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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第7章 DRAGON SLAYER

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総力戦と北限地域

 結界の魔道具を撤去したランズハーヴェストがあっけなくモンスターによって陥落すると、次に狙われるのはドリームメイカーだった。

 雲霞のごとく押し寄せたモンスターは、しかし、新たに製造された結界の魔道具によって阻まれ、城壁にすら到達できない。その間に城壁の修繕を終えてしまうことが各国軍の目的だった。


『——撃てェッ!!』


 特に北方からのモンスターが厚く、城門に並べられたブラストキャノンが火を噴く。弾頭は結界を素通りし、その先にいるモンスターを蹴散らしていく。


「右、抜けてるぞ! 冒険者チーム行け!」


 結界と城壁の間には軍と冒険者が展開し、それぞれが得意な場所を受け持った。

 組織的に動いて高い火力を出すのは軍のほうが得意だし、結界をすり抜けたモンスターを機動的に倒すのは冒険者向きの仕事だ。


「ソリューズ、時間を稼いで! 詠唱するわ!」

「わかってる!」

「サーラさん、ひとり兵士さんが捕まっています」

「はいはい〜」

「ソリューズ! 矢が飛んでくるから!」

「わかってるって! ああ、もう、忙しいなぁっ」


 さすがの「東方四星」も敵の多さに辟易としていた。

 もう、10日も戦い続けている。

 ランズハーヴェスト防衛戦でも彼女たちは活躍したが、今回は守備範囲が広すぎる。ドリームメイカーが巨大な要塞になっているせいでそのぶん担当しなければならない場所も広い。


「「『東方四星』、そろそろ交代だ」」


 彼女たちのいた場所ヘやってきたのはラムとレッグ——ランクA冒険者パーティー「ヒュージツインズ」の双子である。


「ああ、ありがと——」


 言いかけたソリューズは、ぎくりとする。

 ラムとレッグがいるのは構わないのだが——その後ろには統一された黒の防具に身を包んだ、100人を超えるパーティーメンバーがいたのだ。

 そして10を超えるのぼり(・・・)を背負っている。


「……一応聞くけど、ここの防衛に入るっていうことだよね?」


 ソリューズの問いに、双子がにやりとする。


「「いーや」」


 そして同時に手を挙げた。


「「やられっぱなしは性に合わないからね! ——押し返すぞ!!」」


 彼らが手を前方に振り下ろすと、100人のパーティーが喚声を上げて結界から外へと踏み出していった。




 一見、無謀にも思えた「ヒュージツインズ」の作戦だったが意外なほどに戦果を収めた。モンスターは大群であるが秩序だって動いているわけではない。だから、一箇所を崩されると混乱をきたすのだ。

