邪」。「邪」ならば「聖」をぶつけるべきだ——ヒカルは「直感」に従ってソウルボードを操作した。

 ラヴィアの「精神力」をアンロックし、「信仰」の「聖」に4ポイント振った。

 彼女はすでに知っていた。「聖」属性と「火」属性の混合魔法(ミックス)が存在することを。

 本の虫で勤勉で、あらゆる書物を読み込んできた彼女だからこそ知っていた魔法だ。


贖罪の聖炎アトーンメント・フレイム


 放たれる白の業火。

 だがそれが発動する前にヒカルは走り出していた。

 彼女の魔法を直撃させても、邪龍に致命傷を与えられるかはわからない。特に鱗が厄介だ。ヒカルの「魔力探知」では鱗の表面に薄い魔力の膜が張られているのがわかる——攻撃魔法を低減する働きがあるのだろう。

 であれば、鱗を事前に破壊する。

 ヒカル自身もまたソウルボードを操作して新たな力を手に入れていた。「武装習熟」の「小剣」2である。

 脇差しを抜き放つと、そこから恐ろしいほどの魔力があふれ出す。だというのに邪龍が気づいた様子もないのは、「隠密」のたまものだ。


(——見えた)


 すでにヒカルの足下は黒の地面と変わっており、靴が音を立てて瘴気に侵食されていたが構わない。

 視線はたった1か所だけに向けられていた。


(あそこだけ、色が違う(・・・・)


 龍の喉元に生えている逆向きの鱗。

 そこには強大な魔力が集中している——「龍の逆鱗」である。

 高さはヒカルの頭より少々上、十分届く、脇差しを振り上げ、切っ先が逆鱗に迫る。


《————…………!!》


 その瞬間、邪龍が目を開いた。

 なぜ——。

 いや、考える時間などもはやない。

 身じろぎした邪龍の逆鱗に、脇差しの先がかすかに届き、その半分を切り裂く。


《ァァァアアア————》


 噴出する魔力と瘴気。

 そこへ、白の業火が襲いかかり邪龍の首を覆っていく。


《アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》


 攻撃直後でバランスが崩れていたヒカルの身体が後ろに倒される。だが昨日の「咆吼」ほどではない——あれは攻撃用のなにかで、今のは単にダメージを受けた「悲鳴」だからだろうか?

 転がったせいでヒカルはラヴィアとポーラのところに戻された。

 邪龍のダメージは——。


《……ジュルルルブブブブブ》


 首の一帯が焼け焦げ、真っ黒な血があふれている。


(殺しきれなかった……!)


 それでも邪龍は生きてこちらを見下ろしている。

 おそらく邪龍にも「直感」的なスキルがあるのだ。だから、首の皮一枚つながった。

 邪龍にはもはや油断はない。


《……まさか……矮小なる人間が我に傷をつけるとは…………》


 地響きのような言葉が聞こえる——だが実際には言葉を発したわけではなさそうだ。じわりじわりと意志が伝わってくるのだ。


《魔法の詠唱をした瞬間、周囲一帯を焼き尽くす》


 杖を構えようとしたラヴィアがぴくりと腕を止めた。

 じぃ、と邪龍は侵入者たちを見つめた。




 身動きせずじっとしていたのは眠っているわけでも疲れているわけでもない。邪龍は、大地にその邪なる魔力を送り込むためにじっとしていたに過ぎない。

 現在もなお健康そのものだ——死にかけたことは間違いないが。


《我は今、貴様らに興味を持っている。その顔をよく見せよ……なんだそれは? 仮面をつけているのか? 外せ(・・)


