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察知されない最強職《ルール・ブレイカー》  作者: 三上康明
第7章 DRAGON SLAYER

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知恵者の誤算

 モンスターと軍勢が衝突する。それはいつ終わるともわからない先の見えない戦いだ。

 森の奥からモンスターはやってくるようだが、倒しても倒しても次のモンスターがやってくる。


「気をつけろッ! このオーク、統率が取れているぞ!」

「奥から骸骨弓手(スケルトンアーチャー)が矢を撃っている!」

「次から次へと!」


 多種多様なモンスターに、規則性は見当たらない。そのため臨機応変の戦い方を強いられ、人間側の前線はあっという間に崩れつつあった。


「敵の偵察だ! 捕らえろ!」

「このッ、外道ども! モンスターと手を結ぶとは!」

「違う!!」


 連合国軍本陣付近では、両手を挙げているジンに背後から兵士が襲いかかり、前のめりに倒させる。同様に他の部隊メンバーも組み伏されていた。


「殺してやる!」

「俺たちは、使者だ! 話を、聞け!!」

「なにが使者だ! 砲弾を撃ち込みやがって!」


 ジンたちは本陣深くまで入り込んでいたが、さすがに連合国軍のトップに会う前に見つかっていた。


「街に、入れる! お前たち、全員!!」

「なに——」


 剣を振り上げていた兵士が、さすがにその言葉には手を止める。


「——敵の偵察を捕らえたとはまことか!」


 遠くからやってくるのはフォレスティアの陸軍大臣だ。

 首脳のひとりが来た——チャンスだ、とジンは感じた。無理をした甲斐があった。

 だがそのときだ。

 北方から強烈な爆発音が聞こえてきた——。




 森林を走っていくモンスターたちを上空から見下ろすと、それは黒い濁流が流れていくかのようでもあった。

 多くの巨鳥が舞っていたが、ひときわ大きな鳥に——ひとり、またがっている者があった。

 白目の部分が黒く染まった男、コウキマルは特になんの感慨もなくつぶやく。


『所詮は人間。知恵があまりに浅い』


 竜石を持ち帰らせ、精神を汚染する。仲違いが始まったところへモンスターをぶつければひとたまりもないだろう。


『……しかし、これほどの人間を連れてくるとは。ドリームメイカーの現国王はそれほどにできる男だというのか』


 向こうの事情がわからない。

 一度、ドリームメイカーを陥落させたときに見た限りではそれほどの辣腕だとは思えなかったのだが。


『いずれにせよ、これで終わりだ……ッ!?』


 トン、と巨鳥の身体が揺れたように思われた。

 風に揺られたとかそういう感触ではない。なにかが、巨鳥に降り立った(・・・・・)かのような——。


『……さすがに座ってる場所が揺れたら気がつくよな』

『お前は何者じゃ!? どうやってここに来た!?』


 5メートルほどの距離があったが、そこには先ほどまでいなかった黒いフード付きマントに白銀の仮面を身につけた少年が立っていた。

 彼は筒のようなものを自分の腕に押し当てていたようだが、そこにきらめく黄金の光が発した。


『ふー。これ、痛いからあんまりやりたくなかったってのに……まあ、アンタが高みの見物を決め込むだろうとは思っていたし、覚悟はできていたけどな。コウキマル』

『……ワシの名前まで知っている?』

『そりゃあね。あれだけ暴れたアンタならみんな知ってるさ。だけどどうしてアンタはあの街を破壊しなかったんだ?』

『……ふん、破壊する意味もなかっただけじゃ』


 半分ほんとうで半分がウソだった。

 コウキマルは街を破壊するつもりがあったが、モンスターを長時間操ることは難しい。実際、コウキマルが乗っていた銀竜はコントロール不能になってドリームメイカーの男を——ドゥインクラーを——食った。

 破壊するつもりはあったができなかったのだ。

 もちろん、破壊したところでなんの意味もない、というのもまた事実なのだが。


『そうか。で、銀竜はどこだ?』

『ッ!』


 その瞬間、銀仮面の身体からぶわりと殺気が膨れ上がったようにコウキマルには感じられた。


(こやつ……何者!!)