 結界と城壁とで手堅く守ろうとしていた当初の作戦は、悪くはなかったが、リスクを取らなすぎたということだろう。


「おおっ、モンスターが退いていくぞ!」


 監視塔にいた兵士が叫ぶ。

 はっきりとわかるほどに生き物の気配が引いていく。


「やりましたよラム様! レッグ様!」

「見せつけてやったぜ!」

「「みんなお疲れー」」


 結界内へと「ヒュージツインズ」の面々が戻ってくると、他の冒険者が指笛ではやしたて、兵士たちからは歓声と拍手が起きた。


「…………」

「ソリューズ! こういうときは褒めなければダメよ!」

「ん……セリカか。休まなくていいの?」


「ヒュージツインズ」と入れ替わりで「東方四星」は休憩に入る予定だったが、ソリューズだけはここ城壁の上から戦線を見下ろしていたのだ。


「ソリューズこそ! 休めるときに休まないと、体力がもたないわ!」

「あ。もしかしてシュフィに連れてこいと言われた?」

「そうよ!」


 リーダーである自分がちゃんと休息をとらないとあっては面目なく、苦笑してしまうソリューズ。


「……私はね、セリカ。『ヒュージツインズ』のことを気にしていたんじゃないの」

「そうなの!?」

「このままじゃ終わらないだろうと……こんな物量に物を言わせた攻撃じゃ終わらないだろうと思ったの」

「ソリューズ!」


 セリカが遠くを指差した。


「あなたの予想通りね!」

「えっ」


 セリカが指した方角は、東だ。

 森林の上に、ぽかりと浮かび上がった——上半身。


「は、はは……まさか、あれがヤママネキ?」


 さすがのソリューズも、このレベルの巨大モンスターには警戒する。

 しかもそれが、


「5、6、7……これ、10体超えてるよね?」


 ぞわりとしたイヤな感覚が背中を走る。

 こういう感覚を無視してはマズイ。危険と隣り合わせの冒険者にとって、生きるか死ぬかの感覚は大事にするべきだ。

 つまり——あんなのを相手にしていたら命がいくつあっても足りないということだ。


「総力戦よ!!」


 怯むどころか生き生きとセリカは城壁を走り降りていく。


「先に魔法を撃ついい場所を確保するわ!」


 と、言い残して。


「いや……その前にもうちょっと、こう、恐れるとか、怯むとか、そういうのはないのかなぁ……?」


 呆れながらもソリューズは東を観測する。


「……真っ直ぐにこっちに向かっているんじゃ、ないね? なんだろう……誰かが戦っている? まさか、あんなところで、10体もの巨大モンスターを相手に?」


 それが「花仮面の女神様親衛隊」であることをソリューズは知らない。だが、わかることもある——。


「はー……参ったね。この世界には命知らずな(バケモノ)人間が結構いるってことか」


 ぴしゃり、と頬を叩く。


「私も負けてられないな」


 セリカが走り去った階段を飛ぶように駈け下りながら彼女は思う——別のバケモノのことを。


(ここのところずっと彼の姿を見ていない……どこに行ったんだい、ヒカルくん?)




 グランドリーム大陸を、北へ北へと向かっていくと木々の色が変わっていくのがわかる。青々とした緑に紫色の斑点が混じり、やがて全体が紫に冒されていく。

 流れる川の水もどろりとした黒が混じり、生き物もまた鮮やかさを失っていく。

 それでも生命の密度が変わっていないのは、「邪」であるというそのことが、「聖」の反対である——つまり性質の変化に過ぎないからだろう。邪に連なる者の中で生命のサイクルができあがっているのだ。


 ちょうど大陸の中央に巨大な湖がある。この湖には大きさを測ることもできないほど巨大なウナギ(・・・)が棲んでいる。


 北東エリアは干上がった砂漠地帯があり、そこには自動車サイズの大サソリが数万という単位で棲んでいる。


 ひときわ大きな樹木には、数十数百万という鳥類が棲んでおり、その主である鷲は4枚の翼を使い雷光とともに音速を超える。


 気候が変わり肌寒くなる草原エリアにはヤママネキと同等の巨大な肉体を持つトロールの集落があり、巨体に見合わぬ俊敏な動きをしている。


 北限の山脈から赤い川が流れているが、これは溶岩の川で、夜には赤々とした光が血管のように浮かび上がる。


 北の海にはひときわ巨大な海棲モンスターがいるために船でのアプローチはできない。また岩礁も多く潮も速いので操舵は非常に難しいだろう。


 そういった、侵入者にとっては過酷な地を抜けた先に——高い山脈に囲まれた盆地があった。

 盆地の周囲は恐ろしいほどの静寂に包まれている。吹く風すらこの場所を避けているかのようで、灰色の瘴気に沈んでいた。

 例えるならば巨大なカレー皿だ。そのサイズは桁違いで——1つの村をまるごと収めてもあまりが出るほどである。

 瘴気の中を歩いていけば足下が黒ずんでいることがわかるだろう。あらゆる生命が消え、静寂のみがそこにはある。

 だが、たった1つだけ、命があった。

 盆地の中心部には巨大な龍が——邪龍が寝そべっていた。瞳は閉じられたままであり、身体にはホコリが降り積もっている。

 うっすらと立ち上る黒い瘴気が空気に溶けて灰色へと変わっていく。

 その全長はどれほどだろうか——瘴気に隠れてしまって見えない。

 だが10両編成の電車よりはずっと長いようだ。


《………………——————————ッ》


 それはなんの前触れもなかった。

 邪龍の瞳が突然、開かれた。

 直後、その巨体を揺らすほどの衝撃と、熱。続けざまに3発の大火球が撃ち込まれた——。


 邪龍が、吠えた。


 大音声は衝撃波となって盆地を囲む山をいくつか崩していく。灰色の瘴気は空へと拡散されて日の光の下に邪龍の姿がさらされる。

 ホコリや砂が落ちた身体には漆黒の鱗がある。身体のあちこちには巨大な古傷が残っていたが、今飛来した火球は鱗によって阻まれ、表面を焼いて煙を上げているもののダメージはほとんど通っていない。

 身体を起こした邪龍は周囲を睥睨する。

 そこには——誰もいない。

 だが今、自分を襲ってきた火球は本物だ。


《—————ルルルルォォォォォォ…………》


 喉を鳴らす——と、遠くから邪龍の眷属たる飛竜が大量に押し寄せる。その数は100に届くかと言うほどで、ギャオギャオと空を旋回してわめいたと思うと、周囲に飛んでいった。


《……………………》


 邪龍はそのまま動かず、1時間ほどじっとしていた。

 だがその後になにもないと、身体を横たえた。


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