 今、邪龍は、死にかけたことよりも強い興味に従って行動していた。

 自身の眷属——飛竜といった竜種——以外でこの場所へやってくるような者など皆無だったし、眷属の考えていることは言葉を交わさずとも理解できる。

 実のところ、手先として動いていたコウキマルたちですらこの大地に来たことはない。瘴気が濃すぎるのだ。

 それなのに、まさか人間ごときがここまでやってきて自分の命を狙うとは。

 圧倒的強者としての余裕もあって、邪龍は侵入者に話しかけていた。


「っ……!」


 侵入者は仮面をつけていた。仮面など龍は気にしないのだが、なぜだか素顔を見てみたいと思ったのだ——これも単なる興味でしかないが。

 仮面を取るのを嫌がっているのか、人間は抵抗しているようだ。ひとりは、ぐったりとして動かない。

 しかし邪龍の「言葉」は他の矮小なる生物に対してはある種の強制力を発揮する。生命の本能に訴えかける命令なのだ。


《ほう……?》


 銀の仮面が取られたその顔を見て、邪龍は少々拍子抜けした。

 ふつう(・・・)だ。

 もちろん、修羅場をくぐり抜けてきたらしい迫力はあるものの、自分の命を脅かすような恐怖は感じないのだ。

 拍子抜けしつつ、少々不思議ではあった。

 あの瞬間、自分を殺そうとした殺気——それは、目の前の少女たち(・・・・)からは感じられない。


《我が逆鱗を破壊したのはその杖で、か……? ふむ、どのような手品だ》


 少女は顔を伏せている。


《答えよ》


 彼女の口元がにやりとしていることに——邪龍は気づかなかった。




 邪龍の悲鳴(・・)によって吹き飛ばされたヒカルだったが、即座に次の行動に移っていた。


「——ラヴィア、『隠密』を解いて」

「わかった」


 それだけで彼女には通じたらしい——時間稼ぎ、そして、囮を務めて欲しいという意味が。


(僕は最低だ)


 自らは「隠密」によって姿を消し、邪龍に相対しているラヴィアを見ていて叫び出したいほどに自分が許せない気持ちになる。

 ポーラには死ぬほどキツイ目に遭ってもらい、ラヴィアには自分の代わりに囮になってもらう。それも大陸最強の邪龍を相手に。


(だから絶対に殺す)


 ヒカルは邪龍の死角でリヴォルヴァーを構えていた。

 邪龍は、侵入者が何人なのかを知らない。

 そして魔法の執行には詠唱が必要だという常識に染まっている。

 この距離ならば外すことはない——。


(——行け)


 弾丸に込められた魔法は「贖罪の聖炎アトーンメント・フレイム」。「邪」に連なる者どもを焼き尽くす魔法だ。

 ラヴィアとポーラだけが侵入者だと考えている邪龍ならば外すこともない。

 心は、ひどく落ち着いていた。

 引き金を引いた。


《————ッッッッ!? ————》


 このタイミングにおいてなお、邪龍の「直感」が働いたことは予想の範囲内だったが、距離は近く、確実に命中するはずだった。

 リヴォルヴァーの調子が、万全であれば。


「!!」


 銃身から魔法が放たれる瞬間、暴発した。

贖罪の聖炎アトーンメント・フレイム」の威力は半減し、速度もずっと遅く、邪龍へと迫る。


《——ぬうう!!》


 だが邪龍も早かった。頭を下げることで白の業火をかわしたのだ。後頭部の一部を焼かれたが龍にとってはたいしたことのない軽傷だろう。


《フ……ハハハハ! そうか、もうひとりおったのか! あの殺気、貴様が持っていたのだな——》


 幸運によって攻撃を受けなかった邪龍には余裕が戻った——のだが、


《——な……?》


 電流のような衝撃が、その巨体へと走った。

 邪龍は気づかなかった——頭を垂れたということは、頭の位置が、首の位置が、下りて地面に近づいたということ。

 逆鱗に、ヒカルの手が届いた。

 脇差しの刃が逆鱗を、邪龍の首を、真っ二つに叩き斬る。

 刀身の長さ的には首の半分も届かないはずだが、脇差しに込められた魔力が首の奥までめり込んで今度こそ、物理的に、首の皮一枚のところまで傷を負わせる。


《————ご、は………………》


 邪悪な魔力が噴き出す。汚れた血とともに。

 ヒカルは背後へと跳躍し、ラヴィアのところへと走る。


「ラヴィアッ!!」

「『贖罪の聖炎アトーンメント・フレイム』」


 ヒカルが言う前に、追加の一発をラヴィアはすでに詠唱していた——まったく、頼もしいことこの上ない。

 白の業火がヒカルの横をすり抜ける。入れ替わるようにラヴィアのところへとやってくると、ラヴィアもまた力を使い切ったのか、くずおれるように倒れかかる。


「セーフ」


 すでにぐったりしているポーラと、荒く息を吐くラヴィアを、ヒカルは両腕で抱き留めた。

 ヒカルの背後で爆音が起き、周囲が白色の光で照らされる。

「魔力探知」で感じられるのは邪龍から大量の魔素が放出され、今でこそ「贖罪の聖炎アトーンメント・フレイム」が防いでいるものの魔法が途切れれば暴走しそうな状態であるということだ。


「走るよ! ちょっと我慢してて」


 ヒカルはふたりを両脇に抱えて、走り出した。

 ずぅぅん……と地響きとともに、巨体が倒れ伏すのが聞こえてきた。

 しばらくしてヒカルの身体は、むずがゆいような、そわそわするような感覚——「魂の位階」が上がる感覚に襲われた。

 それも、強烈に。

 ぐったりしている少女ふたりが「ひゃん!」と声を上げてしまうほどには。

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