 コウキマルはまたがっている巨鳥の首をぐいと押した。これは「降下」の合図である。この場での戦闘行為は落下につながり極めて危険だという判断だった。

 相手はなんらかの手段でこの場へとやってきた。降りる手段も持っていると考えたほうがいい。であれば落ちてケガをするのは自分だけということになる。

 降下までの時間稼ぎにコウキマルは言葉を接いだ。


『銀竜は、ここにはおらぬ……アレはワシの命令を無視することも多く、手に余るからの。お前、もしや銀竜が食った人間の仲間か』


 コウキマルの脳裏によみがえるのはドリームメイカー崩壊の日。

 手綱を取っていたはずの銀竜が勝手に動いて人間を食らった——。


『銀竜はどこにいる』

『……ここよりずっと北じゃ』

『邪龍のいる場所か』

『!?』


 なぜ、そのことを知っている——コウキマルは、相手がそこまで事情に通じていると知って凍りついた。


『お前は……まさか、我が主を討とうというのか。バカな。人の身であのような貴き方に刃を向けようとはな!』

『…………』

『見よ、この大地を。我が主の深謀遠慮によって人間の軍勢が制圧されようとしているではないか!』


 眼下ではちょうど、連合軍とモンスターが激突を始めたときだった。


『……アンタ、ドリームメイカーにいたときにはもうちょっと頭が働いていたんじゃないのか』

『どういう意味じゃ』

おれ(・・)がここまで来てるんだ。アンタが手引きした襲撃なんて想定済みだ』

『ふっ、ふふ。ふふふ。ふざけたハッタリじゃ』

『これを見てもそう言えるか?』


 銀仮面の男は右手を挙げた。その手に握られていたのは鏡だ。

 鏡を傾けて光を送っている——なんらかの合図だとコウキマルは気がついた。


『ほら』


 男が指したほうを見てコウキマルはぎょっとした——300メートルほど離れたドリームメイカーの城壁。そこから放たれた巨大な火球は、この巨鳥よりもさらに大きく、殺到していくモンスターのど真ん中に落ちていく。

 ドォォォン……と衝撃波が走ると同時に炎が荒れ狂い木々を、モンスターを、焼いていく。とてつもない火力の柱が立ち上り、上昇気流が発生、コウキマルのいる場所まで急な風が吹いてきて巨鳥がバランスを崩す。


『な、な、なん、なんだ、あれは……』

『おれが知りたいのは銀竜のことだけだ。アンタは、アンタの国の人間に裁かせる』


 まだ衝撃覚めやらぬコウキマルへと銀仮面はそんな言葉を言った。


『だがまあ、アンタが生き延びればの話だがな』

『お前、それはどういう——!!』


 銀仮面は踏み台から降りるような気軽さで、巨鳥の身体から飛び降りた。ハッとして身を乗り出したコウキマルは、銀仮面の背中から骨のようなものが生え、そこに翼が現れるのを見た——それがハンググライダーであることをコウキマルが知るはずもなかった。

 ハンググライダーは、荒れる気流をいなしながら離れていく——。


『アイツはいったい何者なんだ……。これは、一度撤退し、我が主に報告したほうがいいやもしれぬ』


 コウキマルは巨鳥の首をぽんぽんと叩いた。「帰還」の合図である——のだが。


《ギイイイエエエエエエエエエエ!!》


 巨鳥が大きな声で鳴いた。

 矢が、巨鳥の顔に突き刺さっているのである。


『狙撃だと!? いったいどこから!?』


 視線を感じた。

 コウキマルが見たのは、ドリームメイカーの城壁。

 そこに立つ小さな魔法使いと——その魔法使いは再度巨大な火球を放り込んでいるのだが——横に立つがっしりとした体躯の男だ。

 男はドリームメイカーの住人らしき紫がかった褐色の肌をしていた。

 手にしているのは大弓。まさかこの距離を狙撃したというのか。

 男の周囲には同じように武装した男たちがおり、中央には灰色の修道服を着た仮面の女がいた。


『生き延びればの話……とはこういうことか』


 巨鳥はバランスを崩し、落ちていく。コウキマルの眼前に森が迫っていた。

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